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波濤揺蕩う神殺し  作者: 韋駄天
名も無き島と神喰らい編
8/100

(門)

「よぅジェイク、何とかそいつを口説いたみてぇだな」


教団のローブを着たドツバが冷光を放つアンコウを従えながら手招きすると、それを見た瞬間ジェイクの袖を掴むメリッサの手に力が加えられた。


彼女の目には、地獄の悪魔か何かのように映ったのだろう。


「彼女が決めたことです、僕は何も・・・」


「結果的に上手くいったならそれでいい、むしろ本番はこれからだ、いくぞ」


そのままテラテラと光を反射する巨体の背中を追うジェイク。


むき出しになった岩肌の水中洞窟を無言で進んでいくと、真っ暗で足元すらままならない暗闇から大量の光源が蠢く空間が現れた。


壁には青白い光を放つ海綿体が無数にへばりつき、ドツバが連れてきたアンコウの仲間が泳ぎ回り内部を照らしている。


「○○! ○○○○!」


メリッサはその空間が放つ異質さに取り乱し、パニックを起こすが、暴れたところでここは水中。


満足に声を発することもできなければ、服を着た状態ではまともに泳ぐこともできない。


「おい、静かにしろ、ここはもう神殿だ、ただでさえ血族以外を入れたくないってゴネる時代遅れの馬鹿がいるのに、その上信者でも無い奴が入るなんて例外中の例外・・・面倒くせぇのに捕まる前に行くぞ」


そこはいわゆる玄関ロビーのような所なのだろう、見上げれば天井ではシャンデリア替わりの光るクラゲが幾千もの触手を揺らしながらゆらゆらと漂い、ロビーを彩っている。


「ごきげんようドツバ様、今日も素敵な顎鱗でございますね」


女性の声のする方に振り向けば、イルカの顔をした血族が手に持ったカゴから、魚達に食事を与えていた、神殿内部の光源を管理する餌係なのだろう。


餌係は穏やかな口調で近寄ってくるが、それにつれてメリッサの顔色はこの空間の誰よりも青白く変化してゆく。


この神殿の中では彼女は一切無力であり、恐怖に顔を引きつらせながらジェイクの背中に隠れる他なかった。


「へいへいどうも、悪ぃが今急いでんだ、じゃあな」


「あら、ドツバ様ともあろう方が、珍しくお仕事熱心ですこと」


ドツバは少しも悪いとは思って無さそうな顔でロビーを通り過ぎてゆく。


無視、というよりは、相手にしたくないという雰囲気が伝わってくる対応だった。


「ちょっと、ジェイク」


慌てて追いつこうとするジェイクを餌係が呼び止めた。


「何か?」


「挨拶も無しとはどういう事?」


餌係の高圧的な態度に苛立ちを覚えるジェイクだったが、彼はこらえることにした。


今は構っている時間など無いが、神殿内での彼の地位は極めて低い。


ドツバと同じようにはいかないのだ。


「失礼しました、しかし今は火急の用事がありまして・・・」


「その人間のメスは何?」


しかし、餌係はジェイクのいう事などまるで聞いていないかのように質問攻めにする、古い物語に良く出る嫁いびりの姑のようだ。


「地上を探索させるために冒険者を集めているのはご存知ですよね、その人員です」


ジェイクは手早く済ませて早くこの場を立ち去りたかったが、話している間に血族はジェイクの行く手に回り込み、通そうとしない。


「そうなの、私はてっきり人間を量産するための・・・」


「ジェイク何やってんだ! 早く来い!」


ドツバの声で我に返るジェイク、その拳は怒りに震えていた。


「・・・すみません急いでますので、これで失礼します」


それだけ告げると、ジェイクはメリッサを引っ張ってロビーを後にすると、奥の通路のでドツバが腕を組み眉根を潜めて待っていた。


「あんな奴にかまうことはねぇんだぞ」


「いや・・・中々そういう訳にはいかなくて・・・」


「ちっ! 解った、後で俺から釘を刺しておく、そもそも地上に進出するなら人間と手を組まなくてどうするってんだ、馬鹿は奴隷にしろだなんだって言うがな、今はもうそんな時代じゃねぇ共存の時代だ・・・あ~もうやだやだ面倒くせぇ」


ドツバは呟きながらドアを開く、中には血族達がせわしなく動き回り、光の輪が部屋の所々に浮かんでいた。


「お待ちしておりましたドツバ様、(門)の準備は整っております」


ドツバの登場に気付いた血族が挨拶をすると、部屋の同僚たちも口々に挨拶を行う。


彼のメインの職場はこの情報部であり、加えてその幹部でもある。


地上における組合の支店長とは、あくまでも仮の姿であり、業務のほとんどは他の部下が行っている。


「う~しご苦労さん・・・さて、お前ら準備はいいな?」


ドツバは適当に返事をすると、自分の本当の席に座る。


そしてジェイクとメリッサに視線を向けた。


ここまで来た以上、もう後には引けない、(覚悟は良いな?)、そう訴える眼差しだった。


「僕は大丈夫です、メリッサさんは・・・」


ジェイクが様子を確認すると、彼女は絞首刑台に向かう死刑囚のような面持ちでメリッサは固まっていた。


これから自分の身に何が起こるのか不安で仕方がない、それ所か明日の朝日を拝めるのかすら怪しい、そんな表情で。


「早く行きたくてしょうがないみたいですよ、その・・・地上に」


そんな彼女の心情を察してか、ジェイクは一刻も早く出発する事を提案する。


とにかく陽の光の当たる所で新鮮な空気を吸わないと、このままメリッサは窒息してしまいそうなほどに顔色が悪い。


「みてぇだな、よ~し始めろ! 開門だ!」


ドツバの命令により、傍で控えていた血族の1人が壁に向かって両手をかざす。


「了解、これより(門)の構築を開始します、5・4・3・2・1・開門!」


部屋の壁に光の輪が現れたかと思うと、その向こう側には明るい海中がみえた。


綺麗な浅瀬で、極彩色の小魚が群れで泳ぎ回っている、明らかにザダの海域とは異なる場所だった。


「○○○? ○○○○?」


メリッサは必死に何かを訴えようとするが、全ては文字通り水泡に帰すのみである。


少なくとも、陸地に上がるまでは。


「疑問は地上で聞きます、とにかくいきましょう」


ジェイクはメリッサの手を引き、(門)と呼ばれた光の輪へと近寄ってゆく。


ザダの神秘術である(門)とは、距離を隔てた別の場所同士を繋ぎ、物の行き来を一瞬で行う奇跡である。


その力は単純であるが応用が利き、この力を様々な事に利用して信者達は困難を乗り越えるのだ。


「現地の情報は先発隊が持ってる、気合入れて行け」


「はい、行ってきます!」


ドツバに別れを告げると、ジェイク達は光の輪の中に飛び込んだ。

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