#2
「お茶をお持ちいたしました。」
ベリアルから話を聞いた後、もう一人現れた少女がテーブルに紅茶を配膳する。
メイド服を着ていて余計幼い少女に見える。
「それで、どういうことだ?邪神からのお告げと僕に何か関係あるとか・・」
「直接的な関係はありません。邪神からの神託により、異世界が滅びることは確実とみなしました。そこで、ある程度力のあるイレギュラーを探し出し、異世界へ送ることが私の役目ですから。
問題は異世界に行った後に、滅びを回避するために必要な物を探し出す事です。
その必要な物が、宝具と呼ばれる特殊な兵器・・その宝具はエーテルコアと呼ばれる、強力な魔術機構を内臓した物です。その宝具は全て七つ、異世界が滅亡するまでに揃えなければいけません。異世界の一つの大陸に全ての宝具が複数の遺跡に収められていますが、何千年も前の物のため、普通に探し出すのは困難でしょう」
「それで、どうすればいいんだ?」
「サキュバス。この子を連れて行ってください」
メイド服を着た女の子は、サキュバスという名前らしい。彼女自身はジト目の無表情で立ったままだが。
「疑似的に製造したエーテルコアの探知魔術が使えます。余程遠い場所に無い限りは、ほぼ全ての宝具を揃えることができるでしょう。」
「よろしくね」
ジト目でサキュバスはぶいサインをした。あまり使えそうには見えないタイプだった。
「宝具の銘はそれぞれ、
グラム、レーヴァテイン、カリバーン、デュランダル、バルムンク、フラガラッハ、クサナギ。この七つ全てを揃える事が重要なのですが、それまでに異世界の滅びが起きる可能性も否定できません」
「本当に分からないんだな・・」
「はい。邪神から神託を受けた、というだけで私が全てを知っているわけではありません。ただ、ある程度の力のある魂を模索していた結果、貴方を見つけました」
「僕の事は一応知っているんだな」
「えぇ。ただ召喚したわけではありません。
地球の世界の魔術師たちは錬金術を利用した戦闘に非常に巧ですから。」
その地球の世界というのは無論絢辻優紀が生まれた世界だ。社会に魔術師が台頭し、錬金術が非常に発達したことで魔術師一人分の能力が魔術を使わない兵器とほぼ同格になる。
そして、その魔術師は錬金術によって作られた兵装を扱うことで、他の魔術を使えない人類に対して強者であり続けることになる。
「その世界の人間の中で最も強い人であれば、宝具を難なく使える。そう思いました。そして、その世界の国、日本で開催された剣聖会・・魔術を利用した剣術による決闘を勝ち抜いて見事優勝を果たした貴方なら確実だと思いました。」
ただ、問題は僕自身が魔術師としての力を利用されようとしている時点であまりいい気分ではない。
彼女自身、そもそもあまりいいタイプの・・人間かどうかは分からないが良い子ではまず無い。
「一応聞いておくけれど、それ以降もお前は知っているんだよな・・?」
「えぇ。貴方の始まりから最後まで、全て調べましたから。絢辻優紀は非常に優秀な魔術師であり、絢辻流の剣術を15の若さでマスターした天才だと・・」
「・・・」
「?」
嫌そうな顔をしていると、サキュバスに不思議がられた。
流石に自分には居心地の悪い場所になってきた。このベリアルという少女も、少々自分の事を知り過ぎているのだから、尚更たちが悪い。
正直、帰りたくなったが生き返る方法はあるんだろうか。そもそも、彼女たちは本当のところ何者なのかまだよく分かっていない。