一瞬の眩しさ
「ま、眩しい・・・」
「バッカニアの太陽はやっぱり強いですね・・・」
教会へから続く洞窟を抜けた2人を歓迎したのは目が眩むほどの日差しだった。
シースと別れた後、2人はすぐに戻らず一晩キンデルに泊まっていた。
理由は勿論、サダミツの墓参りをするためである。
マメールはロクなもてなしをできない事を謝罪したが、2人は他の人と同じ扱いを望んでいた。
病院の再建と患者の治療を平行する隣で宴を開かれても、まともに喉を通るとは思えない。
2人は患者達と同じ簡素な夕食を済ませ、空いた病室の寝台で夜を過ごした。
そして明朝、直接あったこともない相手の墓参りに向かったのだが、彼の墓は沢山のアザミの花が供えられ、墓石も綺麗に管理されていた。
考えずとも解る、シースが欠かさずに世話している何よりの証拠だった。
ジェイクが花束を供え、安らかな眠りを祈ると、その隣でメリッサは前日体験したシースとの冒険譚を短く語った。
無論、返事は帰ってこない。
周囲には人気も無く、時折風が地平線の彼方から吹くばかりだった。
まるで死者の相槌のように。
「マメール様、大丈夫かしら?」
「今は信じましょう、あそこにいても僕達にできることはありません」
後ろ髪を引かれる思いはあったが、墓参りを終えた2人は秘宝を探すため旅を続けなければならなかった。
そして旅立ちの時、マメールが告げた言葉が脳裏に蘇る。
(最後にひとつ・・・あの喧しい女も、血なまぐさい死神も、結局背後にいる誰かの差し金さね、無いとは思うが・・・しばらく夜道に気を付けるんだよ)
その言葉の意味する所を理解した2人は、背筋に冷たい物が走る。
生きていく以上他人との避けられないが、自分の与り知らぬ所で、想像以上の恨みを買う場合があるのだ。
キンデルを襲撃した2人を操る、その背後にいる何者かに。
「では、メリッサさんは先に戻ってください、僕はこの後ドツバさんに報告しないといけないので」
ジェイクは足を止め、洞窟の入り口から少し離れた所で別行動を切り出す。
無理に持ち出した秘宝を返却した上で、事の顛末を報告する義務が彼にはあり、その後で激しい叱責や、なんらかの懲罰が待っている可能性も十分に考えられた。
その場にメリッサを付き合わせるのは酷と言う物だろう。
「はい、お疲れさまでした、それで・・・その・・・」
「どうかしましたか?」
何か言いたげな様子だが、口をもごもごさせたまま言い出せないメリッサに、ジェイクは訪ねる。
これからはしばしの間は旅の疲れを癒す時、心に迷いを抱えたままでは気も休まらないという物だ。
「昨日の事は、どうか忘れてください」
メリッサの頼みはひどく曖昧で、事情を知らなければその意味は理解できないだろう。
だが、その恥じらう表情でジェイクはすぐにピンと来た。
思念公園にて、シースが口にしたあの質問の答えについてだろうと。
「ははは・・・大丈夫です、気にしてませんよ」
「良かった・・・ワタクシ、とても失礼な事をジェイクさんに・・・」
朗らかに返すジェイクに、メリッサも胸を撫で下ろす。
昨日のあれは夢幻の事、夢と現の境で起きた些細な間違い。
そう、お互いに納得できたものだと彼女は考えていた。
「いえいえ、僕としても良いきっかけになりました、それに・・・」
だが、ジェイクは違っていた。
背中を向けながら、去り際に見せる表情は何かを固く決意したように引き締められており、その本気の具合が伺える。
確かに、彼の中でも夢の時間は終わっていた。
しかし、メリッサと決定的に違う点は、夢を夢のまま終わらせる気は毛頭ないという事だ。
「あ・・・あれくらいでは・・・僕は諦めませんから!」
その言葉を耳にした瞬間、メリッサの心臓は跳ね上がった。
そしてそれは止まるところを知らず、蒸気機関のように更に激しく強く、熱を増してゆく。
彼女は、定まらぬ思考の中で、自分自身に驚いていた。
己の中に、こんな感情が眠っていたのか、と。
「え、あの・・・それは・・・」
メリッサが何とか声を絞り出した時には、すでにジェイクは洞窟の奥に姿を消していた。
逃げるように立ち去ったその最後の表情を見る事は出来なかったが、むしろ幸運であるとメリッサは考えていた。
ジェイクの顔を見るという事は、同時に自分の顔を見られるという事だから。
旅の終わりに、2人の間に芽生えた新たな側面。
小さな一歩ではあるが、とても大きな変化。
しかしその一方で、ゆるやかに思えた世界の流れが急激に加速しつつあることを、まだ2人は知らない。




