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馬車に揺られながらユナは変わりゆく景色を楽しんでいた。
ベベルのモノクロで簡素な街並みから段々と人が増え、街の建物も段々と明るい色になっていき華やかさが増していく、アルベールは地域によって建物の色が分けられているので見ていて飽きない。
この馬車に乗っているのが女の子同士ならきっと会話に花を咲かせながら景色を共に楽しめた事だろう。
ユナが馬車の中に顔を向けるとバーンとグロースライダーはとても楽しそうに会話をしている。内容はユナにとっては耳を塞ぎたくなるものだった。
「ユリアーナは頑張り屋さんでいつもたくさんの本を読んでいたよ。」
「ああ、凄く努力家ですよね。剣の鍛錬だって欠かさない。真剣な眼差しを見ていると支えてやりたくなりますね。」
「その気持ちは分かるよ。ああ、真剣な眼差しといえばユリアーナはチェスの腕前も中々のものでね。チェス盤を使わなくても頭の中で対戦できるほど記憶力も良くてよく対戦したものだ。」
二人はずっとこの調子でユナの話をしている。飽きもせずずっとだ。
最初の内はユナもやめるように言ったが逆に何故だと食い下がってくるので諦め外を眺めやり過ごすことにした。しかし、絶え間なく続く会話に我慢の限界も近い。
「癒しが欲しいな……。」
「「なら俺(僕)が!!」」
「殿下、ユナは俺のパートナーなんで。」
「バーン、ユリアーナとの付き合いは私の方が長い。好みも熟知している。」
新たな種を蒔いてしまった事に後悔しながらユナは再び馬車の外の景色を楽しんだ。
王都に入ると、建物はすべて白で統一されていた。道に敷かれたレンガも白いのでまるで雪が積もったような美しさがある。
「真っ白で綺麗ね……。」
「ユリアーナの心のようだろう。」
「…台無しね。」
「流石は殿下、乙女心を分かっておられる。」
言葉ではグロースライダーを褒めたバーンだったが、ざまあみろと言う言葉が透けて見える程表情ではとても馬鹿にしていた。
笑顔の裏に怒りを貼り付けたグロースライダーはユリアーナからの評価を上げるべく仕切り直すように咳払いをする。
「ん"ん。王都が真っ白なのには理由があるんだ。一つ目は王の政が民にとって不正の無いものであるという誓い、二つ目に何色も受け入れ差別をしないという象徴、最後に汚れが目立つから小まめに清掃する事で伝染病の予防。もちろん周りの街の色にも意味はあるよ。」
「素敵な意味ね。それを考えた方を尊敬するわ。」
「僕も尊敬してくれていいんだよ?」
「殿下、その言葉でまた台無しですよ。」
「本当に…国の事を学ぶ姿勢は尊敬出来るのに…。」
「補足だけどアルベール王国の街の色を統一したのは三代目の王で当時世情が安定してなくて国の結束を強める為に行ったらしい。冒険者の間でも良い目印になるから別行動後の待ち合わせに使われやすいんだ。」
「バーンも物知りね。そっか、確かに緊急事態でも色一つで済むのは便利ね。」
結局バーンに横取りされグロースライダーの評価は上がらなかった。
グロースライダーはバーンを馬車から蹴り出したい気持ちでいっぱいだったが、それをすればユナからの評価は地に落ちるので実行できない。
ますますグロースライダーを馬鹿にした表情をむけるバーンをグロースライダーは憎々しげに睨んだ。




