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ヘレンが出ていくとユナは再び鍵をかけて遮音の結界を張った。
「ど~すんだ?」
「ん~直ぐに宿を変えたら怪しいしドラゴンの宴にも出なきゃいけないから……まずは変装しようかな!」
明るく言うユナに苛立ちを見せるバーンだったが、怒っていても仕方がないので冷静になる為に深呼吸をした。
その間にユナは収納から眼鏡とキャップを出して魔法をかける。
上手く魔法がかかったのを確認するとそれ等を装着し深呼吸しているバーンの後ろから肩をトントンと叩いた。
「もうちょい待ってくれ。まだ冷静には……ダレ?」
バーンが振り向くとそこにはユナと同じ漆黒の髪にブラウンの瞳だが、そばかすのある丸顔の少年と間違いそうな少女がいた。
ユナはホッソリとした肌の白い美少女だが、目の前の少女は似ても似つかない。
「これならバレないでしょ?」
「変わりすぎだよ!!」
さっきまでしていた心配を放り投げたバーンはベッドに座り、カレンがテーブルに置いて行った夕飯をヤケ食いした。ユナもお腹がすいていたのでバーンのベッドに座り夕飯を食べ始める。
その動作はとても自然だったが、あまりにも自然で自分が男として見られていない事を悟ったバーンはヤケ食いを止められなかった。
翌日、バーンとユナは出掛けずにカレンと話しながら昨日来たフードの人物を待ってみた。
ユナのあまりの変わりようにヘレンとカレンは目を丸くしていたが、メイクの力だと何とか納得させ、今はカレンから質問攻めにあっていた。
「二重をどうやって一重にしたの?」
「瞼を重ねて糊で固定したんだよ。」
「ソバカスは何で出来てるの?」
「濃い色の肌用の絵の具かな。」
ユナが少しウンザリして来た頃、目当ての人物は入ってきた。
「いらっしゃい!あれ?あんた達昨日の……。」
「邪魔をする。昨日言っていた女性客は居るか?」
「ああ…それならあの子だよ。」
ヘレンがユナを指指すとフードの人物はユナに近づいてきた。
バレないように変装してはいてもユナの心臓の鼓動は早い。もし何かの魔法で本当の姿が見えていたら一発アウトだ。
「ちょっと話を聞いても良いだろうか。」
声をかけられたユナはフードの人物に顔をむけた。
すると、予想とは違う顔にフードの人物は人違いだったと直ぐに踵を返しヘレンに礼を言って宿屋を出ていった。
「今の何だったんだろう。」
「ん~わかんないな。」
何でもない様に振る舞うがこの場を切り抜ける事が出来た安堵感でしばらく立ち上がる事が出来なさそうなユナは、カレンに甘い物は無いかとオーダーした。
「オッケー。カレンスペシャルを作ってあげるよ。」
カレンは嬉しそうに厨房へ小走りした。




