♯8
男性たちに囲まれていた少女は、イオナ・ルイーゼという名前だ。実家はパン屋の娘で、パン屋の営業が思わしくない状態になった時に父親が借りてきてしまった借金が原因で危うい事になっている。
しかも、その父親が病死してしまったため母親にも危険が及ぶようになった。そこでイオナは自分で何とかしようと男たちに借金返済のツケの支払日を延長してもらおうとしていた。
しかし、実際にはイオナを売春させようとしていたことが分かり、あの状態になっていたらしい。
「酷い話だけれど、その借金の取り立てはどういう人たちが仕切ってるの?」
「ベルモンドホームという、金銭関係の生業を中心とするギルドよ。彼らのやり口は非常にあくどさは昔から噂されていて・・。本当なら、私は自分の力で働いてお金を稼げるのに、あいつらは何も聞かず自分たちの言う通りにさせようとしていたの」
「そのベルモンド一家は法に抵触するような行為を前からしていたってこと?」
「うん。他の大きなギルドの株主を脅してレートを操作したりすることもあったから。でも、ぎりぎりの所は避けていたから、自治側もそう簡単に手を出せなかった」
「そうか。それで、君はこれからどうしたいんだ?いっそ今の売春の話を自治区の人たちに言えば何とかなるかもしれない」
「借金自体は事実よ。私の身の潔白より、家族に危害が加わるような行為を阻止したいのよ。」
「そうは言ってもな・・なぁ、サキュバスはそう思う?」
「別にー?」
「一応悪魔でも人の心ぐらいあるよな」
「ベリアルから人助けもしてこいだなんて言われてないし」
「んー・・」
サキュバスはただベッドに寝っ転がっていた。宿屋の中だからさっきのおっさんたちが押し寄せてくる可能性は無いんだろうけれど。
「この町の地図とかある?」
「え、うん。一応持ってるけれど・・。そういえば、貴方たちは何処から来たの?」
「あぁ。遠い外国からだよ。サキュバスと一緒に旅をしていてね」
「彼女とは・・その、恋人同士なの?」
「違う」
サキュバスはただ寝っ転がっているだけで反応が無かった。
イオナ自身も勘違いしているみたいだし、こういう状況は今後も続くのだろうか。頭が痛くなってくる。
とりあえず、イオナが取り出して机の上に広げた地図を見る。
城壁に囲まれた一つの町は四つに区分されており、今自分たちが居るところはノーラ自治区という区域だ。
その場所はギルドが多く、商業が盛んだがイオナのような女の子が多く居るということを考えると治安がいいとは言えない。
「ここがベルモンドホームの本拠地。」
「結構近いな・・すぐに潜り込めるけど。潜り込んで意味があるかどうか。君の借金がすべて振り込まれれば、後は大丈夫なんだよね」
「えぇ。でも、いいの?」
「え?」
「私を助ける必要はあまりないはずだけれど」
「あぁ、一応こっちも色々あるんだけれど。目的がいつ達成できるか分からない状況だから人助けもしてみたいなーって」
「それって、どんな目的なの?狩猟関係のギルド?」
「狩猟っていうか、探し物だよ。かなり遠大な探し物」
「そうなんだ・・。分かった、貴方の力を私に貸してくれる?」
「あぁ」
快諾してしまったが、しかしサキュバスは急に喋らなくなった気がする。
まぁ、妙な軽犯罪の真似事をされるよりはまだましなんだろうけれど。