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バーンはヴィルーヴの着地を狙って剣を構える。しかしヴィルーヴは空中で姿勢を変えてバーンに木の枝を投げつけた。バーンが枝を腕で払うと枝は地面に刺さる。
「挿し木。」
ヴィルーヴの声を合図に枝は木に成長する。木に囲まれたバーンは葉が邪魔をしてヴィルーヴが視界から外れた。
「くそっ!」
木が邪魔をして剣が振れずバーンは上に飛んだ。葉の間を抜けると目の前にはヴィルーヴの顔がゼロ距離にある。
「いらっしゃい。」
ヴィルーヴはバーンの右肩を掴み左袖に隠していた暗器、袖箭を打ち出した。
「ぐあっ!」
袖箭の矢が肩に深く刺さり強烈な痛みと熱さがバーンを襲った。
剣を握る手が緩むが何とか落とさずに痛みに耐えて握る。
「騎士様は耐えましたか。まあ毒が塗ってあるんで大人しくした方が良いですよ。」
ヴィルーヴが両手で木の枝を掴みバーンを蹴り落とすと、地面に叩きつけられたバーンが呻き声をあげる。
バーンが直ぐに起き上がって来ない事を確認し、ヴィルーヴは木の上から氷の壁の中を覗き込んだ。
「さあ殿下、貴女の騎士様は片付けましたよ。」
「バーンはそんなに弱くないのよ。」
ヴィルーヴを見るユナの瞳には恐怖の色は全く無い。虚勢か何かあるのか判断できず警戒しながらもヴィルーヴは氷の壁の中に毒の煙玉を投げ込んだ。
毒を吸い込んだ馬が痙攣しながら倒れ込む。死なない程度に薄められた毒はただ苦しみを与える。
しかし苦しんでいるのは馬のみでユナは微動だにしていなかった。
「何故…。」
「土人形に毒が効かないのは当然でしょ?」
ヴィルヌーヴは背後から聞こえた声に反応し振り返るが顔面に回し蹴りを喰らい空中に投げ出された。そのまま自由落下するが、受身を取りダメージを軽減させる。
「…ッ…しぶとい騎士様だ。」
「うちの姫は人使いが荒いんだよ。」
先程まで重症を負っていたはずのバーンは幾分か顔色が良くなり肩に刺さったはずの矢も無くなっている。ヴィルーヴはバーンの後ろに隠れる様に立つ存在を恨めしそうに睨みつけた。
「本当に…あの小さな姫さんが立派になった事で。……剪定。」
ヴィルーヴが手をかざすユナとバーンの足元の木々が細かく切れていく。靴の力で飛んでいるユナとバーンは落下することは無いが細かな枝や葉が舞い二人を襲う。
「あ゛~地味に痛え!滅。」
「「……は?」」
敵同士でありながらバーンとヴィルーヴの心は一つになった。
バーンは足元を対象に滅を使った。すると元凶の木は勿論地面すら抉れそこの見えない巨大な落とし穴が誕生。ヴィルーヴはギリギリ範囲外だったようで数センチ先の地面が無くなる。
「出力設定をもう少し絞るべきだったかな。」
冷静に分析するユナの肩の上でユンギが真っ青な顔でブルブルと震えた。
間違いない即死攻撃。こんなものを見せられたら普通は慌てて逃げるがヴィルーヴは武者震いし顔が勝手にニヤつく。
「面白い、面白いな!こんな感覚初めてだよ。素晴らしい力だ!」
「ん~困ったな。ヴィルーヴさんを仲間に引き入れたかったんだけどな…。」
「え゛。マジか…。無いだろ。」
「バーンならやってくれるって信じてるわ。」
「…今の俺には殺る方が簡単そうだな。」




