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「殿下、私は貴方様の婚約者筆頭として貴方様に相応しくある為に日々研鑽しております。そのような事をしている時間などございませんわ。
信憑性の低い実行犯の戯言と使用されたのが毒という事だけでは今回の件に私が関わったなど暴論、更に他のご令嬢の件は証拠すら無い濡れ衣。
イタズラが過ぎるのは殿下の方でございますわ。」
余裕ある笑みを浮かべグロースライダーに反論した公爵令嬢に公爵もニヤリとグロースライダーに勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ではまずは実行犯を呼ぶ事にしよう。」
グロースライダーがそう言うと扉が開きハルバートと二人の兵が縄で縛られた実行犯を連れてくる。
青い顔をしながらカタカタと震える実行犯は俯き誰の顔も見ようとしない。
「これがその実行犯ですか。やはり知らぬ顔ですな。」
「私も存じ上げませんわ。」
「その言葉に偽りがなければ良いのだがな…。彼女の名前はベラという。公爵、貴方の家の使用人に同じ名前の使用人がいるはずだ。」
「使用人の名前などいちいち覚えてはいませんが、ありふれた名前です。もしかしたらいるやもしれません。」
「貴方の家の使用人に似顔絵を書いてもらったんだが皆が彼女ソックリの似顔絵を書いている。」
「なっ?!」
公爵はハルバートが持つ紙の束を奪い取ると一枚一枚それを確認していく。
後ろから覗き見た公爵令嬢も僅かに顔を歪め扇を持つ手に力が入った。
「こ、こんなものでっち上げです!話になりませんな。」
「ならば今回の件を知らない貴方の家の執事を呼び出し「この使用人が私に粗相した。」と告げよう。」
「そ、それは…。」
「確かに、その者が我が家で働いていたという事は認めざるをえません。しかし、他家が潜り込ませた者である可能性があるのも事実ですわ。」
グロースライダーは心の中で舌打ちした。
意外に頭の回転が早い公爵令嬢は公爵が言葉に詰まっても反論してくる。何か突破口はないかと考えていると、ふと実行犯の胸に光るブローチが目に付いた。
そのブローチは小ぶりだがエメラルドがはめ込まれており貴族では無い者が持つには高価そうだ。何より仕事中に身につけるものではない。
「なるほど…やはり底意地が悪いな。ハルバート、実行犯の胸にあるブローチをこちらに。」
「はい。」
グロースライダーの指示でハルバートがブローチに手をつけた瞬間、公爵令嬢の雰囲気が少しトゲトゲしくなる。
ハルバートがブローチを外しグロースライダーに手渡すとグロースライダーはそれをじっくり眺めた。
「殿下、そのブローチがどうしたのです。」
グロースライダーは公爵の言葉を無視してブローチを色んな角度から確認する。そして徐ろにピンの部分を回すとカチッと音がした。




