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第20話 報告

おっっっっ久しぶりでございます

相変わらずの更新不定期です

 目の前で薬によって異形と化した男が破裂した。

 あ、これはまずいと思った時にはもう遅く、男の血や肉が私に大量に降かかる。


 うわっぺっぺ


 ぽかんとしてたから口の中に入っちゃった…


 なぜだろうか、私は臓器や肉片を見てしまったことによる不快感より、口に広がる血の味の不快感が気になって仕方がなかった。



 まっず……うえぇぇぇ…………


 あまりの不味さに顔を顰めてしまう。


 なにこれ、泥水みたいにドロドロだし、生臭いし、吐き気がする。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 ……………………あ、れ?



 思わず目を見開いてしまう。


 私、何を考えて……?


 さっきからどこかおかしい……



 ふと、いい匂いが漂ってくる。


 美味しそうな…匂いがする……

 匂いは…クーちゃんから……?


 この匂いは…………新鮮な、血の匂い……


 なん、で?


 お腹が、すいた。


 喉が、乾きを、訴えている。


 視界があかく、なって……


 クーちゃんの心配してくれる声が微かに聞こえたと同時に、プツンと私の意識は途絶えてしまった。



 ─────────────────────


 場所は変わり、魔王城の執務室



 大量の書類から覗く黒いあほ毛が忙しなくはねている。

 書類に埋もれるように仕事をこなしているのは、現魔王であるワズだ。


 紙をめくる音とペンが走る音だけが静かに響く室内に、新たにノックの音が加わった。


 「 魔王様、逃げ出した犯罪者達の件についてのご報告に参りました。」


 「 うむ、ご苦労。入ってこい。」


 扉を開けて入ってきたのは金髪金眼の執事、カイナだ。

 彼は一礼し、どこからともなく書類を取り出し話し始めた。


 「 ご報告致します。まず犯罪者達について。主犯であるグッツァ、彼の部下であるモール、ドート、グア、デルマの計五人の男達ですが、彼らは元々南方の出身で───」


 「 まてまてまてまてまてまてまてまて!!??そやつらの個人情報から語らなくて良い!そこは後で我の方で読む。事件に関係することだけ話せ。」



 まさか出身から話されるとは思っておらず、慌てて止めに入る。


 カイナもそれもそうですねと呟き、改めて事件の報告を始めた。



 「 昨夜、彼らを留置していた場所に何者かが侵入し、彼らを閉じ込めていた檻を破壊して逃亡。その時同時に彼らも逃げ出した様子です。」

 「 檻は鋭い何かで切られており、破壊された檻には魔力の残留は確認出来ませんでした。檻だけが綺麗に壊されていたことから、犯人が檻を破壊する際に利用した武器は小型のものか柔軟性のあるものだと予測されます。」

 「 犯人の足取りは未だ掴めておりませんが、騎士団が捜索中ですのでもう少々お待ちください。」

 「 以上が現時点で上がっている報告となります。」



 カイナは一通りの報告を終えると、手に持っていた書類をワズに手渡した。



 「 留置所の警備兵は?」


 「 睡眠香を嗅がされたようで、眠っていたようです。」


 「 そうか、怪我がないのなら良い。」



 そう言ってカイナから手渡された書類をペラペラとめくる。



 「 ふむ、やはりもっと警備を強化すべきか…?いや、しかし……」



 書類を片手にブツブツとこれからの対策などについて呟くワズに、カイナが話しかける。



 「 魔王様、実はもう一件ご報告したいことがございます。」


 「 む?なんだ?」


 「 今期の生贄、シア様についてです。」



 意外な人物の名前が出てきてワズは首を傾げた。



 「 あやつが何かしたのか?」


 「 いえ、シア様が特別何かをした訳では御座いません。シア様自身についてです。」


 「 なんだ、申してみよ。」


 「 では、単刀直入に申し上げます。」



 そう言うと、カイナは一呼吸おいて、話し始めた。





 「 シア様は人族ではありません──────魔族です。」





 「 …は?」



 予想もしていなかったことを言われ、ぽかんとしているワズを気にすることなくカイナは話を続ける。



 「 違和感は奴隷紋の解除の時からありました。通常、奴隷紋の解除は数秒で終了するのに対しシア様の奴隷紋の解除には倍の時間がかかりました。また、奴隷紋の強制解除時には一瞬だけ電流が流れたような痛みが走るだけなのです。ですがシア様は何度も いたい、()()() とうわ言のように繰り返しておりました。痛みの種類も、レベルも随分と違ったように感じました。」

 「 更に、魔力の流れも少し違いました。奴隷紋を解除する際に流した私の魔力は、奴隷紋の誓約だけでなく別の誓約を傷つけてしまったような感覚を感じました。」

 「 次に訓練の時です。シア様の体力は人族のそれではありませんでした。平均的な13歳の人族の女性が、たとえ木製の片手剣だとしても何時間も振り続けることは不可能です。」

 「 更には、レヴィリア様との訓練。もともと魔法を多少なりとも扱えていたとしても、魔力の半物質化が可能になるのが早すぎます。魔力量も日に日に異様な数値で増加しています。」


 「 以上の要因から、彼女が人族ではないことは確かです。最近まで確証が持てず、報告が遅くなってしまったことを深く謝罪致します。」


 カイナはそう締めくくり、申し訳ございませんと頭を下げた。

 あまりに予想外の報告にぽかんとなっていたワズは、はっとして当たり前の疑問を口にする。



 「 しかし、レヴィリアが魔力登録をした時の魔力は人族のそれだったはずだぞ!?」


 「 はい、私も確認しましたがあの時は紛れもない人族でした。しかし、そのあと何らかのことが起こり種族が変わってしまったのか…」


 「 そのような事が可能なのか…?」


 「 理論上は可能です。非常に稀な事ですが、実例も少しありますよ。」



 そう言った後、カイナはふと何かに気づいたように口元に手を当て少し考え、



 「 もしくは────」



 と言いかけた瞬間、二人が同時に同じ方向を向く。

 二人にはその方向から得体の知れない大きな魔力が突然生じたように感じただろう。



 「 …どうやら、ゆっくり話している時間はないようですね。」


 「 そのようだな。この異常な魔力は南地区の方からか…?」



 その言葉を聞いたカイナは少し以外そうな顔をした。



 「 おや、感じ取れるのですか?」


 「 流石にこれだけ大きければな。」



 少し苦笑しながらそう答えたワズは立ち上がり、カイナに手を差し出す。



 「 とにかく行くぞ。カイナ、頼む。」


 「 承知致しました。」



 カイナはその手をそっとすくい上げるように持ち、転移魔法を発動した。





 転移したワズの目に入ったのは、今にも久遠に襲いかからんとするシアの姿だった。

 それを見たワズは慌てて声を上げる。



 「 ?!カイナ!!」


 「 ご安心を、既に対処済みです。」



 ワズが叫んだ時にはカイナは既に障壁魔法を発動しており、久遠とシアの間に割って入った。

 障壁魔法がシアの攻撃を防いだのを見て、久遠の方に振り返る。



 「 ご無事ですか?久遠様。」


 「 カイナお兄ちゃんだ!僕は大丈夫だよ!!ありがとー!!!」



 ぱぁっと瞳を輝かせる久遠。

 久遠の元気そうな様子を見てワズはほっとしながら目線を魔法の障壁を挟んでカイナの前にいる人物に目線を向ける。


 目線の先には例の少女、シアの姿があった。

 普段とはかけ離れたただならぬ雰囲気をただよわせるシアに、どうしたものかと頭を悩ませながら二人に近づき言葉を発した。



 「 どうやら大変なことになっておるようだな。」

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