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月が高くなり見張りが眠気に抗えず寝息を立てると少女は忍び足で牢に近づく。流石に表側では目立つので牢の後ろにまわると、壁の一角をスッと抜き拳大の穴をあけた。
「二人共起きてますか?」
「ええ、私もバーンも起きてるわ。」
「見張りは眠らせたけど寝たフリしてて。」
ユナとバーンは壁にもたれてかかり薄めの状態で少女に返事をする。少女は見張りを眠らせたと言ったが魔法が使われた様子はないので、ユナは念の為見張りに昏睡をかけておく事にした。
「改めて本当にごめんなさい。私はユンギっていいます。」
「聞きたいことはたくさんあるけど…まずは、ユンギは私達を助けようとしてくれてるの?」
「そのつもり。」
ユンギはユナよりも背が小さく十歳程に見える。ユナもバーンもそんな少女に何が出来るのだろうと思いつつ口にはしなかった。
「偉そうなおばあさんといたけどユンギは村でどんな立場なの?」
「私は巫女様の雑用係してて、祭りの時に神使の世話も任される。氷の壁つくれるから気に入られたの。」
ユンギの説明によれば、この村はどの国にも属さない村だそうで特に名前もなく、巫女を頂点とし自給自足の生活をしているそうだ。
しかし、数年前に援助したいと話をしに来た男が来てから変わった。
巫女が男を恵の神と呼び、若い娘から神につかえる神使を選び始めたのだ。選ばれた若い娘は男に連れていかれ村に戻った事は無い。
「男が村にくると十五歳以上の娘が男の為に酒をついだり踊ってみせたり村をあげて男を崇めてお祭りをするの。次の日帰る時にまるでお土産みたいに若い娘が連れて行かれる。」
「ユンギちゃん…俺、なんで捕まってるんだろ?」
「たぶん顔が良いから。いつもは娘だけだけど…」
バーンは褒められても嬉しくないなと遠い目をする。きっと直ぐに殺されないだけマシなのだろうが何となく嫌な気分だった。
「ユンギはなんでそんな詳しく知ってるの?」
「私のお姉ちゃん達は神使に選ばれて連れていかれた。
上のお姉ちゃんは馬車の扉に体当たりしてわざと谷底に落ちて死んだ事になってる。本当は生きてて売られた子を助けてるの。」
「お姉ちゃん凄いな…。」
「下のお姉ちゃんは男の家でメイドしてる。上手く取り入って上のお姉ちゃんと私に情報をくれるの。」
「こんな小さな村でよくそんな…」
「バーン失礼よ。」
ユナに窘められてバーンがユンギに謝罪すると、ユンギはまったく気にしておらず、むしろ最高の褒め言葉だと礼を言った。
「ユンギは何で魔法を使えるの?」
「お母さんが教えてくれた。私はお母さんに似て少し才能あったみたいだから。……私の事、信じられない?」
「そうね…信じたいとは思ってる。」
「今はそれで充分。見張りはもう少ししたら起きるから気をつけて、男の馬車には乗せられてしまうけどその後は安心していいよ。」
ユンギは早口でそう言うと穴を修復して足早に去っていった。ユナは溜息をつくと頭の中で整理し始める。
「ねぇバーン、いくつ気がついてる?」




