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初夏のおもひで

作者: エンゼ

『「7月」、「温もり」、「絆」をテーマにした「Aくん」の話』というお題で作成した小説です。

いつの間にかAくんはAちゃんになっていましたが、そこは許して……

 ──その日、おれは大親友のAから、とんでもないことを言われてしまった。


「──わたし……来週引っ越すんだ」


 おれにはそれが、最悪の始まりを告げる声にしか聞こえなかった───。




 ──────

 ────

 ──




 セミの鳴き声が辺りに響き渡り、めちゃくちゃ暑い太陽の日差しが俺たちを照らしている。なにもしていないのにも関わらず汗が出てきてしまうため、タオルを常備することが必須な季節だ。


 明日から夏休み。いつもダルくて面倒な学校へと行かなくてもいい最高の日々が今日から始まる。しかも今日は昼帰りだから、実質今日から夏休みって言っても過言じゃない。


 校長のながったらしい話を聞き終え、教室での帰りの会を済ませた後、おれとAはいつも通りに二人で帰路についていた。


 おれとAはいわゆる幼馴染みってやつで、幼稚園のときからずっと一緒だった。小学校に入ってもずっと同じクラスだった。まぁ、ここがド田舎でクラスが一つしかなかったから、そうなるのは自然ではあったが……。


 初めて会った時からあいつは臆病で、最初に話したときもすげぇ緊張してた。家も近かったということもあってか、なんとかあいつと仲良くなりたいと毎回話しかけていたりしている内に、いつの間にか大親友のような感じになってた。


 それ以来、休みの日はあいつの家にいったり、逆におれの家に来てもらったりして一緒にゲームとかしたり、どこかに二人で遊びに出掛けたりしたりして楽しく遊んだ。ずっと一緒だと約束もした。


 おれの日々には、あいつがいることが当たり前になっていたんだ。あいつが風邪で学校を休んだりした日には別の友達と遊んだりするんだが、なんか調子が狂う。物足りなさを感じてしまうんだ。それほどにおれの中にはあいつがいた。


 この日も勿論、夏休みは何をして遊ぼうかみたいな話をしていたんだ。海に行くのもいいし、虫を取りに行ったりしてもいい。Aがいれば、何だって楽しいんだから。


 しかし、Aは何故かあんまり乗り気じゃない……というか、心がここにあらずみたいな感じだ。目の前の親友がそんな風になってるのを見過ごせる俺じゃない。何があったのか聞いてみることにした。


「……なぁ、A。どうしたんだ? なんか今日変じゃないか?」

「そ、そうかな。そんなことないけど……」

「本当かぁ? ならいいんだけど」


 明らかにおかしいんだけどなぁ。……まぁ、誰しも悩みの一つや二つはあるもんか。触れてほしくないなら触れないでおくか。


 なんか微妙な空気になり互いに無言になるが、それでさぁとおれは話を再開し空気を一新した。だが、Aはやっぱり変な様子で俺の話を多分半分くらい聞き流してるように見える。


 ……深刻な悩みならおれに相談してほしいんだけどなぁ。本当に助けを求めてるときに助けるのが親友ってものなのに。まぁでも追って聞くのは迷惑かなと思ってしないんだけど。


 結局、Aはあれ以降何も話してくれないまま別れてそれぞれの家へと帰った。おれは帰ってからもずっと今日のあいつについて考えていた。一体どんな悩みなんだろうか、本当におれでは何も出来ないのだろうか、……とか、色々。


 おかげで宿題にも手がつかず、いつの間にか夕方に近い時間になってしまっていた。


「んー……」

「あら、どうしたのよ。そんな似合わない考え込むような顔して」

「母ちゃん」


 おっとっと、顔に出ちゃってたか。でもこれ母ちゃんに相談したとこでなぁ……。

 ……待てよ。あいつもこんな気持ちだったのかもしれないな。おれなんかに相談してもなぁって。……なんか悲しくなってきた。


「あ、そういえば知ってる? Aちゃんち、引っ越すんだって」

「……え?」


 ……今、さらっととんでもないことを言ってた気がする。


「ご両親の都合らしいわよ。ちょっと寂しいけど、仕方ないわよねぇ」

「……」


 ──あいつが、Aが引っ越す。どっかへ行っちゃう。それはつまり……


「……もう、会えないってことか?」


 それを思った瞬間、何故だか急にめちゃくちゃ寒気がした。とにかくものすごくいやだと感じた。そして気付けば……あいつの家の前に来ていた。


 いても経ってもいられず、チャイムを鳴らす。するとAが出てきた。


「あれ、どうしたの……?」

「……話が、したい。上がってもいいか?」

「……うん、わかった」


 どうやらAの両親は仕事らしく、しばらく一人で過ごしていたようだ。


 リビングに案内されたおれとAは机を挟んで向かい合う形で座る。おれの様子からただごとじゃないと感じたのか、Aも真剣な様子で向き合ってくれている。


 おれは、ゆっくり切り出した。


「……なぁ、A」


 どうか、何だよその話と笑ってくれ。嘘だといってくれ。───離ればなれになっちまうなんて、言わないでくれ。


「引っ越すって……本当か……?」


 それを告げた刹那、Aの表情が驚いたものになったかと思えば、暗い雰囲気のものになる。


「……知っちゃったんだね」


 ……おい、なんだよ反応。それじゃまるでそうだよって言ってるようなもんじゃないか……!


「……あのね。わたし───」


 頼む、頼むから、そういうイタズラはやめてくれ……っ!!


「──わたし……来週引っ越すんだ」


 ───告げられて、しまった。これが真実であると分かってしまった。もう嘘だなんて言えない。本人からそうだと言われてしまったのだから。


 ……だけど、信じたくなかった。


「……嘘、なんだろ? これからもずっと一緒にいるって約束したじゃないか。はなればなれになるなんておれはいやだぞ? なぁ……」


 気がつけば、目の前がぼやけていた。


「たのむから、はなればなれにならないでくれ……」




「……わたしだって、いやだよ」


 Aの呟きが聞こえ、顔を上げる。Aは……泣いていた。


「やくそく、わすれたことなんてない。そのつもりだった。でも……わたしみたいなこどもには、どうしようもないの。おとうさんと、おかあさんがきめたことだもん……」


 Aも、悲しんでくれている。おれと同じ気持ちなんだ……!


「わたし、はなれたくないよぉ……っ」

「っ……おれも、やだっ……!」


 おれたちは抱き合って、二人で泣いた。こんな、こんなひどいことがあっていいのか。なんで俺たちにはどうすることも出来ないのか。全てが許せない気持ちになっていた。


 暫くしてようやく落ち着いてきた頃、Aのお母さんが帰ってきた。リビングで泣きながら抱き合っているおれたちを見たからかめちゃくちゃ驚いた顔をしている。


「ど、どうしたのよ二人とも。そんなに泣いちゃって」

「……だって、わたしのうちひっこすんでしょ?」

「引っ越し……あぁ、そういうことねぇ」


 おれたちがなんでこうしてたのかが分かったのか、Aのお母さんは大きく頷く。

 そしてニヤリと笑ったかと思えば、驚くべきことを言い放った。


「A、忘れちゃったの? 私達が引っ越すのは、ここから駅一つだけ離れた場所。ここからすぐのところよ。具体的には自転車で40分くらいの」

「「…へ?」」


 ぽかんとするおれたちを無視してAのお母さんは続ける。


「ここだと、ちょっとだけだけど職場が遠くてね。引っ越しをすれば、家族の時間を多めにとれるし、何より再来年通う中学校も近いからね。しかも安いし。だから──」


「安心しなさい少年少女! 会おうと思えばいつでも会える距離。離れ離れになんてならないんだから! ねっ?」


 ニコッと微笑んでくるその顔を見て───ようやく、おれたちは嬉しさを実感できた。


 離ればなれになんて、ならない! ちょっと家は遠くなるけど、これからも一緒なんだ!!


 再び、おれたちは抱き合って泣きあった。だけど、さっきまでとは違うものからくる涙だった。

 会おうと思えばいつでも会える。夏休みもずっと遊べるのだ。おれはこれからの楽しみに心が躍り続けるのだった。

読んでいただき、ありがとうございました!

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