#3
どちらにしろ、ベリアルの考えている事は大体分かった。ただ、絢辻優紀自身がそれほど乗り気ではない。
サキュバスと一緒に異世界へ行って彼女の言う宝具とやらを全て集める事自体できるかどうかは分からない。自分に自信が無いからではなく、彼女たちがそもそも何者かよく分からないのが問題だった。
「異世界へ渡航する方法として、私・・ベリアルと魔術的な契約を施すこと。私が魔術を実行して、貴方とサキュバスを異世界へ送るにはある程度魔術的なつながりが必要なんです」
ただ、自分の疑問よりも彼女の言う話の方がまだ大切なのかもしれない。
全くよく分からないことに首を突っ込むことは駄目なことだが、そんな世界を見てみたいのも事実だ。
「その契約ってどうするんだ?」
何となく聞いてみると、ベリアルが何故か赤面したのだった。
「キスだよ」
ベリアルの代わりにサキュバスが突然、僕の耳元で囁いた。
「キス?」
「正確にはディープキスです。フレンチではありません」
「ちょっと待って。僕はまだ異世界に行くとはまだ言ってないよね?」
びくっと背筋に悪寒が走り、椅子から立ち上がった。
「もし、女性であることが嫌であれば、サキュバスによる魔術で私が男性に見えるようにすることも可能です」
更に凄い事を言われてしまった。
「じょ、女性のままでいてください」
「素直でよろしいですね。非常にかなり残念ですけれど」
何が残念なのかよく分からないが、聞かなかったことにしておこう。
そう言った彼女はゆっくりと近づき、僕の目の前まで来る。
「それでは、いただきますね」
そう言われ、僕は唇を奪われる。舌も。
妙に甘ったるい感覚がした直後に、びりっと何か電撃的な物が走った気がする。それも一瞬のことで、数秒でそのキスは終わってしまった。
「これでいいのか?」
「はい。魔術による契約は完了致しました。後は異世界へ貴方とサキュバスを送り届けるだけです」
「ねー、ベリアルはー?」
サキュバスはベリアルも来てほしいようだ。しかし・・。
「私はここに居る必要がありますから。万が一、神託があるのならここに居た方が急の事態に対応できるでしょう」
「ふーん」
サキュバスは適当な返事をしてそっぽを向いた。
「なぁ、サキュバス」
「何?」
「ベリアルって全体的にはどれぐらい強いんだ?」
「全然強くないよ?一応、魔術師を数人相手にできるぐらい。戦い専門じゃなくて指揮専門だから」
基本的に戦闘はできないのなら、無理して前に出ない方がいいということか。
色々分かってきたが、まだ不安が多い事は事実だ。だが、成り行きで魔術契約をさせられた以上は正直にサキュバスと一緒に異世界へ転移してしまったほうがいいだろう。
ある意味、新しい人生を迎えると思ってしまえば、この問題もそう重いものではないのだから。






