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空に溶け込みそうな程美しい色に翼を軽やかに上下し優雅に飛ぶその姿はまるで空の王。
何も侵される事がないその姿に見蕩れていたユナは洞窟の入口で罠にかかった瞬間の変貌ぶりを忘れる事は無いだろう。
「恐い!無理!気持ち悪い!」
「気持ちは分かるが落ち着け!結界が破られる事は無いんだろ?」
「そういう問題じゃない!あんなん迫ってきたら普通に恐いでしょ?!」
「……ドラゴンは平気なのに…」
現在、ユナとバーンは猛攻を結界で防ぎながら攻撃のタイミングを見計らっている。
遡る事数十分前。罠にかかった瞬間、フワモコロンは先程までの優雅さを失いギョロロロロ~と怒りの声を上げて疾風で罠を切り裂くと、優雅で美しいその姿を捨て去り漆黒の瞳を真っ赤に光らせ黒いオーラを纏う。
辺りを見渡しユナとバーンを見つけ敵だと判断するや否や再びギョロロロロ~と鳴き声を上げ、直後に空の彼方から長い触覚を持つ黒光りした虫が二体飛来した。
「な゛…何あれ気持ち悪い…」
「はいユナちゃんお勉強ですよ~。アレはホームステイって言って単体では行動せず仲間か別の生物と協力関係を結ぶ魔物で~す。図鑑にも載ってたはずだが。」
「ホームステイ…確かに載ってたけど文字のみだったわ……」
ユナと同じくらいの体長のフワモコロンに対してホームステイはその半分程の大きさだが感じる恐怖はフワモコロンより格段に上だった。
「ホームステイはともかく頑丈だから頑張ろうな。」
そうして今、フワモコロンは疾風と自身の羽根を矢のようにして飛ばしてきてホームステイは結界に体当たりを繰り返している。
「バーン何とかしてよ!」
「ん~どっちもそんな強くないからユナでもいけるはずだ。」
「強い弱いじゃないの!!」
「これも大切な経験だろ?あ、火は無しな。」
助ける気がないバーンにイラつきながらユナはホームステイをいかに自分から遠ざけて処理するか悩んだ。そして思い付いた。見えなければ良いのだと。
「消え失せなさい。地中深くに!」
ユナはホームステイの足元の地面を底なし沼の様に柔らかく変化させた。
足を取られたホームステイが飛ぶ前にユナは蔓で縛り上げそれを防ぎ、全身がスッポリ見えなくなると地面の状態を戻す。
「これで出てこられないでしょ。」
「生き埋めとか残酷だな…」
ユナはバーンの言葉は無視して残ったフワモコロンを睨みつけた。




