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第22話 生贄少女は魔王様の良き友人になったようです

 まっぶしい……


 閉じた瞼の上から強い光を感じ、私の意識は覚醒した。

 いつもよりも異様に陽の光が眩しく感じられる。

 寝転んだ状態から上半身だけを起こし、脳が目覚めてくるまでぼーっとする。


 「 おい、大丈夫か?」


 すると突然隣から声をかけられた。

 寝起きでまだぼやける目を声がした方向に向けると、男の子がいる。


 ええっと……黒い髪に真紅の瞳、ぴょこんと可愛らしいアホ毛……まおうさま?

 まおうさま…まおう様……………………魔王様っっ!!!!????


 男の子がどんな人物かを認識した瞬間、脳が覚醒する。

 それと同時に私がしてしまった失態を思い出した。

 急いでベッドから飛び出し、魔王様の前で頭を下げる。


 「 ごめんなさいっっっ!!!!!!」


 …………私……魔王様に噛み付いてた……よ、ね?

 記憶は曖昧だが、何となくは残ってる。

 ただ、頭の整理が追いつかない。

 なぜ私は魔王様を噛んでいた?

 魔王を噛んでいた記憶の前の記憶はクーちゃんの心配する声。

 あの間に何が……?

 わからない、なにかおかしかったこと、なにか……

 …そうだ!血の匂いだ、血の匂いがすごく美味しそうに感じたんだ!!

 それで、視界が赤くなって、意識が途絶えて……

 視界が赤くなる、そしてその後意識が途絶える……あの時──父さんと母さんの死体を見た時──と同じだ。

 何が起こったの…?

 どうして血を美味しそうって感じたの……?


 なにも…わからない…

 どうして、私はいつもいつも何も覚えていないの…


 じわっと目尻が熱くなり、泣きそうになる。


 なんで、こんなことになっちゃうんだろう……


 せっかく、せっかくこれから頑張って行こうって決めたのに…


 私はどうなるんだろう、私の犯した罪はどれほど大きいものだったのだろう……

 いずれにしても何らかの罰はあるだろう。

 だって、国の一番偉い人を傷つけてしまったんだから…


 「 おい、いつまでそうしているつもりだ。顔を上げなければ話も出来ぬだろうが。」


 「 私は…魔王様を傷つけて…、罰は…」


 「 む?罰?今回の件に関しては不可抗力なのだから、そのようなものはないぞ?ついでに我はこのとおり既に無傷であるし、謝罪もしっかりと受け取った。何を罰する必要がある?」


 「 私は、私は魔王様を、国の一番偉い人を傷つけました。謝罪だけで全てが許されるわけが…」


 「 …人族は平民の子供が誤ってぶつかってしまっただけでも、それが貴族であったとき子供は殺される場合があると聞いてはいたが、その様子では誠の噂のようだな。」


 「 はい、それが当たり前なんです。だから…」


 罰を…と言おうとした私の言葉は魔王様のため息にさえぎられる。


 「 ええい、面倒だ!いいか!人族ではそうだったのかもしれないが魔族では違う。魔王には国を運営する力だけでなく、純粋な戦闘力も求められる。王の座の奪い合いなど頻繁に起こる。ここでは殺された方が悪いのだ。」


 「 もちろん、王によって国民の支持率は変わるのだから、新しい王に国民が従うかどうかは別ではあるが。」


 「 故意ではないのなら、よほどのことがない限り噛まれたくらいでは罪に問うなどありえんよ。むしろ良く傷をつけたと称賛されるものだぞ。」



 思わず顔を上げてしまう。

 その瞬間、正面にいた魔王様とばっちりと目が合ってしまう。 

 魔王様の目は、とても優しい目をしていた。



 「 そういうことだ。ついでに、我はそこらの魔族よりも再生能力も高い。それゆえ、我よりも傷つきやすい、国民であるお主の体調の方が心配だ。どうでもよいことでいつまでもうじうじとするな。」



 その上、私の心配…なんて………

 どうして……魔王様は…こんなにも……


 気づけば私は泣いていた。

 ぽろぽろと瞳から溢れた涙が頬を伝い落ちていく。

 あたたかい……心地いい……優しさが……


 思えばいつぶりだろうか、失敗に罰がつかないどころか、私の心配をされるのは…

 奴隷だった時は、心配すらされたことなかったな……

 優しさって、こんなにも温かいものだったんだ……


 「 ど、どうしたのだ!?どこか痛むのか?」


 魔王様は急に泣き出した私に驚いて焦っている。

 ごめんなさい……心配させちゃってごめんなさい……

 涙を拭いたいのに、後から後から溢れ出て止まらない。


 感謝を、優しさをくれたお礼だけでも、しなきゃ。


 「 ありがとう……ございます。」


 「 ?????? 」


 泣きながらお礼を言われた魔王様は余計に混乱してしまっている。

 そんな時、ガチャッという音と共にレヴィリアさんが部屋に入ってきた。



 「はぁーい、シアちゃん体調は大丈──」


 レヴィリアさんは部屋に入り、泣いている私とすっかり困り顔になってしまった魔王様を交互に見て眉をひそめて魔王様を見た。


 「 魔王ちゃん……貴方…」


 「 違うからな!?わ、我は何もしてない…はず………」


 そう言う魔王様を横目に見ながら、レヴィリアさんは歩いてきて私を抱きしめた。


 「 よーしよし、大丈夫よ~。魔王ちゃんに何かされたなら私がぶっ飛ばしてあげるからねぇ~~、怖くないわよぉ~。」


 「 我の扱い酷くないか……?」


 レヴィリアさんは私の背中を優しく撫でる。

 違う、違うのっ……魔王様が何かしたからじゃないのっ……

 魔王様の、みんなの優しさがあったかくて、優しい魔王様を傷つけてしまったのが申し訳なくて…

 それを伝えたいのに言葉が上手く出なくて、レヴィリアさんの方を向いて口をぱくぱくと動かすことしか出来なかった。


 そんな私を見てレヴィリアさんは微笑み、私の頭を撫でた。


 「 分かってるわ、うちの魔王ちゃん、優しすぎるくらい優しいでしょ?」


 「 魔王ちゃんはいい子すぎるのよねぇ。国民のためなら自己犠牲を平気でしちゃう。ほんと、そんなことされる方は罪悪感は凄いし、ありがとうって気持ちが溢れてやまないわよねぇ。特にシアちゃんはここに来るまでが悲惨だったものね…」


 「 魔王ちゃんは自分がどんなことになろうと怒りはしない、本当に怒るのは仲間を傷つけられた時ぐらいなの。自分よりも仲間が大切、仲間を守るためなら自分はどうなっても構わない、そう考えちゃってるのよねぇ…。」


 「 一緒にこの国で暮らしてるとね、魔王ちゃんが私たちのことをすごく大切に思ってくれているのが本当によく分かるの。だから国民はみんな魔王ちゃんのことが大好きだし、魔王ちゃんはこんなに幼いけどみんなついて行くんでしょうね。」


 レヴィリアさんは、私を撫でながら魔王様を見て微笑んだ。

 魔王様は少し照れくさいのか、目線を泳がせた。


 そんな魔王様の様子を見て、ふふっとレヴィリアさんは笑った。


 「 まあ、色々語っちゃったけど簡単に言うと、魔王ちゃんがしたくてした事だからあまり気にやまないでってことよ。これが私達の魔王様、ワズちゃんのいい所なの。どうしても守られるのが申し訳ないって感じるのなら、強くなって逆に魔王ちゃんを守ってやりましょう!私も協力するわ!!」


 「 気恥しいのだが……まあ、そういうことだ。それとシア、襲ってしまったこと久遠に謝っておくのだぞ。あと、カイナにも礼を言っておけ。あやつが自我をなくしたお主からみなを守り、気絶したお主をここまで運び、看病していたのだからな。」


 「 はい……、はいっ…!」


 まだ止まらない涙をこらえながら、一生懸命頭を縦に振った。

 ありがとう…ございます…!!


 そんな様子の私を見て、レヴィリアさんはうんうんとうなずき、私と魔王様の手を握らせた。


 「 よし!ほら、握手!これで今回の悪い話はおしまい!」


 「 なぜお主が仕切っておるのだ……、まあ良いが…」


 こうして、今回の私が引き起こした事件についての魔王様への傷害問題は解決した。


 「 ほーら、もう友達!だから泣き止むのよ~。」


 レヴィリアさんはそう言いながらハンカチで私の涙をぬぐってくれる。


 「 本当に、ごめんなさい。あと、色々とありがとうございます。」


 一方私は、もう一度魔王様に謝罪と感謝を述べる。


 「 こら!友達に敬語は使わないの!」


 「 えっえっえっ!?」


 なぜかレヴィリアさんに怒られた。

 しかも怒られた理由が敬語を使ったこと。


 え、っと、友達って、私を安心させるために言っただけで、私と魔王様が本当に友達になったってわけじゃないよね…?

 驚きすぎて涙も止まっちゃった。


 「 いい機会だし、シアちゃんと魔王ちゃん友達になっちゃいなさいよ~。」


 「 いや、突然だな!?お主はいつも突然すぎるぞ!!??」


 にやにやしながらレヴィリアさんはそう言った。

 魔王様もさすがにいきなりすぎて当然驚いている。


 「 全くもう!魔王ちゃんったら素直じゃないんだから!」


 魔王様の文句にも全く気にした様子もなく、くすくすとレヴィリアさんは笑っている。というか、それどころか説教をはじめた。


 「 大体、魔王ちゃんは友達がいなさすぎるのよ!!私2人しかしらないのだけれど。そのうち1人は部下だからって全然友達のように接さないし…魔王とはいえ魔王ちゃんはまだまだ子供なんだから、もっと友達を作ってわちゃわちゃ遊びなさい!」


 「 しかし仕事がだな…」


 「 仕事が多いのは分かるけど、遊びに行くこともなく、文句も言わずに淡々と書類の山に埋もれながら毎日毎日仕事ばっかり、私達がどれだけ心配してるのかわかってるのかしら?ねえシアちゃん。」


 レヴィリアさんが魔王様を笑顔で怒ってると思ったらまさかの私にふってきた。

 いきなり言われても…


 でも、確かに仕事ばっかりしてたら心配しちゃうかなぁ…


 「 確かに、それは心配してしまいますね…」


 「 ほら!!シアちゃんもこう言っているわよ!!!」


 「 うぐぅ…」


 魔王様は言い返す言葉がないのか、うなっている。


 「 この際だからはっきり言いましょう、魔王ちゃん、貴方働きすぎなのよ!!」


 「 そうですね、魔王様は少々働きすぎです。遊びに連れ出してくれるような友達が必要であると私も考えます。」


 「 やっぱりカイナちゃんもそう思うわよね!?」


 まっっっっって

 カイナさん、いつからそこに…?

 まさかのカイナさんがいつの間にか部屋の中にいて、レヴィリアさんの説教に加わった。


 「 それを言うならお主もだろうカイナ!!我よりも仕事量が多いだろう!!!」


 「 私は幼少期から鍛えておりますので。」


 「 どんな言い訳だ!!!」


 まさかの乱入者に魔王様も負けじと反抗し、どんどん騒がしくなる。

 休んでほしい部下と、休みたくない王様。


 どんな状況???

 あまりにもおかしくって思わず声を出して笑ってしまう。


 すると、思ったよりも大きな声で笑ってしまっていたのか、魔王様達が私のほうを向いた。

 そして、お互いに顔を見合わせて笑った。




 一通り笑った後、魔王様がおもむろに私の方へ手を差し出してきた。


 「 まあ、なんだ、仕事の量を減らすかどうかはともかくとして、シアさえ良ければ我の友にならぬか?堅いのはあまり好かんのだ。」


 その手を数秒見つめて、私はーーー


 「 もちろん!」


 と笑顔で握り返した。


 今までなら魔王だからと、敬わなければならない存在と思ってお恐れ多いと断っていたかもしれない。

 けど、王様だからって友人を作ってはいけないと誰が決めたのか。魔王様は魔王であるとともに1人の魔族なんだ。

 身分という制度を否定するわけじゃない。

 人を率いていく立場の人とそれに従う人では命の重みは違ってくるだろうし、身分というものがなければ従うことに耐えきれない人が出てきて、暴動も起きやすくなると思う。

 だから、国民全員と王様は対等な存在、友達とはいかないかもしれない。

 でも、王様も国民も同じ感情をもった存在であることには変わりがないんだ。


 だから、王様という国のトップの存在に友達がいることはおかしなことではないし、どっちかといえば当たり前のことだ。

 この魔界にきてから、目の前で魔王様達のやり取りを見てから、そう感じることができるようになった。

 魔王様のおかげで、そう感じることができるようになった。


 魔王様が友達になりたいと望むのなら、私はそれにこたえたい。

 魔王様と対等な存在となって、良き遊び相手、良き相談相手、心から信頼できる者となりたい。

 この優しすぎる魔王様を見て私は、心からそう思った。


 魔王様は、ワズは、手を握り返した私を見て嬉しそうに笑った。


 「 改めてよろしく、だな。」

 「 うん、よろしくね!」


 最初の目標は、友達の、ワズの仕事量を減らすこと!





 生贄少女は魔王様の良き友人になったようです。


タイトル回収ーーーー!!!!


物語はまだまだ続きます

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