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少女は牢の中に入ると氷の壁をつくり見張りから牢の中が見えないようにした。
少女が魔法を使えた事に驚いたユナとバーンは警戒を強め少女を睨みつけるが、そんな二人に少女は地面に額をつけて謝罪のポーズをとった。
「ごめんなさい…」
バーンは演技ではないかと疑ったがユナは少女に近づき頭を上げるように促す。少女は少し頭をあげるがポーズは崩さず、バーンも仕方なく信用する事にした。
「お二人はこのままだと奴隷として売られる事になります。」
「奴隷?どういう事だ??」
「声が漏れますので少しお静かに…詳しい話はまた後程、今は時間がありませんので…もし巫女様が来ても眼を五秒以上見つめないで下さい。」
少女はそれだけ言うと謝罪のポーズをやめてユナに顔を近づけた。あまりに近い距離までくるのでユナが抗議をしようとすると「汗くさくない…むしろいい匂い?」っとボソッと少女が呟いたのでユナは顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせた。
少女は気にした様子もなく今度はバーンに顔を近づける。バーンが少し仰け反り戸惑っていると「ん~許容範囲内…?」とボソッと呟いた。
「許容範囲内ってなんだよ!」
涙目になりながら怒鳴るバーンを他所に立ち上がった少女は無視して氷の壁を解除し、見張りに目配せすると牢から出て行った。
「許容範囲内…」
酷く落ち込むバーンに正気に戻ったユナが哀れみの視線をむけ、ちょっとした好奇心でユナはバーンの首筋に顔を近づけて鼻をクンクンさせる。
バーンはビクッと身を硬くしたがそんなのお構い無しだ。
「勘弁してくれ…」
「ん~私は好きだよ?バーンの匂い。何だか野性的っていうか…男の人ってこんな感じなんだなってドキドキする?」
バーンは必死に耐えた。
デビルバーンがニョキッと顔を出しそうになるがエンジェルバーンがその頭をハンマーで殴りつけ誇らしげに親指を立てる。
「無自覚天然小悪魔め…」
「何の話?」
「俺に無断で嗅いできたんだから俺もユナにしていいんだよな?」
「え?!ちょっ!!いいわけないでしょ!」
バーンはユナの首筋に顔を近づけて息を吹きかけた。
不意打ちをされたユナは「んっ」と短く声を上げ反射で身体をビクッとさせる。
「あんまり煽るなよ…」
いつになく真剣な眼差しが向けられユナはバーンから目が離せなかった。ほぼゼロ距離なバーンの顔が更に近づこうとしているのを感じたがユナはどうする事も出来ない。
「おめぇらそんなとこでイチャついてんじゃねぇよ!!!」
見張りの声でハッ正気に戻った二人は秒で少し距離をとった。
ユナは火照る顔を俯かせまだ早い心臓の鼓動をおさめようと必死に「早くなおって!」と念じ、おさまってくるとふと残念だなという思いが顔を出した。
「いや残念って何が!!」




