♯4
ある程度の支度と説明も終わると、僕は別の部屋に案内される。
その部屋は沢山の物が置かれており、代わりに椅子や机などという物は無い。
地面に大きな魔法陣が描かれており、暗い雰囲気と冷気だけでも十分な出来だった。
「優紀さんは魔法陣の中央に立ってください。サキュバスはそこより少し前に。」
そう言われ、僕とサキュバスは魔法陣の中に入る。
ベリアルは北側の壁の前に立つ。
右手には長いステッキが握られており、その先はどういう仕組みなのかぐるぐると円形の部品が回り始めている。
「今から転移魔術を行います。ここから行った先は向こうで特別な魔術を行わない限り、こちら側にすぐに戻ってこれるわけではありません。」
「じゃぁ、ベリアルとはここでお別れか」
「あれー?もしかしてベリアルの方が好きなのー?」
そういうわけではないのだが、何故サキュバスはキラキラした目で僕を見ているのだろうか。
別にそういう下心があるわけではない。
「私が居なくても、大丈夫ですよね?」
ベリアルから笑顔でそう言われ・・多分大丈夫だろうと、無言でうなづいた。
「では、魔術を開始します」
そうベリアルが言った直後に、魔法陣が赤色に輝く。
その光の量が増すとともに、体全身の神経に電撃が入ってきたような感覚がしてきた。
「序列68の王より深淵の古き門を開く。我は肉の血を用いて冥土の空を切り裂く」
「ちなみに、私がメイドなのはベリアルなりのだ洒落だよ」
詠唱中に突然耳元でサキュバスが囁いた。いい所なのになんとう奴だ。
「我は人理、この世から我は鳥を解き放つ。眩い月の淵よ今開け。転移魔術第十七術式より、我はここに魔名を命ずる。異界転移!」
魔力が共鳴し、本来室内のはずの場所で強風が吹き荒れる。光が大きく爆発し、自分とサキュバスはその光の中に一瞬にして吸い込まれていった。
その時の記憶は曖昧だったが、彼女ともう少し話ができればと思ってしまった。今はただ運命を受け入れて行動するしかないのだろうけれど。