第13話 訓練②
走り出して直ぐに気づいた。
武器持ってるとめっちゃ走りずらい。
それでも何とかカイナさんに近づいて、剣をふりかぶる。
格上って分かってるからか、遠慮なんて気持ちはあんまりない。
今は、この人に私の全力をぶつけるんだっ…!!
私が振り下ろした剣を、カイナさんは片足を軸に回転することで避けた。
空振りした剣は、そのまま地面に当たる。
ガッという音と共に手に鈍い痛みが走る。
いっっ……た!?
すごく……手がじんじんする……。
初めて感じる種類の痛みに、思わず剣を落としてしまった。
もっと力を調節しなきゃ……。
そんなことを考えながら、チラリとカイナさんの様子を伺う。
……特に何も言う気配を感じない。
まだ続行ということですね、はい……。
今のだけでいいかなってちょっとだけ期待してたけど、現実そんなに甘くないね……。
少しだけじんじんするのが治まってきた手に再び剣を持って構える。
よしっ、やるか!
「 やぁぁぁ!!」
今度は叫びながら、カイナさん向かって切りかかっていく。
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むり……、もう立てない……。
私の視界には綺麗な星空が広がっていた。
訓練所の天井って、なかったんだ……。
いつの間にか外は暗くなっていて、魔法で作られた光玉があたりを照らし、夜の空気に冷やされた冷たい風が頬を撫でる。
普段なら肌寒いくらいの冷たさの風も、動き疲れて体が熱くなってる私には丁度いい。
風が気持ちいいなぁ…………なんて思ってると、
「 お疲れ様でした、シア様。」
疲労困憊で、仰向けに倒れたまま起き上がれない私に、訓練を始めた時と全く様子の変わらないカイナさんが手を差し伸べてきた。
カイナさんの手を借りて、何とか上半身を起こす。
「 あり、がと…、ござ……ま、す。」
一体、何分?何十分?何時間?カイナさんに攻撃し続けてたかは分からないけど……、やっぱり恐ろしい人だと再確認出来た。
まあ、結果は当然のごとく、カイナさんに一撃を与えることも出来ずに終わった。
私の攻撃は全て見切られていて、かすることすらなかった。
格の違いってものを見せつけられた気分だよ……。
いつか私もこれくらいには強くなれるかな……、なりたいな……。
「 お疲れ様。今までの子と比べると結構粘ってた方だよ、頑張ったね。」
そう言いながらルクスさんが、布をくれた。
差し出された布をぺこりと頭を下げて受け取る。
ありがたい…………。ちょっと汗でベトベトして気持ち悪かったんだよね……。
しっかし……、あれで頑張った方なの……?
うーん、そんな感じはしないけど……。
そんなことを考えているうちに、だいぶ呼吸が整ってきた。
「 シア様、シア様は普段から何か力仕事などをされていたのですか?」
?
突然カイナさんがそんなことを聞いてきた。
「 いえ、特には…。どうして、そう思ったんですか?」
「 そうですか…。いえ、多少気になることがあっただけですので、お気になさらず。」
そう言って、カイナさんはまた、何かを考え始めた。
????????
そんなこと言われたらもっと気になっちゃうのですが……。
もうちょっと詳しく聞こうとしたその時、
「 はいはーい、考え事するのもいいけれど、先にシアちゃんを休ませてあげましょ?」
レヴイリアさんが考え事をしているカイナさんに向かって、そう言った。
確かに休みは欲しいけどその前に質問を…
「 …そうですね。では、シア様、今日はここまでですので、明日に備えてゆっくりと休んでください。お疲れ様でした。」
「 ……はい。」
…しょうがない、また今度にするか……。
まだフラフラするけど、何とか歩けるかな……?
「 シア様、お送り致します。お部屋でよろしいでしょうか?」
「 は……い……?」
え?お送り致します??部屋まで???
えっと……、物凄く恐れ多いのですが……。
そう思って断ろうとしたけど、どうやらちょっと遅かった。
カイナさんは私のさっきの「は……い……?」を肯定と受け取ったようだ。
自分の周りの空間が歪む感覚がするかと思った瞬間、私は魔王城でお借りしてる部屋にいた。
…………………………ふぇ?
待っっっって予備動作無し、魔法陣無し、詠唱破棄ですか、転移魔法を。
外見=年齢とは思えなくなってくる……。
十七?十八?くらい……だよね?年齢……。
ちょっと信じられないかな……。
まあ……いいや……。
考えるだけ無駄だろうし、そういうものって思っておこう。
いつもの様に考えることを放棄した私は、目の前のベッドに倒れ込んだ。
ああ〜、ふかふか気持ちいい……。
あ、しまった、着替えてないや。汗もきちんとはまだふき取ってないし…。
疲労感からの眠気を何とか抑えて、起き上がってとりあえず体をきちんと拭く。
明日は何をするんだろう……
えーと、お借りした家に移るのは手続きとか、買ったものを設置するとかでもうちょっとかかるみたいだから、移動は違うでしょ。
買い物ももう済んだし……、もしかして、1日ずっと訓練?
訓練かぁ……、明日は何をするんだろう。
今日は全然できなかった魔法のことも、少しは練習出来るかな?
ワクワクするような……、やるせないような……。
そんなことを考えてるうちに着替えまでできた。
そろそろ眠気も限界にきてるので、今度こそベッドに潜り込む。
まぁ、明日も頑張りますか!!
明日のことは明日の私に任せて、私は眠りについた。
そして、また同じ夢を見る。
「 また、この夢……。」
見渡す限り、赤、赤、赤。
そんな中に、1人でぽつんと立っている夢。
私自身も、真っ赤に染まっている。
思い出したくもない、最悪な過去の出来事。
私が奴隷になってしまった理由の原点。
眠ると決まってこの夢を見る。
今までは、視覚の情報全てを拒否することによって逃げ続けてきた。
そうして耐えていれば、いつの間にか目が覚めるから。
「 もう……、いい加減にしてよ……!!」
見たくない……、嫌だ、嫌だよ……、なんで、なんでこんな夢を見るの……?
その問いかけに答えるものは、誰一人いない、なぜなら、ここには私しかいない────
「 それはね、君がこの事実を本当に受け入れてないからだよ。」
─────はずだった。
顔を上げると、そこには真っ黒な人の形をした何か、がいた。
男か女かも姿からは判別することが不可能なほどぼやけているのに、目だけは、真っ赤な真紅の眼だけはしっかりと見える。
「 君はみんなの死を受け入れた『つもり』でいるだけなんだ。心の底では、生きてる人がいるんじゃないかって思ってる。だから夢をみる。まだ執着しているから。」
人型の何かは両手で私の顔をつかみ、座り込んでしまっている私と目線を合わせてくる。
「 ほんっと、馬鹿だよね。あの惨状を見てまだ希望を見てるなんて。僕のことも忘れてるみたいだし。まあ、いいや。とにかく、早く認めなよ、みんなの死を。じゃないといつまでたってもこの夢からは逃れられないし、さっさと終わらせないと──夢に飲み込まれちゃうよ?」
それだけ言うと人型の何かは、私の顔から手を離し、
「 よし、忠告はしたよ。これで借りは返した。あとは君次第だ。僕は知らない。頑張ってね〜。」
バイバイと手を振りながら消えていった。
それと同時に、私の意識は夢の中から離れ、現実に戻った。
……そんなこと…言われなくても、分かってる……
でも……、そんなに簡単に受けて入れるなんて……無理だよ…………。
だって、前の日まではみんなで楽しく笑いあっていたのに、急に、みんな変わり果てた姿で目の前にいるんだよ……?
受け止められないに、決まってるじゃんっ……!
…………というか、誰だったんだろう……
借りって言ってたけど……それに…、忘れてるとも……。
あの真紅の瞳……どこかで見たことあるような気がするんだけど……どこで……?いつ……?
わかんない……何もわかんないよ……。
とりあえず、分かることは一つだけ、今日の目覚めは最悪だってこと。
窓から見えるまだ薄暗い空を見ながら、私は1つ、ため息をついた。
更新不定期です
訓練②と書いておきながら後半別の話になってるのは……うん、まあ、気にしないでください…………




