迎え
「○○」
突如、ジェイクの頭の中で声が響いた。
それと同時に満身創痍のはずである四肢に力が戻り、ピクリとも動かないと思われた瞼が開いた。
「あ、貴方様は・・・」
再び開かれたジェイクの視界に映ったのは、何処までも無限に広がる漆黒の世界。
そして100mほどの所に、凍り付くような青白い光を放つ(何か)がいた。
彼はそれが何であるか直観的に理解した。
教団における絶対神、深き海原より来たる母、ザダであると。
「○○○○・・・○○○」
ザダは闇の世界を震わせるような声でジェイクに語り掛けると、ジェイクはその声が自分を貫いて行く事に気付く。
その時彼は実感した。
ここは死後の世界、自分は死んだのだと。
「僕は・・・僕は・・・」
どれ程の覚悟を積み重ねても、他人のために命を捨てられる人間は少ない。
しかし、彼は実際にその五体と生命を使命の為に使い果たした。
その果てに最も敬愛する神が直々に迎えに来たのだ。
それは絶対的な絶望である(死)すらも塗り潰す歓喜であり、ジェイクの声が震え、次の言葉が出てこない。
「○○、○○○・・・○○」
ザダの放つ言葉をジェイクは全く聞き取る事ができなかったが、その言葉が彼を労い、称えている事だけは理解できた。
その直後、ザダの放っている光が波のように揺れる。
それはまるでザダがジェイクに対して手招いているかのようだった。
「は、はい・・・今・・・お傍に・・・」
ジェイクは這いずる様に闇の中をザダへと進む。
無心に、がむしゃらに、光に導かれる羽虫のように。
それは比喩表現ではなく、実際にザダへ近付くにつれ彼の精神は順調に作り変えられつつあった。
思考を粉砕するのではなく、自分の言葉を理解する、完璧な息子へとジェイクを変質させるために。
親が子へ、教育を施すように。
「眠・・・の愛・・・ジェイク」
全身を光の中に滑り込ませたジェイクへと、神が囁く。
彼にはもう何も残っていない、体力も、肉体も、精神も、命すら。
だから今は休むべきなのだと、まるで我が子に言い聞かせるようにザダは語り掛けた。
「はい・・・疲れて・・・とても・・・眠く・・・」
ジェイクの意識と共に、一切合切が光の中に溶けて行く。
そして、彼の全てがザダの光と同化した時、神は甲高い声を上げて闇を震わせる。
それはザダの歓喜であり、新たな命の産声のようでもあった。