40
ただ、殿下をお慕いしていた。
初めて恋した人を誰かに取られるなんて絶対に許せなかった。
公爵令嬢は開かない窓の外を眺めながらボーッと今までのグロースライダーとの日々を思い返していた。
初めて会ったのは7歳の時、5歳から高位貴族として最低限のマナーを厳しく叩き込まれ初めて茶会に同行させてもらった時だった。
他家の同じ年頃の子供たちの笑顔で庭を走りまわる姿をチラリと見ながら行儀良く両親の隣に立ちまだ理解が出来ない会話をただ聞き流していた。
(早く終わらないかな……)
とても退屈だったが両親の隣を勝手に離れたり行儀悪く走りまわったりすれば確実に帰宅後に折檻されるのでただじっとそこに居る事しか出来なかった。
退屈だったので両親にバレないようにキョロキョロと周りを見ていると、少し遠くにいる黒髪に青い目が印象的な少年と目があった。
(不味い!)
直ぐに目を逸らし何事もない風を装ったが、彼は席を立ちゆっくり歩いてきた。
「良ければ、僕の話し相手になってくれない?」
「「で、殿下?!」」
両親が驚く中、真っ直ぐなキラキラした笑顔を向けてくる彼から目が離せない。心臓もドキドキ煩くて、こんな感覚初めてだった。
両親は二つ返事で私を送り出し母からはコソッと「必ず気に入られて来なさい。」と言われたので私は彼が両親にとって有益な人物である事を知った。
少し身を固くしながら彼について行くと皆が集まる場所からは隠れたベンチに案内され、自分のハンカチをベンチに広げるとその上に座るように促された。
「ありがとう…ございます…」
素直に座るとまたキラキラした笑顔を見せてくれ、私は落ち着かなくて俯いた。
「君はとても恥ずかしがり屋だね。あ、そうだ!僕はグロースライダー。君の名前は?」
私は答えられ無かった。
ドキドキときちんとしなければという思いでぐちゃぐちゃになり、出したいのに声が出てこなくてただ俯いた。
「ん~じゃあ……マリー!君の髪のいろ色がマリーゴールドみたいだからマリーって呼ぼう!」
彼はキラキラした笑顔でずっと話しかけてくれたけれど私は一言も返す事は出来なかった。
「そろそろお茶会終わる頃かな!戻ろっか!!」
ベンチから立ち上がった彼に続き立ち上がり両親の元に戻ると、今まで見た事が無い程の笑顔で私を褒めてくれた。
その数日後には私は彼の婚約者候補の一人になっていた。




