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パンクジャズ  作者: 林広正
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 今更だが、俺にはまだやり残していることがある。それがなにかって今聞くのか? 俺のことを知っている奴なら想像がつくだろ? 俺っていうのはそういう奴だからな。

 俺はこれから物語を書こうと考えている。文学ってやつを、俺がみせてやるよ。まぁ、あんた達からの影響があってこそだ。俺は正直、あんた達こそが文学を作り出したと考えている。それ以前の文学は、ただの文章だ。けれどな、俺はあんた達を超えるつもりでいる。あんた達も色々な物語を創造しているよな。俺だって負けてはいない。言っとくが、俺は俺の物語を書くつもりはない。俺の経験が反映はされても、俺はあくまでも新しい物語を創造するんだよ。それこそが文学だろ?

 俺のアイディアを聞きたいか? 未来の話を書こうと思う。けれどそれは、過去とも繋がっているんだ。更にはそれが現代へと流れ着く。俺たちが暮らす今からじゃあり得ない未来を描くんだ。例えばだが、俺が生まれた時代に、音楽はなかった。それと同じように、なにかの欠けた世界を描いていこうと思うんだよ。そうだな、文字のない世界ってのはどうだ? そんな世界の様子を文字で描くんだよ。過去の遺跡から文字の存在を知り、文字を生み出す男が主人公だな。文字の解読と共に過去の世界を知り、過去を未来に反映させていく。俺がこの世界で過去の音楽を新しく蘇らせたのと同じだ。あんた達が文学の本当の意味を取り戻したのにも似ているな。そして、過去に起きた秘密を知ることになるんだ。文字を失った理由と、過去の世界が今とどう違うかを知ることは、世界が変わるってことなんだよ。変わり始める未来の世界を、過去の真実と絡めて現実の世界に生きる男が語るってわけだ。まぁ、死ぬまでには発表するつもりだが、内容がどうなるかは俺にも分からない。今思いついたばかりだからな。楽しみにしてくれる誰かがいてくれれば嬉しいよ。

 俺たちの物語は、これでお終いだ。まだ語り足りないが、もう眠いんだよ。結局俺は何時間話したんだ? これをそのまま読むってことは、まぁ普通なら三日はかかるってことか? もしも本当に最後まで読んでくれた誰かがいるのなら驚きだな。こんなにも無意味で大嘘ばかりの物語に付き合ってくれるなんてさ。誠にもってありがたいことだ。感謝するよ。それじゃあまた、ライヴで会える日を楽しみに待っている。おやすみだな。

 とは思ったが、もう少し話をするとしよう。約束の時間にはほんの少し早いようだからな。

俺のやりたいことは、まだまだ他にもあるんだよ。だがきっと、どれもが間に合わないんだろうなとは感じているよ。俺は正直、年を重ねすぎた。これからのことはきっと、種を蒔く程度でお終いだな。

 音楽のない世界を作りたい。

なにを言っているんだって思うか? これだけ世界に音楽が溢れているんだ。今さら無理だと思うよな。けれどな、そうとは限らないだろ? 例えばだが、ホールを借り切って、光装置を全てオフにするんだ。それだけで静かな空間の出来上がりだ。あとはそこで、踊るんだ。足音を立てないようにな。呼吸だけが聞こえてくる。そんな空間の中で、ときに激しく、ときに優しく、感情をむき出しに表現する。見てみたいと思わないか? 音楽のないショウを作るんだよ。そこには当然言葉もいらない。

 俺にとっての音楽は、感情そのものだったんだ。けれどな、感情ってのは物凄く我がままなんだ。音楽を通してだけでは伝わらない感情もあるんだよ。俺はそれを文学で表現しようとも考えてはいるが、それだけでは足りないだろ? 言葉を通しての表現にはきっと限界がやってくる。まぁ、本来ならそういった限界を越していってこそ意味があるんだが、俺はどうしても、別の表現を試したいんだ。当然、音楽のない世界を、音楽を通してだって表現をしてみせる。っていうかさ、そんな実験は何度もしているんだがな。文学についてはまだ素人だが、そういったアイディアには溢れている。俺はただ、感情のままに、自分を表現したいだけなんだ。

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