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「なぜ逃げる。」
「貴方に見られたくないからに決まってるでしょう!」
先程、大衆の前で告白してきた男、バーンに付きまとわれユナは少しイラつきながら夕食を食べていた。かれこれ5回は席を変えているのにその度に一番近くの席に座りユナの食事風景をガン見するのだ。ユナにとっては迷惑極まりない。
話はバーンがユナに告白した直後にもどる。
ユナに瞬時に断られたばバーンだったが全く諦めなかった。
「やはり何も知らない男からの恋情なんて受ける訳が無いな。俺の名前はバーンだ。これでもBクラスの冒険者をしている。」
「だから何よ。宿屋に言いがかりをつけたり女の子の身体を勝手に触るような変態の告白なんて受ける訳が無いでしょ。」
「まあ聞きたまえ。俺は心を入れ替えたのだ!君の足の温もりを知ってからこの宿屋の娘なんかには興味はない。虫を入れた事も誠心誠意謝ろう。どうだ店主、これで良かろう?」
尊大な態度でヘレンに謝罪の意を示したバーンだったが、そんなものが受け入れられる訳もなくこの迷惑な男をどうやって追い出すかヘレンとユナは頭を悩ませていた。
「ねえ、お母さん。この人の謝罪受けようよ。」
ヘレンの後ろからひょっこり顔を出したのはヘレンに似てワガママバディが眩しい看板娘のカレンだった。
「謝罪を受ける代わりに慰謝料と出禁撤回料として金貨8枚と高級魔牛サローウィンを丸々二頭狩って来てくれたら水に流します。Bランク冒険者なら軽いですよね?」
カレンは笑顔で中々酷い要求をした。
魔牛サローウィンはBランク冒険でもペアでの狩りを推奨される凶暴な魔獣でそれを二頭となると冒険者としてAランクに近い実力が必要になる。金貨8枚にしてもきちんと月に数十件の依頼を達成し稼げる冒険者でなくては払うことは不可能であろう金額だ。
つまり、普通ならお断りな内容をカレンは提示したのだ。
しかし、バーンはそんな事で良いのかとアッサリ金貨8枚を差し出し二時間後にサローウィンを二頭担いできた。
「これで出禁は解除だな。」
「毎度あり~。」
こうして晴れて出禁では無くなったバーンは部屋を取り夕食を食べるユナを発見すると一緒に食べようと許可もなく近くに座ってきた。
現在、ユナは6回目の席替えを考えている。
「避けるくらいならまた俺を蹴ってくれた方が嬉しいな。」
「しない!絶対に!!」
バーンは性格はアレだが見た目は良いのでヘレンとカレンは女性客が少し増えホクホクしていた。