♯6
サキュバスに連れてこられ、ブランデンブルクという町までやってきた。最初の内は一緒に町の中を探検して回っていたのはいいが、彼女はこういった街並みにはそれほど興味が無いらしい。
生まれがかなり派手な場所で、ブランデンブルクは田舎の範疇にあるらしいのだが、そのサキュバスの言っている意味は良く分からなかった。
歩き回った後、サキュバスは見つけたと言って突然走り出す。何を見つけたかというと強盗だったようだ。その強盗を捕まえてお礼を貰うつもりだったのだろうと思ったが、実際には違う。
強盗をすぐに捕まえず、誰も居ないような場所までついてきてから彼を突然背後から襲ったのだ。
つまり、相手が悪者なら別に自分が悪いことをしても問題ないだろうという浅ましい考えから、人を襲って金を奪う事にしたのだった。
サキュバスの人格を少々甘く見ていた。
「おお、結構持ってる。これで一泊は宿屋で泊まれるよ」
「泊まれるよ、じゃねぇよ!」
もはや軽犯罪者以外なんでもない。これから英雄的な目的で行動するはずがこんなせこい事をするだなんて誰が思うのだろうか。
「何で強盗襲うのさ!捕まえようよ!」
「は?」
何言ってんのお前みたいな顔をされてしまった。
「いい?強盗を襲って警察兵に引き渡してもお礼なんてほとんど貰えないんだからね。この町に一体何人の魔術師が居たうえでこいつがコソ泥していると思ってるの?」
「何私は正論言ってますみたいなこと言ってるんだ?」
「だから、この町の物は基本的に価値が高いから、泥棒や強盗の発生率が高いの。エンチャントされた品物や他では手に入らない武器があるからこそ、犯罪の発生率が上がらないわけがない。この町に満ちる魔力量がそう示しているの。分かった?」
「で?何でそれが強盗襲っていい理屈になんの?」
「金が欲しいからよ」
「お前・・」
もはや駄目な悪魔だった。
いっそのことベリアルと一緒に来れればよかったが、彼女は戦力外らしいから困る。
「それじゃ、二人目行きましょうか?」
にっこりとサキュバスは笑った。悪魔的な微笑みに僕は騙されるしかない。
2、3、4、5人と泥棒や強盗に影から奇襲して気絶させ、彼らが持っていた金銭を盗む。それほど数は多くないが、ある程度こなせば大金になっていくのはそう遠くない。
まさか、悪魔と一緒に軽犯罪に手を染めるなどという行為をするとは思わなかったが。
「あのー。もうやめて宿屋に行こうよ。俺、犯罪者スキルとか上げたくないんで」
「は?スキルって意味分かんないんだけど」
「意味分かんないのはお前だ!!」
「いい?私はベリアルと違ってかーなーり、不真面目だから。正直普通に宝具を探すとか思わないでよね」
「その宝具、どこにあるのかは分かるんだろ」
「うん。方角はね・・。でも、一番遠いところだと歩いて十年はかかっちゃうかな」
「十年!?」
「下手をするとそれ以上ね」
「なぁ、サキュバス。お前は一応、探す気はあるんだよな。もし、失敗して世界が滅んだらどうするんだ?」
「さぁ。でも、本当に世界が滅ぶかどうかなんで実は分からないし」
「何で?いや、お前が何で言うの?」
「ベリアルの主たる邪神はね。ある一種特別な地位を持っていて、ランダムに発生する並行世界を渡れる存在なの。ベリアルはその邪神の力を一部借りているから、私たちをこの世界へ送り届けることが出来るってわけ。で、その邪神の力自体は本格的な力を発したところを私は見たことが無い。だから、そもそもその邪神が本当にすごいかどうかすら未知数で、どうして世界が滅ぶというだけの曖昧な神託をベリアルに告げたのかも良く分からない。ようするに、私も貴方ももしかしたら騙されているかもしれないの」
「はぁ・・それ、ベリアルに直接言ったらどうだ?」
「うゆ?」
訳の分からない変なしぐさを突然してごまかしたのだった。