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表も裏も庭師として働くヴィルーヴは幼い王女を監視していた一人だった。
ただし、他の庭師とは違い会話をして逃亡を計っていないか情報を集める役割も担っていた為、よく話をして探りを入れていた。
小さく無力な王女に味方と思わせて懐柔し、もし逃亡を計れば阻止して監禁する。
当時のヴィルーヴは子供なんて簡単に騙せると軽く見ていたが、実際は行動を把握され庭師の存在もヴィルーヴの任務も知られていたのだから情けない。
「久しぶりに思い出話に花を咲かせましょう。真っ暗な箱の中で。」
「お母様に伝えて下さい。貴女の娘は死にましたと。」
言い終えると同時にユナは馬の周りに風を発生させて取り囲んでいた男達を吹っ飛ばした。
「ユンギ、氷の壁で囲って!!」
ユナの肩に乗っていたユンギはその言葉に従って馬の周りを氷の壁で覆った。ヒヤリとした空気に身震いしながらもユナは収納から一振の剣を取り出す。
「バーン、貴方の為の剣よ。存分に振るってきて。」
「俺の…。」
ユナに手渡された剣は漆黒の鞘に収められていた。バーンはゆっくり鞘から剣を抜き刀身を眺める。
「ガッタさんの作品に私が付与をしたの。火鏡・炎龍・滅が付与の発動ワードよ。」
「三つもあるのか!スゲー!!ユナまじで愛してるっ。」
「……。」
戦いの最中にも関わらず甘い雰囲気と自身が空気すぎてユンギは少し照れて赤くなったユナの頬をつついた。
「んじゃ行ってくるわっ!」
バーンは氷の壁を飛び越えるとヴィルーヴを見据えて〈火鏡〉と呟いた。するとヴィルーヴの身体の数箇所と手にしている剣が光る。
「なるほど、武器が光るのか。しかもアイツが気にしてないって事は俺にしか見えてない…?」
バーンが〈火鏡〉を試してる間にユナに吹っ飛ばされた者達が復活しバーンに切りかかる。
七人程が群がるがバーンは器用に攻撃を避けながら的確に急所を狙っていく。
「使うか…〈炎龍〉!」
バーンが叫ぶと刀身に赤い龍が浮かび上がり炎を纏った。静観していたヴィルーヴは直感で危険を察知し仲間達に叫ぶ。
「引けっ!そいつから離れろっ!!」
ヴィルーヴの声で引こうとしたが一歩遅かった。バーンが剣を思いっきり横に振ると刀身に纏っていた炎が刀身から離れ、まるで蛇に喰らわれるかのようにバーンを取り囲んでいた者達を飲み込んでいく。
絶叫が響きヴィルーヴは分が悪いと撤退を視野に入れるがこのまま引けば折檻は免れない。ヴィルーヴは氷の壁に向かって大きく跳躍した。




