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波濤揺蕩う神殺し  作者: 韋駄天
名も無き島と神喰らい編
6/100

組合についての長いお話

「いらっしゃいませ!・・・あらジェイクちゃん達ここでご飯? すぐお茶淹れるからテーブルで待ってて頂戴」


冒険者組合の扉を開けると、他の職員が黙々と作業を続ける中ミーモが景気よく挨拶をして部屋の一角を指さした、そこにはいくつかのテーブルと丸椅子が鎮座している。


倉庫でホコリをかぶっていた物を引っ張り出してきた物だが、冒険者達の集う場所を名乗る以上は腰を落ち着けて喉を潤し、冒険者同士の繋がりを構築する場所を提供する必要がある。


「はい、それでこちらは・・・」


テーブルについたメリッサはクレープと包み紙をまじまじと見ている、それを観察していたジェイクは、何かピンと来たようだ。


「あぁ、そのままかぶり付くんですよ」


「わかりました、いきます・・・あぐっ! むぐむぐむぐ・・・美味しい」


気合を入れてかぶりついたメリッサはクレープの味にご満悦の様子で、すぐに黙々と食事を再開した。


「あ~ら美味しそうねメリッサちゃん、はいお茶どうぞ・・・ゆっくりしてってね」


盆に乗せたお茶を二人の前に並べると、ミーモは窓口に戻っていった。


残されたのは朝食を続けるメリッサと、お茶を飲むジェイク、室内は仕事を続ける職員達。


手持無沙汰になったジェイクは立ち上がり、窓口にある冒険者組合のパンフレットを回収して席に戻る。


「じゃあ、食べながらで良いんで聞いてください、まずは冒険者組合についてですが・・・簡単に言えば、冒険者の始祖とも言えるロズウェルという方が作った冒険者のための協同組合ですね、物資の購買や資金の融資、戦利品の鑑定と買い取り、後は貯金に傷害保険とか、仕事の斡旋、規模の大きい支店なら、有名な冒険者を呼んで講演会、指導会みたいな事もやってます」


メリッサは聞き入りながらクレープをついばんでいるが、小さく一口づつ食べている様子は、はたから見ると小動物のようだ。


「最初はロズウェルが生涯をかけて集めた資金で運営していましたが、現在は規模が大きくなりすぎたため、冒険者の儲けから一部手数料という形で運営資金に回しています」


「組合というよりは、まるで企業ですわね」


食事を終えたメリッサが口元をハンカチで拭い、会話に加わる。


冒険者という不安定な職を支えるために、冒険者組合は日々その姿を変えている。


それが創始者であるロズウェルの意思に沿うものかは誰にも解らないが・・・。


「ですが、バッカニア支店は違います」


「どう違うのですか?」


メリッサの質問に、ジェイクの目つきが変わった。


そう、ここからが彼にとって重要な話である。


組合や支店の存続など、眼中にない。


もっと重大な目的のため、彼はメリッサを組合に入組させるようドツバに言われているのだ。


「まず、出資者が(教団)である事、そして冒険者が回収した宝は全てこちらで鑑定をする義務があります・・・何故だかわかります?」


「何か、特別な宝を探している・・・そういう事ですわね?」


メリッサの解答に、ジェイクは無言で頷く。


その雰囲気にただならぬ物を感じ、メリッサは身を引き締めた。


ここから先は、一言も聞き漏らしてはならないと、彼女はジェイクの言葉に意識を集中させる。


「ザダ様は元々普通の海洋生物でしたが、ある時深海に眠る秘宝を手にし、神の力を手に入れました、それ以来ザダ様は力を秘めた神々の秘宝を求め、血族と信者達は日夜探し続けています」


ジェイクの口から出た言葉は、メリッサに少なからず衝撃を与えた。


自分が捕らえられた時にジェイクが口にした神、それが更なる力を求めて冒険者組合という巨大組織に干渉している。


その事実と、教団の影響力の高さに、寒気を覚えた。


「事情は分かりました、ですが何故外部の人間を入れるのですか? 昨日ワタクシに乱暴を働いたあの男のような怪物が何人もいるなら、わざわざ裏切る可能性のある冒険者を集める必要はないでしょう?」


メリッサの意見はもっともな話である。


血族達は常人離れした膂力と神秘術を操り、あらゆる脅威を跳ね除ける力があるように思えた。


そんな者達が、神の秘宝という唯一無二の貴重品を探すために、余計なリスクを背負うとはメリッサにとって不可解だった。


「残念ながら・・・ザダ様の御力も万能ではありません、血族達は海中なら無類の強さを誇りますが、地上ではこの町から離れるほど衰えてゆきます、それゆえ地上で長時間行動できる人間を必要としているんです」


「なるほど、彼等はこの都市以外では力を発揮できないのですね」


ジェイクの説明に、メリッサはようやく納得した様子だった。


ドツバを含めたザダの血族達はバッカニア以外の陸上では並の人間と同等までに弱体化する上に、神秘術の行使すらできなくなる、とても危険地帯に赴くなどできない。


だから彼等は冒険者を雇い、秘宝を買い取るという形に舵を切ったのだと。


「そうです、では・・・これをどうぞ」


ジェイクはパンフレットに挟まれた一枚の紙をメリッサの前に差し出す。


それは入組手続きの書類だった。


署名すればメリッサは正式に冒険者となり、様々なサポートを受けながら秘宝探索の旅に出ることになる。


メリッサにとって非常に不本意ではあるが、断れば待っているのは冷たい牢獄のみ。


それこそ彼女にとって最も避けたい事態である。


「メリッサさんはナハトの情勢が落ち着くまで、生活のために冒険者になる・・・難しく考えるのは止めませんか?」


「はぁ・・・ジェイクさんにはかないませんわね」


降参と言うようにため息をつくメリッサ。


ついに彼女は自分の置かれた状況を受け入れる事にしたようだ。


じたばたしても彼女に帰る場所は無い、助けを求める術も無い。


ジェイクの言う通り、冒険者になる事が最善だと判断したようだ。


「ご理解頂けたようで、嬉しいです」


「所で・・・ワタクシが見つけた宝は、鑑定後は自由にしても構わないのですよね?」


メリッサは決意を秘めた眼差しでジェイクに訪ねる。


彼女はまだ完全には諦めておらず、己にできる事を自分なりに考えだしていた。


神々の力を秘めた宝を探し出せれば、故郷のために役立てるかもしれない、と。


「基本は問題ありませんが、ザダ様のお眼鏡にかなった物、大量破壊兵器など個人で所有する範疇を超える場合は、教団で管理させてもらいますが・・・もちろん対価は支払われます」


ザダが神々の宝を探すのは、無論己の力を更に高めるためであるが、危険な過去の遺物を手元で管理する目的もあった。


人の手に余る宝が悪意ある者の手に渡れば、世を乱しかねない、それはザダ自身と教団の共通認識である。


「解りました・・・しかしワタクシは旅の心得などは持ち合わせていない若輩者です、お役に立てるまで時間がかかると思いますが、宜しいかしら?」


メリッサは机のペン立てからペンを引き抜くと、書類に書き込み始めた。


「大丈夫ですよ、僕も行きますから・・・それとも、僕と一緒は嫌でした?」


「いえ、それは大丈夫ですが・・・ジェイクさんはここの職員ではないのですか?」


自虐気味の質問を否定するも、メリッサは驚きを隠せずにいた。


彼は今まで教団の一員として冒険者を集める側の人間、メリッサを迎え入れる側の人間としての動きしかしていない。


しかし彼もまた彼女と同じ人間、地上で普段通り活動できて、しかも信頼のおける身内、危険を伴うとはいえ、冒険者として動かさない理由が教団には無い。


「ドツバさんと一緒にここの開店準備に駆り出されたので色々勉強はしましたけど、僕は人間ですから、開店と同時にここの組合員第一号、メリッサさんは2人目です、冒険者としての仕事は徐々に覚えてもらえれば・・・というより今はメリッサさんしか人手がいないのでしっかりサポートするように上から言われてて・・・それにザダ様の力をお借りした奇跡を教団では(神秘術)と呼びますが、人間の若手で習得してるのは僕しかいないんですよ、他は年寄りばっかりで・・・あぁ失礼、愚痴っぽくなっちゃいましたね」


「いえ、ジェイクさんも、その・・・苦労されているのですね」


今まで事務的だったジェイクが吐露した愚痴にメリッサは思わず苦笑したが、初めて自分に心を開いてくれたような感覚に、内心喜んでいた。


「ハハッたしかに苦労はしてます、けど苦痛ではないので・・・何とかやってます、もし辛くなったら、まぁ・・・その時に考えます」


「ワタクシも見習いたいものですわ」


そう言いながらメリッサは記入した書類を差し出した、これでメリッサは正式に冒険者組合の一員として登録される。


「そんな大層なものではないですよ・・・では改めてよろしく、メリッサさん」


「こちらこそ、よろしくお願い致します、ジェイクさん」


2人はコンビ結成の挨拶としてして軽く握手を交わした。


何はともあれ、これでお互いに一歩前進した。


ジェイクは教団の任務として、メリッサはこの地で生きる糧を得るために。


「では準備ができたらさっそく出かけることにしましょう」


ジェイクは渡された書類を持って立ち上がり、受付に提出すると外に出かける支度を始めた。


その様子を見て、メリッサもカップに残ったお茶を飲み干した。


彼女もここまで来たからには気持ちを入れ替え、冒険者として積極的に行動する事にしたようだ。


「あら、最初はどちらへ?」


「教団の聖域、ザダ様の神殿です」


これから2人を待つのははたして如何なる困難か、そこに神の祝福はあるのだろうか。


それはまさに、神のみぞ知る。

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