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洞窟内で勝負をすると崩してしまう可能性があるのでユナは洞窟全体に硬化をかけた。
「やはり魔法をお使いになれるのですね。」
「少しだけですよ。」
流石に自分の手の内を全て見せたくはないので硬化以外は三人に見せる気は無い。
「いいから早くやろうぜ。」
やる気満々のヤンナが好戦的にバーンを見ているがバーンはヤレヤレといった様子だ。
巻き込まれたのでユナとシンラとユンギは二人から距離を取り見守る体制に入った。
「時間は無制限、致命傷は無しで相手側が参ったと言った時点で終わりです。」
バーンとヤンナはユナの説明に頷くと剣を構え向かい合う。ピリピリとした空気が二人の戦士に纏わりつき合図を待っていた。
「それでは、コインが落ちたら開始です。」
ユナがコインを指で弾くとクルクルと回りながら上昇していく。わずか数秒の間だがその場の全員にはもっと長く感じられ、やがてコインが地面に落ち金属音が響くとバーンとヤンナは勢い良く地面を蹴った。
一気に距離を詰めた二人の勝負は鍔迫り合いから始まった。男女の力の差があるはずだが、ヤンナとバーンの力は均衡していた。
「おいおい嘘だろ?」
「私を女と思わない方が身のためだ。」
ギリギリと鳴る剣が離れたのは二分程経ち剣の限界を感じた二人が同時に飛び退いた一瞬で、またすぐに距離を詰め今度は斬り合いが始まる。
ヤンナの斬撃は硬化をかけているはずの洞窟に浅くだが傷をつくり、受ければ致命傷になる事は容易に想像がつく。
「あれは…」
「申し訳ありません…姉には力加減というものが難しく…。中止になさいますか?」
「その必要はありません。」
シンラはユナの迷いの無い言葉にバーンへの確かな信頼を感じた。騎士と姫と言うような堅苦しいものではなく、恋人と言うには甘さが足りない。
「ユリアーナ殿下は…彼、バーンさんとどのようなご関係なのですか?」
「恩人……仲間ですね。」
「仲間…ですか。」
「バーンは私が信用出来る数少ない人です。」
そう話すユナの顔はシンラには恋人の話をする友人の顔と同じように思えた。
「何となく…あんた本気出てないだろ。」
「いやマジだよ。」
「嘘つくなっ!」
ヤンナはイラついていた。
さっきからずっと決めの攻撃を仕掛けているのにバーンは難なくそれを避けている。今まで戦ってきた相手ならとっくに終わらせているはずなのに今は全く終わる気がしない。
「逃げるばかりじゃなくて!攻撃してこいっよ!!」
いっそう力を入れて斬りかかったヤンナをバーンは受けずに避けた。舌打ちしながらバーンに追撃をするがやはり避けられる。
「なんなんだ!やる気がないのか?!」
「やる気はある。だけど、そうだな……一つ教えてやるよ。戦う時は冷静になる事だ。」
「はあ?説教なんかいらねぇよ!」
ヤンナが剣を振り下ろした瞬間、逃げるばかりだったバーンがヤンナの剣を踏み台にしてヤンナの後ろに飛んだ。振り向き剣を横に振ろうとしたヤンナだったが、バーンが思いっきりヤンナを蹴り飛ばし壁に激突する。
起き上がろうとしたヤンナの首筋にバーンは剣の先を向けニヤリと笑った。
「勝負あったな。」
「くっ……まだだ!!」
ヤンナは自身に向く剣の腹を左手で殴りつけた。轟音と共に剣は真っ二つになりバーンがギョッとしながら後退する。
「お、俺の剣があぁああ!!」
嘆いている間にもヤンナは距離を詰めてバーンに殴りかかる。
「気を抜いてるからそんな事になるんだ…よっ!」
「剣を叩き折るバカはそういねぇよ!!」
避けながら「じぃさんに怒られる~」とブツブツ言っているバーンにユナは勝負を強要した負い目もあり罪悪感でいっぱいだ。
「後で好きな剣をあげるから頑張って!」
「…ハグは?」
「調子にのらないっ!」
「俺の心も折れちゃいそうだな
~」
「ぐっ……一秒だけね。」
「短っ!だが負けられんっ!!」
避けるばかりだったバーンはヤンナの拳を避けその腕を掴み投げる。
ヤンナは壁に激突せずにクルリと回り逆に壁を蹴って再度殴りかかるが、その拳を避けられ鳩尾にバーンの拳が入った。
「悪いな…」
ヤンナの耳元で呟かれた声をヤンナは薄れる意識の中で聞いた。
「これは…参りました。」
シンラは気を失ったヤンナの代わりに負けを認めヤンナの状態を確かめに近づく。すでにバーンが仰向けに寝かせ何事もない事を確認済みで、シンラはそっとその横に座って後から歩いてきたユンギに「大丈夫。」と笑顔を向けた。
ヤンナをシンラに任せバーンはユナの元に来ると両手を広げてハグを強請った。
ユナは仕方なくその腕の中に入り「お疲れ様」と声をかけ直ぐに離れようとする。しかしバーンの腕の力が強く抜け出せずモゾモゾ身体を動かした。
「ちょっと!」
「もう少しだけいいだろ?」
「良くないっ!離れて!剣あげないわよ!!」
「え~。」
渋々離れるバーンの腹にユナは一撃入れそっぽを向いた。




