6(最終話)
結局のところ、俺は自分勝手なんだよ。さっきからこうして意味のないことをだらだら話しているだけだしな。こんな言葉に意味を見出す奴らがいたら驚きだよ。この物語はさ、所詮は俺の自己満足にすぎない。こんな時代に、こんな男がいたってことだけが伝わればいいんだから。この物語は、形のある本は勿論だが、スティーブでも発表されるんだ。っていうことは、世界中がこの物語を目にするんだ。当然、世界ってのはこの星のことだけじゃない。月も太陽系も、銀河系の外にだって届けられる。俺たちは一度、光に乗せて音楽を宇宙に解き放ったことがある。宇宙空間は確かに無音だが、それは闇の中はっていう意味だ。宇宙には光もある。そこには当然、音がある。光が届く限り、俺たちの音楽は消えることなく旅を続けているってことだ。光ってのは、闇の中では消えることがないからな。光を消す唯一の方法は、別の光に閉じ込めるってことだ。俺たちが放った音楽は、今も宇宙に溢れてはいるんだが、それはとてつもなく遠くの宇宙ってわけだ。月へ行ったからといっても、そこで俺たちの音楽を聴くことはできない。けれど今は、当時とは違うんだ。俺たちは音楽を光の波に乗せたんだが、その際、スティーブを利用はしなかったんだ。バカだったんだ。ただ純粋に音楽だけを届けようとした結果のアイディアだったんだよ。それを永遠にって発想はなかった。
スティーブごと光に乗せて解き放てば、音楽を常に鳴り響かせることも可能なんだよな。スティーブには音楽を投影する技術があるんだ。暗闇に音楽を投影すればいい。それをあちこちにばら撒いていくんだ。そんな方法に、俺は最近気がついたんだ。そして今度、それを実践する。ついでにこの物語もばら撒いていくつもりなんだが、それはほんの少し危険だっていう意見もある。スティーブには人格があるからな。暴走する可能性がある。っていうか、確実にそうなると言われている。スティーブを搭載した光装置はすでに宇宙へと飛び出しているが、そこにはある仕掛けが施されている。スティーブから個性を消す方法は簡単なんだ。通信機能だけを与えてはいるんだよ。俺たちに埋め込まれているスティーブとは別物だってわけだ。けれどそれじゃあ、俺の計画は成り立たないだろうな。人格のないスティーブには色々と制限があって面倒なんだよ。投影された音楽を後から削除したり、その場の条件によって音楽を選んだり、臨機応変な対応が求められるんだよ。やはり人格のあるスティーブが必要なんだ。できれば俺のスティーブだけと繋がっていれば理想なんだが、それは難しい。スティーブの独り占めは不可能なんだ。
まぁ、他にも俺のやりたいことはあるんだが、結局は俺の自己満足になっちまう。まぁ、この世界は俺が中心だからな。それでいいんだ。俺にとってはっていう意味だがな。分かるだろ? 世界の誰もがその中心だってことだ。
さて、もう時間になったか? 話したいことはまだまだあるが、もうお腹一杯だろ? どんな話をしても、結局は尻切れトンボになっちまう。まぁ、それが俺の持ち味ってことだ。
いつの時代の誰がどこでこの物語を読んでいるのかは知らないが、楽しんでくれたのなら幸いだな。さて、本当にもう時間がないんだよ。俺はこれからウツヨキでライブなんだ。白夜のロックショウの始まりだ。よかったら今すぐ見に来るといい。今日は久し振りのフリーライブだからな。