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私の人生、薔薇色!  作者: 小さな月
あなたは誰?
2/16


 前世の私は、どこにでもいる普通の大学生だった。念願のひとり暮らしを始め、大学にバイト、休日は大好きなゲーム三昧と、忙しくも充実した日々を送っていた。


 けれど鏡に映る“今の私”は、金髪碧眼、愛らしい容姿の女の子。名前はセレスティン──セレスティン・ヴァルト。父親が伯爵なので、伯爵令嬢ということになる。

 前世の私はお酒も飲める立派な二十歳だったけど、今世の私は先日八歳の誕生日を迎えたばかり。……若いな。

 それからここは、王都にあるタウン・ハウス。

 私は三日前、このタウン・ハウスの庭の池に頭から突っ込み、前世の記憶を思い出した。


「異世界転生、か」


 鏡の前であぐらをかき、パジャマ姿の自分を凝視する。

 これが異世界転生で間違いないとしたら、前世の私はやっぱり……死んじゃったの?

 前世の自分がどうなったのか頑張って思い出そうとしてみたけど、最近の記憶が曖昧。トラックにはねられた?

 でも記憶を思い出すきっかけが池だったから、もしかすると死因は水関係?


「溺死は嫌だなぁ……」


 前世の私がどうなったのか、今世の私に知る術はない。

 だから安らかな眠りを願うのみ。


「お嬢様、起きていらっしゃったんですね。体調はいかがですか?」


 自分以外の声が、上から降ってくる。肩越しに振り返れば、真後ろにメイドが立っていた。

 彼女の名前はアニス。

 セレスティン──私付きのメイドだ。栗色の髪とくすんだ緑色の瞳、それから優しい笑顔が絶えない十八歳。


「熱も下がったし、食欲もある。元気よ」


「それはよろしゅうございました。ですがお医者様は、今日まで安静にしているように、と。ベッドにお戻りください、セレスティン様」


 アニスに続いて部屋に入ってきたのは、家政婦長のリンダ。女性使用人のトップに君臨する、厳しい女性だ。彼女の登場に、アニスはわかりやすく委縮する。

 今回の“池落下事件”は、完全に私が悪い。

 それなのにリンダや執事のパウロは、アニスに責任があると言い──いわゆる監督不行き届き──、彼女を解雇しようとした。

 アニスに非はない。

 だから彼女を辞めさせないで。

 私が必死に訴えると、両親はすぐ味方になった。家政婦長には女性使用人を解雇する権利があるが、屋敷の主人の決定に逆らえる立場にはない。

 なのでアニスは今も、私のメイド。


「食欲があるのは喜ばしいことですね。夕食はお嬢様のお好きなものをご用意しますわ」


「ありがとう、リンダ」


 天蓋付きのベッドは、大人二人が余裕で横になれるサイズ。シーツはメイドが毎日替えてくれるので、清潔そのもの。至れり尽くせりで、毎日がホテル暮らしみたい。ダメ人間になりそう。

 こういう生活が当たり前なのね、貴族のお嬢様って。


「何か必要なものはございますか?」


「特には何も」


「では失礼します。何かあればお呼びください」


 アニスとリンダが部屋を出て行くと、私は広い部屋に一人きり。

 いかにもなお嬢様らしい部屋には、ネコのぬいぐるみやネコの絵が飾ってある。

 セレスティンはネコが好きみたい。私もネコが好き。妹──これは前世の話だけど──もネコが好きで飼いたかったけど、母親が猫アレルギーで飼えなかった。

 今世なら飼えるかな?


「でも今は、ネコよりも状況の把握が最優先かな」


 事実は小説よりも奇なり──英国の詩人バイロンに、是非とも今の私を見てもらいたい。

 そして言いたい。あなたは正しい、と。


「まあ衣食住は保障されてるし、そこまで悲観しなくてもいいよね?」


 寝る間も惜しんで没頭した大好きなゲームも漫画も無い世界だけど、一度きりの人生に二度目がきた。

 と来れば、やることは決まってる。

 この二度目の人生を、セレスティン・ヴァルトとして楽しむこと。




親愛なる日記へ

パンには飽きた。

叶うのならばお米が食べたい。それから豆腐とワカメのお味噌汁に、だし巻き卵、焼き鮭……納豆は嫌いだから、いらない。

あとポテトチップス、強めの炭酸……書くのやめよう。虚しくなってきた。


(><)



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