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方々から上がる呻き声、逃げ惑う人々、協会本部は大混乱に陥っていた。
騒動を起こした主は悔恨の魔女に相応しい働きをしているイエニスタで、協会本部の正門から入り彼女の通った後は気絶した職員だらけだ。
一部無傷の者もいるが、それは彼女の“後ろめたい事はありますか?”という質問に正しく反応し善良と認められた者達で全体の三割程しかいない。
「ちょっと放置するとすぐ害虫が湧いて困りますね。」
イエニスタは全ての部屋を開きながら進み、大聖堂にたどり着くと懐かしそうに扉に触れ過去を思い出し感傷に浸った。
「少し…味がでましたね…。」
イエニスタが扉をじっと見ている事をいい事に後ろからソロりと職員が一人近づく。
当然気がついていたイエニスタは槍で襲いかかられるが横に避け襲いかかってきた者を暴風で吹っ飛ばし壁に叩きつけた。
「まったく…礼儀もなっていないですね。」
順調に蹂躙して大司教が幽閉されている鐘楼に通じる通路まで来ると、今までとは違い大勢の武装した職員と少し服装の違う偉そうな態度の人物が待ち構えておりイエニスタは眉をひそめた。
「ふはははは。無謀にも大司教の救出に来たみたいだがここまでだ。」
「別に…それが目的なのではありませんよ。私は可愛い弟子の好意を受け取って約束を果たしに来ただけですから。」
「約束ぅ?はんっ。命乞いでもしてきたか~?まあ良い。いくら何でもこの人数ではどうも出来まい。容姿は美しいから私が可愛がってやっても良いが…。」
「困りましたね。私はあの子のように優しくないのです…。神の鉄槌を受けて懺悔なさい。」
イエニスタは偉そうな態度をした人物に雷を直撃させ黒焦げにする。
自分たちのすぐ側で起きた事に武装した職員達は腰を抜かし震えるがイエニスタは笑顔を崩さない。
「さぁ、皆さんには後ろめたい事はありますか?」
全員を無効化し大司教の閉じ込められた部屋の前に来ると、イエニスタは鍵を扉ごと破壊する。
大司教は豪快な登場をしたイエニスタに対して膝まづき祈りのポーズを取る。
「後ろめたい事はありますか?」
「はい。私は教会内部の腐敗に気がつく事が出来ませんでした。誓いを破り申し訳ございません。」
「本当に…。思い上がってもらっては困りますね。貴方達の教祖も嘆いているでしょう。約束を果たすなら、この建物と住む人々も含め無にしなければなりません。」
大司教は神の声を受け入れるかのようにただ静かにその場にあった。教祖とイエニスタの約束は絶対。
今まで協会という組織が続いていたのは歴代の大司教が導いてきた結果だが、自分の代でそれを終わらせてしまう。
大司教はその重さに血の気が引き今にも倒れそだった。
「しかし、少しばかり猶予を与える事もできます。一つ、二年で膿を全て出す事。二つ、私の可愛い教え子の助けになる事。これを成せば継続を認めましょう。」
二年という月日は決して長くない。更に可愛い教え子とは誰の事を指しているのかも分からないが、大司教はイエニスタの慈悲に深く感謝し頭を下げた。




