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ユナは王の剣を受けながらもバーンと王妃を気にしていた。
少なくとも自分の知る王妃はあんな動きをするような訓練をしてはいなかった。
口から産まれたのではと思うほど静かな時はほぼ無く今とは真逆の存在だ。
「王妃に何をしたの?」
「答える義務はない。…が、アレはもう戻らぬ事だけは確かだな。」
攻撃をやめることなく答えた王の顔は自分の妻を語る顔ではない。
ユナはその異常さに底知れない恐怖を抱かかながらも勝ち筋を探す。
とりあえず王の装備を確認すべくユナは王の身につけているもの全てを鑑定した。
するとその身にあるものほぼ全てが何かしらの効力を持つ物で、その内七個が魔力増幅効果を持つ物と分かりユナは驚愕し顔に出そうになるが何とかポーカーフェイスを保った。
「動きが鈍いな。つまらん…少しは骨があるかと思ったのだがな。」
王は落胆した様子をみせると身体に赤黒い炎を纏った。炎は徐々に形を変えやがて火の鳥となって王の頭上で羽ばたいた。
「跡形もなく消えるがいい。」
王の言葉と同時に火の鳥は巨大な火球をつくり、それをユナに向かって放り投げた。
ユナは後ろに跳び退き結界を張るが火球とぶつかるとミシミシと音を立てる。一枚では足りないと判断し二枚目の結界を内に張ると、一枚の結界がパリンと音を立てて砕けた。
慌ててもう一枚追加で結界を張り、火球と同じくらいの大きさの水球をつくり相殺を狙うがユナの思惑通りとはいかず火球は消えない。
「滅っ!」
バーンにより火球が消滅しユナは礼を言う為にバーンの方を振り返る。
しかしユナの口から言葉は出てこない。
バーンの腹に刺さった王妃の右腕がユナの視線をあつめ、引き抜かれバーンの口と腹から血が吹き出すと叫びと共にユナはバーンに駆け寄った。
力なく崩れ落ちるバーンの身体を抱きしめると涙目になりながらユナはバーンの名を呼ぶ。
「だ、いじょ…ぶだ。危険だ、から…離れろ。」
バーンはユナを押し返すと方で息をしながらも王妃に向き直る。
「ほう……まだ動くか。頑丈だな。」
倒れなかったバーンに感心した様子の王は楽しげに口角を上げる。
顎をひと撫ですると王は指輪を擦る。すると王妃はバーンを無視して王の方へ向き一歩を踏み出したがユナに血だらけの右腕を捕まれ足を止めた。
「……許さない。」
ユナがそう発した次の瞬間、王妃は右腕を残してその場から姿を消した。




