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波濤揺蕩う神殺し  作者: 韋駄天
病の神のパレード編
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赤ずきん侍シース

「悪いな、驚かせたばかりでなく飯まで遇して貰うとは」


「いえ、こちらも早とちりでしたから・・・」


唐突に出会った3人は互いに挨拶を交わし終えると、火を囲んで魚が焼けるのを街、歓談している最中だった。


シースと名乗るその女性は2人に驚かせた事を詫びながら、空腹に悲鳴を上げる自分の腹を撫でていた。


「それにしてもあんた面白いな、掌から魚を出すとは、どんな神通力だ?」


「僕はザダ様というバッカニアで信仰されている神に仕えています」


ジェイクの説明にピンと来るものが無かったのか、シースは顎を撫でつけながら空を見上げて思案に耽る。


「ザダ・・・バッカニア・・・あぁ、前に療養で来た奴がいたな、漁業が盛んと聞いたが、そのような神がいたとは知らなんだ」


シースがようやく捻り出した記憶も漠然としたもので、ジェイクは故郷があまり世間に認知されていない事実に苦笑いを浮かべた。


実の所、バッカニアでザダと教団の名を知らぬ者はいないが、外部の人間にとって都市そのものが地味な印象が拭えないようだ。


「シースさんはキンデルにお住まいなのかしら?」


「住むも何も、キンデルはあたしの故郷、この武と刀の置き所よ」


シースは傍らに横たえていた刀を持ち、2人に見せつけるように差し出した。


肩程まで切り揃えられた赤紫の髪、眠たげな瞳、赤いフード付きの乗馬コートにチェック柄のキュロット、鉄の長靴という彼女には何とも不釣り会いな得物だ。


「刀・・・警備か何かのお仕事ですか?」


ヤマト以外で刀を持ち歩いている人間は珍しく、彼の地に赴いた事のない人間はその独特の造形に驚くものだが、生憎と2人は先日ヤマトを旅したばかり。


彼女の期待しているようなリアクションは取れなかった。


「いや、あたしはひたすらに一撃必救の境地を目指しているだけの、しがないサムライだ」


反応の悪い2人に少々がっかりしたような顔をしながらシースは己を侍と自称するが、その内容には奇妙な単語も含まれていた。


「一撃必救?」


「一撃必殺なら聞いた事ありますけど・・・」


2人は初耳の言葉に質問すると、その食いつきの良さにシースは機嫌を直したように微笑み、身を乗り出す。


「そうだろう、何しろ我が師より受けついた一子相伝の教えであるからして・・・」


そこまで説明するとシースは小枝に刺して炙られている魚を取り上げると、大口を開けてかぶりついた。


「刀を振れば、人は死ぬ、それが振るたびに1人の命が助かるとすればどうだ? あたしがキンデルに生まれた意味があるとは思わないか?」


病と闘う街に生まれ落ちながら剣の道を志した彼女は、さぞかしその師匠から強い影響を受けたに違いない。


その奇抜な出自と出で立ちに、ジェイクは思い当たることがあった。


「シースさん、貴方はもしかして・・・神の血族では?」


「おや、言ってなかったか? あたしの母マメール・レッドコームはキンデル総合病院の院長で、病と物語を司る神だ」


何でもないかのように告げるシースに足して、2人は少なからず衝撃を受けた。


神の血族であるシースであれば、秘宝や儀式に詳しい可能性が高い。


「それで・・・何故こんな所で寝ていたんです?」


ジェイクはすかさず話を掘り進めようと、胸の高鳴りを抑えながら会話を繋げた。


「・・・話しても良いが、笑ってくれるなよ」


シースにとってはあまり思い出したくない出来事らしく、一言前置きをしてから口を開いた。


「あたしはこの先にある思念公園で、パレードに必要な心臓を探していたのだが、四方八方探しても見つからない上に腹も減ってな・・・一旦引き上げて何か妙案は無いかと横になっていたら・・・つい寝入ってしまった」


駒鳥の心臓、その単語にジェイクはなんとかに冷静さを保った。


ドツバから聞いていた秘宝の名前と一致する、つまりパレードとは儀式の名称である可能性が高い。


旅の目的は目の前で魚を頬張るシースに集約されていると興奮を抑えながら話に耳を傾け続けた。


「思念公園のこと、もっとワタクシ達に教えてくださいませんか?」


「あぁ、思念公園は管理されている場所なら危険は無いが、奥には得体の知れない化け物の巣で、言うなれば・・・あ~なんだ・・・」


そこまで話すと、シースは言葉を濁した。


思念公園を必死に言葉で表現しようと試みてはいるようだが、当てはまる形容詞が浮かばないらしい。


「そんなに危険な場所なのですか?」


「あそこは母さんが作り出した人間の深層心理、夢、記憶、妄想をぐちゃぐちゃに混ぜ込んだ魔女の窯でな・・・口で説明するのは無理だ」


そしてついに諦め、思念公園の方角を指さし(見た方が早い)と評した。


それほどまでにこの地の神が産んだ領域は複雑怪奇のようだ。


しかし、怖気づくわけにはいかないと、ジェイクは腹を決める。


「僕達でも中に入る事はできますか?」


「構わんぞ、患者も入っているぐらいだ、奥に進まなければ害は無い」


シースは食事を終えて骨を焚火に放り込みながら答えた。


余所者でも思念公園には問題なく入れる、それを確認できた以上、ジェイクに後退の二文字は無かった。


「もし、奥に同行したいと言ったら?」


ジェイクは怯むことなくシースへの協力を申し出た。


「・・・まさか、手を貸してくれるのか?」


「ワタクシ達、これでも冒険者なので・・・お力になれると思いますわ」


その言葉に、シースの顔が一気に晴れやかになる。


「何と、渡りに船とはこの事か!かたじけない、是非お願いしたい・・・が、生憎と今持ち合わせが無くてな」


最初は半信半疑であったシースも、2人が冒険者であると知った以上、人手が増えるのは願ったり叶ったりのようだ。


懐が寂しい点を除けば・・・であるが。


「実は僕達、パレードに興味があって来たのですが、今回の報酬として、その儀式と準備を近くで見ても大丈夫ですか?」


「うぅ~む、パレードに連なる権利は残念ながら母さんの血族と神官達にしか無いが、見る分にはいいぞ、だが下準備は・・・母に伺いを立てねば解らん、よって確約はできん」


「それで充分です」


シースの返事はお世辞にも良いとは言えなかったが、ジェイクにとっては何としても秘宝と儀式の足掛かりが欲しかった。


これを逃せば今回の任務においてシースに協力する以上の好機は訪れないだろう。


「ほぅ・・・随分と安請け合いな事だな、しかし儀式の詳細を知ってどうするつもりだ?」


シースは余りにも都合の良い話にジェイクを怪しく感じたらしく、揺さぶりをかけた。


2人からしてみればタダ働きに終わってもおかしくない依頼だ。


シースが不信に思うのも当然だろう。


「ザダ様の更なる飛躍の助けにします・・・後、他所の儀式って中々見るチャンスが無いですよね、閉鎖的な所も多いですし、その点サンヒャン島のチヤは良かったですね~無病息災のため島中の男性が合唱して、祖霊を子供に乗り移らせるんですよ、すごい迫力だったな~あぁ! 思い出したらまた見たくなってきた!」


突然人が変わったように口数が増えたジェイク。


神の血族、神の造りたもう神域、そして謎めいた儀式、彼のテンションは最高潮だった。


彼からしてみれば、依頼料をもらう所か金を払ってでも目撃したい所だろう。


「お・・・おぅ、殊勝な心掛けだな、しかし手に入れた心臓は渡せんぞ」


嘘や誤魔化されること予想していたシースはその熱気に気圧される。


まさか純粋な知的好奇心、もっと言えば(趣味)であるとは考えていなかったのだろう。


「ご心配なく、貴方から奪う気は微塵もありません、斬られて死ぬのは嫌なので・・・」


「あぁ、いかに磯臭い奴とは言え、あたしも人間を三枚おろしにはしたくない」


そこで会話は途切れた。


それはシースの追及が終わった、というよりジェイクが終わらせたという合図だ。


「では、宜しくお願い致します、シースさん」


すかさずメリッサが話を切り上げる。


これが互いに狙った連携の結果であれば称賛すべきだが、実際はジェイクの暴走により生じた気まずい空気をメリッサがカバーしただけである。


「おぅ、腹も膨れたし、良い道ずれもできた・・・行くか」


シースは満足気に呟き、刀を杖代わりにして立ち上がると、大きく伸びをして歩き出した。


「何だか不思議な方ですわね」


メリッサの意見に、ジェイクも静かに頷く。


2人は今まで様々な地域に足を運び、多種多様な人種と出会ってきたが、彼女は特に個性的だった。


「そうですね・・・所で、僕ってそんなに磯臭いですか?」


ジェイクの何気ない質問に、メリッサは体をピクリと震わせる。


「え? その・・・」


しばしの沈黙がメリッサの葛藤と配慮を感じさせた。


「少し」


彼女なりにできる限りジェイクを傷つけず、なおかつ嘘にならない範囲で考えた一言だった。


「・・・そうですか」


その優しさは時として、本人を余計に苦しめる事になるとは知らずに。


「で、でもワタクシはもう慣れたので大丈夫ですわ!」


メリッサはすかさずフォローを入れるが、それでは臭いへのフォローになっていない事に気付いていないようだ。


「あははは・・・すみません、以後気を付けます」


今更ながらジェイクは、自分もドーベルマンの事を強く言えなかったと反省しながら、家に帰ったらまずお香を焚こうと決心するのであった。

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