第19話 お薬の効果
お久しぶりですあけましておめでとうございます
なんで!?こいつらは牢屋に居るはずなのに、犯罪奴隷になったんじゃなかったの!??
どうして、なぜここにいるの?
どうやって牢屋から抜け出してきたの?
目の前の男達に対しての疑問が尽きない。
私が考えているうちにも状況はどんどん動いていく。
男達は死んでくれと言った後、一斉に襲いかかってきた。
それをひょいひょいと避けるだけでなく、お返しとばかりにカウンターを決めていくクーちゃん。
この前の時と同じようにクーちゃんによって一人、二人と倒されていく。
「 ねーねー、筋肉のおじさん達なんでここにいるの?」
戦いながら男達に質問するクーちゃん。
「 お前らにやり返すためだ!!人族の子供に負けたなんて俺のプライドが許さねぇんだよ!」
「 でも…、強さが前と同じだよ?それじゃ僕には勝てないよ!」
そう言ってクーちゃんは回し蹴りでまた一人倒した。
ちなみに私も絶賛一人に襲われ中なんだけど避けるので精一杯というか避けれてる自分を褒めたいです。
訓練してたからかな…
ありがとうレヴィリアさん…ありがとうカイナさんっ……!
しばらく耐えてると私を襲っていた奴も、自分を襲っていた男達を全員倒したクーちゃんの投げた石が当たって気絶した。
あっという間にボスと呼ばれてた男一人になった。
この前と同じで、男にとっては絶望的な状況のはずなのにこいつはニヤニヤした気持ち悪い笑みを絶やさない。
「 やっぱりお前らは使えねぇな、もう要らねぇわ、オレ一人で十分だ。」
そう言うと男はどこからか紫色の液体が入った瓶を取り出した。
なに…あれ……、凄く嫌な予感がする……
あれは絶対に良くないものだ、本能がそう告げてる。
「 これで終わりだクソガキ共、絶望を見せてやるよ!!」
そう言うと男は瓶の中の液体を一気に飲み干した。
パリンッとガラスが割れる音がする。
男が瓶を落とした音だ。
「 がっ、がァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!?????」
飲み干した瞬間、男は喉を押さえて苦しみ始めたかと思うと、どんどん筋肉が膨張していく。
一部の皮膚がメリメリと音を立てて裂け、膨張しすぎた筋肉により骨が折れていく音が辺りに響く。
しかし、それらの傷はものすごいスピードで治っていく。
これも薬の効果……?
裂けたそばから、折れたそばからどんどん回復していく。
回復していってる……はずなのに、男の姿は元の姿とはかけ離れていく。
異様に膨張した筋肉により1回り2回りも大きくなった体長、爪も太く鋭く伸び、まるで大型獣のような爪になっている。
髪は薬の副作用からか全て抜け落ち、頭蓋骨が変形したのであろう、普通よりも後ろに伸びた頭が一際目立つ。
「 フシュゥゥゥゥゥゥ………………」
肉体の変化が収まって、男は息を深く吐いた、そして
「 こロしてヤる……コロしテヤる……」
と、うわごとのようにボソボソと言っている。
筋肉の膨張で少し口が変形してしまったのか発音のイントネーションがおかしい。
それに、知能も低下している……?
「 ゴロじデヤるぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁああああああっっっっ!!!!!!!」
男はそう叫ぶと、クーちゃんに向かって飛びかかっていった。
「 っ!!?」
クーちゃんは予想していなかったスピードにびっくりして目を見開いている。
そのせいで一瞬行動が遅れたけど、ギリギリで男の爪の攻撃をナイフで受け止めることが出来た。
けど、そこまでだった。クーちゃんのナイフは爪を受け止めた瞬間ピシリとヒビがはいり、数秒の拮抗の後折れてしまった。
そのままクーちゃんを殺さんと迫り来る爪を何とか避けようとするが、無理な体制で攻撃を受け止めてしまっていたクーちゃんは回避行動が間に合わず、完全には避け損ねて腕に傷を負ってしまった。
「 クーちゃん!!??」
「 大丈夫だよ!!!」
思わず名前を叫んでしまった私にすかさずクーちゃんは返事をした。
そうは言いながらも、それなりに深い傷なのかぽたぽたと血が流れ落ちる。
なんか……血を見てるともやもやしてくる…
今まで傷ついてるのを見た事ないからかな……?
クーちゃんは怪我をしたところを押さえながら男に話しかける。
「 お薬なんかで強くなっても面白くないよ、筋肉のおじさん。せっかく遊んでくれても素直に楽しめないよ…。」
凄く残念そうな声でそんなことを言った。
クーちゃん!?これは遊びじゃないよ??!!
「 ウガァァァァッッッ!!!!」
男はクーちゃんのその言葉を挑発されたと思ったのか、怒りの咆哮をあげながらクーちゃんに襲いかかる。
クーちゃんはもちろんその攻撃を避ける。
さっき攻撃があたったのは動揺していたからであって、落ち着いて見ればよけれるんだ…、良かった……
けど、しばらく男の攻撃を避け続けていたクーちゃんに段々と男の攻撃がかすり始める。
そうか、腕からの出血で段々動きが鈍くなってきてるんだ…
助けたいけど私じゃ足でまといになっちゃう……
どうすればいいのか分からず迷っていると、出血しすぎたのかカクッとクーちゃんの足から力が抜け、体勢を崩してしまう。
そして、そのまま膝から崩れ落ちる。
クーちゃんっ!!?
男はこの隙を見逃すはずがなく、その鋭い爪でクーちゃんを引き裂こうとする。
ダメっ!!!!
もう足でまといになるからとかそんなこと考えてる場合じゃない、足を踏み出してクーちゃんを助けに行く
っ……間に合わないっ……
男の爪がクーちゃんの肌に触れる直前、閉じていたクーちゃんの目が開いた。
そしてそのライムグリーンの瞳で男を睨みつける。
その瞬間、男がクーちゃんから飛び退いた。
何かを感じ取ったのか、非常に怯えた様子でクーちゃんの様子を見ている。
その間にクーちゃんはフラフラしながらも立ち上がった。
顔を上げたクーちゃんの瞳はいつもの髪よりも少し明るめのアクア色に戻っている。
いまのは……一体……
というか、まだ立っちゃ…
「 シアお姉ちゃん!危ないよ!!」
へ?
どうやらクーちゃんに恐れを抱いた男は攻撃対象を私に変えたようで、気づいた時には目の前でその大きな爪を振りかぶっていた。
だめだ、これは当たる、そう思ったその時──
目の前で男の体が弾け飛んだ。
大量の血が私に降り注ぐ。
男だけでは無い、視界の端では気絶していた男の部下達の頭が地面に落ちる様子が見えた。
「 ご協力ありがとね、十分データは取れたからさ、お前らもういらないよ。ばいばーい。」
そう言いながらシア達の目の前に現れたのは、男に薬を渡した張本人であり、シア達と数十分前に出会った頬の星のマークが特徴的な男の子だった。
そしてシアと久遠を見てハッとすると
「 あっ!しまったな、ローブ着るの忘れちゃった…、顔見られちゃったなぁ。」
男の子はポリポリと頬をかきながらうーんと唸り、何かを閃いたようにポンっと手を打った。
「 目撃者を全員殺せば解決じゃん!」
そう言い目の前でずっと俯いているシアの方を向いて、手を伸ばした瞬間
「 おい。」
と、冷たい声が響いた。
男の子はその声を聞くと、ばっと後ろを振り返る。
「 この惚れ惚れするほど綺麗声は───アニキ!!」
男の子が見つめている方向には、黒いパーカーを着た男が立っていた。
パーカーのフードを被っているため細かい容姿は分からないが、月白色の髪が男の子との血の繋がりを感じさせる。
男はまるで男の子──弟の声が不快なように顔を顰め、パーカーの奥からちらりと覗くその青緑色の瞳で弟を睨み付けながら冷たく静かに言った。
「 お前の今回の仕事は実験体を見つけること、薬を飲ませること、薬の効果を観察し、報告すること、実験体を処分すること、の4つだ。余計なことをして俺の手を煩わせるな、殺すぞ。」
「 はーい!ごめんなさーい!!」
弟である男の子は殺すと言われたにもかかわらず嬉しそうに返事をする。
そんな弟の様子を見た男はもう用はないとでも言いたげに背を向け、建物の屋根をつたってどこかへと去っていった。
弟の方もまってまってと言いながら兄の背中を走って追いかける。
その途中で後ろを振り返り
「 じゃあねー!」
と一言言って軽く手を振り、男の子も去っていった。
「 ばいばーい!また今度遊ぼーね!」
出血で立っているのも辛いはずなのだが、久遠は無邪気な笑顔を浮かべて手を振っている。
ちなみにいつの間にしたのか、腕の傷に応急処置として服の一部を破いた布が巻かれていた。
男の子が見えなくなると振っていた腕を下ろし、シアの方を向く。
もう自分達に危害を加える者はいなくなったはずなのにいつまでも俯いているシアに、久遠は首をかしげながら
「 シアお姉ちゃん、大丈夫?あのお兄ちゃん達もうどっかいっちゃったよ?」
と声をかけるが、シアからの反応は一切ない。
久遠が近づこうとした瞬間、シアがゆらりと立ち上がった。
「 シアお姉ちゃん……?」
異様な雰囲気のシアにもう一度声をかける久遠
すると突然、シアは久遠の声に反応し彼女に向かって飛びかかった。
そのスピードは変貌した男と比べても、比べ物にならないくらい速く、出血によりふらふらの久遠に避けれるものではなかった。
しかし、久遠が怪我を負うことはなかった。
なぜなら─────
「 ご無事ですか?久遠様。」
久遠の前には魔障壁を展開したカイナがいるからだ。
そしてその斜め後ろには
「 どうやら大変なことになっておるようだな。」
少し困り顔の魔王がいた。
更新不定期です
題名って考えるの難しい
《報告》
クーちゃんの髪色の表記を水色からアクア色にしました




