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第21話 彼女は魔族

 お久しぶりでございまする。

 リアルが色々忙しかったり、筆が乗らなかったりでなかなか更新できていませんでした申し訳ねえ。


 いつも通り、更新不定期です。


 縦に鋭く割れた瞳孔は理性の光を失っており、その視線は突如現れた2人の男-ワズとカイナ-に固定されている。

 鋭く伸びた爪は引っ掻かれでもすれば簡単に皮膚を裂くだろう。

 口の両端には鋭くとがった犬歯が覗く。

 背から生えている黒い蝙蝠の翼は、まるで威嚇をするかのように大きく広げられている。

 そして、髪からちらりと覗くのは魔族特有の少し尖った耳。



 「 吸血鬼種……か。」


 ワズの言う通り、シアには吸血鬼種の特徴が現れていた。


 さて、どうするか……と腕を組みながらそう呟くワズに対し、カイナが話しかける。



 「 陽の下でこれ程活動出来ていることを見ると、吸血鬼種にとっての他の弱点となるものも克服している可能性がございます。気をつけてください。」


 「 またイレギュラーな…………む?」


 どう対処しようかと悩んでいるワズの耳にざわざわと大人数の騒ぐ声が聞こえてきた。


 いつの間にか騒動を聞き付け、人が集まってきていたのだ。

 その中の一人がシアを押さえつけようと彼女に近づく。

 だが、つい先程まで人族であったとしても今は魔族。更には暴走状態のためか、限界を超えた力を出している状態である。

 たとえ子供であったとしても、暴走状態の魔族を無傷で抑え込むのは大人の魔族でも難しい。

 つまり、暴走状態の彼女を傷つけないように押さえつけようと近づく者など、彼女にとってはただのご馳走だった。

 男の喉元へ手が伸びる。

 しかし、その手をまたしても魔障壁が防ぐ。

 そのおかげで男は怪我こそおわなかったものの、シアの放つ魔力に当てられて腰を抜かして座り込んだ。

 敵意を感知したことにより、今までは無差別に漏れ出ていた魔力のほとんどが男へと向けられたのである。

 腰を抜かすだけで済んだのは、魔障壁が魔力すらも防いでいたからだ。直にくらえばそれだけではすまなかっただろう。


 腰を抜かした若者にカイナが声をかける。


 「 不用意に近づかないようにしてください。牙で傷をつけられてしまうと眷属化が起こります。漏れ出ている魔力量も多い。直に当たれば危険ですのでお下がりください。」


 カイナの忠告を聞いた住民達は腰を抜かした男を引きずりながら少し遠くに離れた。


 「 しっかしなぜこんな状態になっておるのだ?」


 「 血液が足りないのでしょうね。この様子では随分と長い期間血液を摂取していなかったようです。」


 「 ふむ、つまり血を与えればいいのだな?」


 「 簡単に言えばそうですね。血液を与えればあの状態からは脱します。」


 「 よし、なら我に任せろ。何が起ころうとも手を出すな。分かったな?」


 「 …承知致しました。」


 少し不服そうにしながらもカイナがそう言ったのを聞くと、ワズは魔障壁の中から出た。


 そして魔法を使おうとする素振りも見せず、武器も持つことなくシアに近づいていく。


 シアはワズを警戒してか、1歩も動かない。


 ワズがシアまであと十歩という所まで近づいた瞬間、シアが動いた。


 目にも止まらぬ早さでワズに飛びかかり、その首筋を噛む。


 無抵抗で噛まれたワズを見て周りがどよめき、シアを引き剥がすために近づこうとするが


 「 近づくな!!」


 ワズの怒声が響いた。


 ワズはシアが飛びかかってきた勢いで地面に倒れ込んでしまっているが、自分を押さえ込んでいるシアを押しのけたり、立ち上がろうとする素振りを一切見せない。

 ただただじっと血を吸われているだけである。


 数秒たったぐらいだろうか、突然シアから力が抜けぽすりとワズの上に倒れ込む。

 暴走の原因である血液不足、それが解消されたため限界以上の力を使っていた反動が気絶という形で現れたのだ。

 シアが完全に気を失ったことを確認できたワズは、ゆっくりと起き上がりカイナの方を向く。


 「 カイナ、シアを頼む。」


 「 承知致しました。」



 そう言うとカイナは、いわゆるお姫様抱っこの状態でシアを持ち、転移魔法で魔王城へと帰っていった。


 これは余談だが、その場にいたファンクラブ会員達は全員、気絶しているシアに対し恐ろしいほどの嫉妬の視線を向けていたという。



 カイナが帰ったのを見届けると、ワズは立ち上がり服に着いた砂を払う。

 転移魔法の使えるカイナにシアを任せたため、自分が帰るための転移魔法を使える者がおらず歩いて帰ろうとしているワズを住民が取り囲む。


 何事かと困惑しているワズを持ち上げ、胴上げを始める住民達。



 「「「「 魔王様バンザーイ!!魔王様バンザーイ!!!」」」」


 「 ????!!!! 」



 普段は城から書類仕事で出られず、なかなか顔を見ることすら出来ない我らが小さき王が自分達を守るために仕事をほっぽりだして駆けつけ、その身を呈して守ってくれたのが余程嬉しかったのだろう、大きな声で何度も賞賛する。

 当の本人は王として当然のことをしたまでと思っているため、住民の反応にとても困惑しているが。


 ワズは胴上げからなんとか抜け出すと、これ以上は勘弁だと言わんばかりに城に向かって走りだし、少し行ったところで何かを思い出したように住民達の方を向く。

 それに合わせてワズを追いかけていた住民達も止まる。



 「 シアは普段はいい子なのだ。これからも会うことはあるだろうが、その時はどうか怖がらないで接してやってくれ。我からの頼みだ。」


 ワズは少し不安そうな顔をして住民達にそう言った。

 住民達はきょとんとして顔を見合わせ、なーんだそんなことかと言わんばかりに、そしてワズの優しさに笑顔を見せる。



 「 もちろんだぜ!!」



 住民の1人がそう言ったのを聞くと、ワズも「それでこそ我の民だな!」と笑顔を見せる。

 王の笑顔に住民達が喜ぶ中、1人の住民がワズに心配そうに声をかける。



 「 あの、魔王様、傷は大丈夫なんですか…?噛まれたら眷属化が始まるってカイナさんが言ってましたけど……」


 「 ああ、そのことか。それは心配しなくて良い。我は()()()()だから大丈夫だ。」



 ワズはそう言うと、噛まれたところを見せる。



 「 ほら、傷もすっかり消えておろう?」



 ワズが言ったように、そこには噛まれた傷は愚か、すべすべの肌しかなかった。

 それを見た住民達は、安堵したと同時にまた騒ぎ始める。



 「 ほんとだ!回復力すげえな!?さすが魔王様だぜ!!」


 「 魔王様!!魔王様バンザーイ!!魔王様バンザーイ!!!」


 「 ええいそれはやめんかぁ!!!気恥しい!!!」



 住民達のバンザイコールが響く中、顔を赤らめたワズの怒声が響いた。







──────────────────────



 人の住んでいない今にも崩れそうな建物の屋根で、黒いパーカーを着た月白色の髪の男が小さな結晶に向かって話しかける。

 その結晶はコクウがシアに渡したものと同じであり、結晶に映る誰かと話しているのがわかる。


 「 俺だ。」

 「 ああ、処分は出来た。」

 「 ダメだな、全く使い物にならない。」

 「 実験体の質が低かったのもあるだろうが、一瞬で壊れた。」

 「 知能の低下と肉体の変貌が起こっていたな。」

 「 ああ、ああ、分かった。」

 「 それと、ルーテの奴が顔を見られた。」

 「 ああ、当然のことながら回収に行った俺も見られているだろうな。」

 「 目撃者は殺しても?」

 「 なぜ?殺した方が楽だぞ。」

 「 そうか、わかった。」


 男はその言葉を最後に、結晶をポケットにしまった。


 「 ……チッ、なんで俺があのクソ野郎の後始末しなきゃならねえんだよ。」

 「 あの場で多少痛めつけておくべきだったか…」

 「 あのクソ野郎は何度言っても理解しないからな…」


 愚痴を言っている男の耳に自分を呼ぶ声が聞こえてくる。

 その声の主を把握した男は心底嫌そうな顔をしながら深くため息をついた。


 「 ……反吐が出る。」

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