第5話 執事
服装からして、どうやらこの魔族は魔王城の執事さんっぽい……
けど、明らかに異常なことが1つ。
それは、カイナと呼ばれたその魔族が、「突然」姿を現したこと。
自慢じゃないけど、私は普通の人族の子供よりは色々と優れている所がある。
その1つに、気配を察知することがある。
まあ、人族に比べればって言うだけで、魔族と比べると、ただの塵芥に過ぎないんだろうけど……
でも、だから知っている。
この部屋には、私を含め、5人しかいなかったはず。
私、魔王、ルクスさん、扉の前で待機しているメイドさんの2人の5人。
カイナという魔族の気配は一切感じ取れなかった。
私の感知能力を上回ってただけって言われると、そうなんだなとしか言い様がないけど……私は違うと思う。
カイナという魔族は、彼はーー「 転移魔法 」を使用したんじゃないだろうか。
転移魔法などの空間系の魔法の適合者は、滅多に現れることがなく、また、現れたとしても、莫大な魔力を必要とし、魔力不足で使えなくなるのが常識。
たとえ魔力が足りたとしても、制御するのは非常に困難とされている。
数万人に1人しか、まともに使える者がいないとされている魔法。
そんな魔法を、彼はいとも容易く使った。
顔色ひとつ変えずに、魔力切れという言葉を知らないように、まるで、生活魔法を使っているかのように……。
それだけで、彼が化け物級の強さを持っていることが分かる……。
そんな彼は、魔王との話が終わると私の方に近づいてきた。
「 少し、失礼しますね。」
そう言った彼は、私の奴隷紋に触れた。
な、何を……?
「 少し痛むかもしれませんが、我慢して下さい。」
……え?痛む…………っっっ!!?
その瞬間、全身に激痛が走った。
「 〜〜〜ッッッ!? 」
それに、奴隷紋がっ……熱いっ!!!
どういう事なのか、奴隷紋が熱を持ち始めた。
熱い、熱い、あつい……。
いつ、終わるの……。
まるで焼印を押されているかのような熱さに必死で耐えていると、気づけば熱は嘘のように消え去っていた。
何が……、起こったの……?
チラリと胸元を見てみると、そこにあったはずの奴隷紋が無くなっていた。
うそ……、でしょ……?
奴隷紋の強制解除なんて聞いたことない…
彼は、何をしたの……?
分からない……、規格外すぎるよ……。
改めて、カイナという魔族の規格外さが分かった。
彼の方を見ると、にこりと微笑んで、笑顔を返された。
…はは、人族は、なんて種族に喧嘩を売ってるんだろうね……。
「 どうだ?奴隷紋は消えているだろう?」
黙ったままの私に、魔王が確認のために話しかけてきた。
「 ……。 (コクン)」
「 よし、なら仕切り直しといこうか。改めて問おう。小娘、貴様の名は? 」
そういえば、そんなことも聞かれてたね。
さっきの出来事が衝撃的すぎて忘れてた。
名前……、またこの名前を名乗れるなんて思ってなかった。
感謝……しなくちゃね。
「 私は…、私の名は、シア。シア・メイティル。」
「 シア、シアか。いい名だな。」
「 ……ありがとうございます。」
名前を褒められるのは好きだ。私もこの名が大好きだから。
「 魔王……様の名前は? 」
こっち名乗ったんだから、向こうも名乗るのが普通だよね。
「 我が名を望むか……。」
……?
「 いいだろう。」
……ねぇ、待って。
「 魔界の王と恐れられし我が名を… 」
魔王……、端の方から消えていってるんですけど……。
魔王全然気づいてないんですけど。
周りの人達みんな気づいてるのに見えないふりしてるんですけど!?
え、ほんとに待って。どういう事なの!?
「 その身に 」
魔王はまだ気づかない。
「 とくと刻むがいい!! 」
魔王は、まだ気づかない…。
「 我が名は!!」
魔王は、まだ、気づかない……。
「 ワっへぶっ!!」
こけた。
魔王は、最後まで……気づかなかった……。
あ〜あ、短くなった足で、明らかにサイズの合っていない玉座から立とうとしたものだから、こけちゃって手前の階段に顔からダイブしちゃってる……。
痛そう……。
あ、隣でルクスさんが、必死で笑いを堪えてる……。
助けに行かなくていいのかなぁ……。
今、こけたまま固まっている魔王は、さっきまでの魔王よりも一回りも二回りも小さくなり、アホ毛がぴょこんと生えている。
すると、小さな魔王は、ムクリと起き上がり、自分の手のひらを何かを確認するように見つめた後、カイナと呼んでいた魔族の方を向きーーーー
「 カイナ貴様謀ったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
子供特有の少し高くなった声でそう叫び、カイナと呼んだ魔族に涙目で殴りかかった。
なお、カイナと呼ばれた魔族は、ニコニコしながら余裕で回避していました。
やっと主人公の名前が出せましたっ……!!
更新不定期で申し訳ないです……。
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用語解説
・人類:知能があり、自ら動ける生物全てのこと。(人族や魔族など)
・人族:リアルで言うところの人間。個体数は全ての種族の中で1番多い。
・魔族:魔族全員の共通点は普通の人族よりも全ての能力が1段階上ということ。また、人族よりも少しだけ耳が尖っていること。魔族の中でも、さらに細かい種族に分けることも出来る。
・奴隷紋:奴隷になる時に必ず身体に刻まれるもの。奴隷が禁止されたことをすると、奴隷紋が痛む。その他にも、色々な制約を奴隷につけることが出来る。