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波濤揺蕩う神殺し  作者: 韋駄天
芸術の街アンチェイン編
34/100

ベン&スレッシュ

「か、監視されとるじゃと? 一体誰が」


明らかに狼狽えた表情で背後を気にするドーベルマン。


無理もない、彼は今まで誰かに後ろ指を刺される事こそあれ、監視される身分にまで落ちたことは無い、むしろ人目を嫌うからこそ、こうして山に居を構えているのだ。


「どうかご静粛に、一つずつ整理してお話し致しますわ・・・その前に、一杯いかがかしら?」


メリッサは顔の前で人差し指を立て(静かに)とジェスチャーを行い、なるべくゆったりとした口調で語りかけると、瓢箪を取り出して猿酒を勧めた。


「うぅ・・・うむ」


彼女なりに動揺しているドーベルマンを落ち着かせようと気を払っているようで、余裕の笑みさえ浮かべて酌をする姿を、ジェイクは興味深く見ていた。


自分が尾行に気づいたとして、今のように素早く敵の目を逃れ、冷静に味方に伝え、取り乱す者を鼓舞する事が果たしてできるだろうか?


メリッサは冒険者としては少々世間知らずで楽観主義で感情的になりやすい所はあるが、それを補ってなお余りある人材であると彼は認識している。


頼りになる相棒に安堵する一方で、メキメキと成長する後輩にいつまで先輩面をしていられるものかと若干の焦りを覚えるのであった。


「ワタクシ達の後方に一定の距離を保ったままの気配があるのです」


「ただの登山者か、腹を空かせた獣じゃないのか?」


「それが、ワタクシ達が休めば止まり、進めば動き始める完璧な尾行ですわ・・・しかも、今回が初めてでは無いでしょう」


メリッサはポケットから小さな棒状の物を取り出す。


薄暗い洞窟内で目を凝らしてよく見ると、それはタバコの吸い殻であった、雪に濡れて滲んではいるものの、銘柄も読めるほどに真新しい。


「このタバコを愛用している方に心当たりはございますかしら?」


「ふむ、山に来る猟師共の物では無いな・・・」


「では、最近僕達と同じように山へ秘宝を探しに来た冒険者は?」


顎に手を当てて考え込んでいたドーベルマンの脳に閃きの稲妻が走る。


記憶の片隅に些事であると投げ捨てていた断片が、パズルの最後のピースのようにはまり込んできたのだ。


「・・・いたぞ、思い出した! 一月ほど前にたしか2人組の男が訪ねて来て、適当にあしらったらすぐに引き上げたと思ったが、まさかあいつら・・・」


「誰がすぐ帰ったと?」


獰猛な捕食者の唸り声を聞いた時のような緊張と驚きで全身の筋肉が強張るのを感じたジェイクは反射的に自分でも信じられないほどの速さで振り向いた。


「どうした? 私の事は気にせず、話を続けてくれ」


洞窟内に木霊する靴音とともに現れたのは、ヨレたつば広の帽子に擦り切れたロングコートに長いマフラーをぐるぐると巻き付けた男だった。


酷くやつれた様子で落ち窪んだ瞳の下にはクマがあり、顔色が悪くまるで死人のような土気色の肌をしている。


「良いんですかい兄貴? せっかく尾行が上手く行ってたのに出ちまっても・・・」


さらに後ろから現れたのは浅黒い肌にスキンヘッドの男、最初の男とは対照的にガタイが良く鍛え抜かれた肉体をしている、がしかし少々腹のたるみが気になる所。


この寒さの中でジャンパーの下はタンクトップのみ、下はジーンズとラフな格好であり(兄貴)と呼ばれた男に比べて圧倒的に体が丈夫である事が伺える。


「スレッシュ、その段階は過ぎた、重要であるのは今だ、目前の状況で判断しろと再三注意しているはずだが?」


ロングコートの中も幾重に厚着した(兄貴)は人差し指をスレッシュと呼んだ男にビシリと突きつけて睨みつける。


「う、ウス・・・すいやせん、兄貴」


スレッシュは委縮した様子で謝罪する、2人を並べればまるで枯れ木とゴリラだが、上下関係は(兄貴)の方が上である事が解る。


「解れば良い・・・では、話の続きだが」


ジェイク達に向き直った(兄貴)は胸ポケットからタバコを取り出し火を点けて一服を始めたので、ジェイクはすかさず遠目にそのタバコの箱を確認した。


間違いない、メリッサが拾ってきたあの吸い殻と一致する。


この(兄貴)と呼ばれる男は少なくとも数日、最長でドーベルマンと出会った一ヶ月前から彼の監視を続けている可能性が高い。


るか? それとも降伏するか?」


大きく紫煙混じりの息を吐き出しながら宣戦布告をする(兄貴)の言葉を合図にスレッシュがウォーミングアップをしながらゆっくりと前に出る。


バンテージの巻かれた指から関節が鳴る独特の音を響かせながら、煙のカーテンを肩で切る姿は、さながらチャンピオンの風格である。


ここが忘れ去られた洞窟で無くリングであったならば、歓声の1つや2つでもあがる所だろう。


「ちょっと待て! なんじゃあ貴様等、いきなり現れてごちゃごちゃと・・・」


「ごちゃごちゃはそっちの方だぜじいさん! お宝の洞窟に忍び足でついてきた奴が、楽しくお喋りしに来たと思うか?素直に出さない情報がありゃ吐かせるのが冒険者の流儀ってモンだろうが!」


ドーベルマンの言葉を遮り、不機嫌にまくし立てるスレッシュ。


洞窟の中で反響し耳を抑えたくなるほどの声量でジェイクは思わず顔をしかめた。


「僕なりに冒険者語を翻訳すると、知りたければ力づくで来いって事みたいですよ?」


「血の気の多い奴等め・・・おい坊主、何とか・・・おぉ?」


ドーベルマンの背後からするりと姿を現したメリッサは、金魚の巾着袋をジェイクに手渡しながら、袖をまくり上げる。


引け腰の男性陣と違いどうやら彼女は闘るつもりのようだ。


「ワタクシがお相手致しますわ」


微笑みながら一分の隙も無い仕草でスレッシュと対面すると、彼女は静かに一礼をした。


「ウス」


スレッシュも軽く会釈を返すが、視線はまったく相手から外すことは無い、すでに相手の一挙一動からその動きを読み取ろうとしている・・・が。


「では、少々失礼致しますね」


メリッサは腰から下げていた瓢箪の栓を引き抜くと、一気に中の猿酒をあおり始めた。


あまりに想定外の出来事にスレッシュは緊張よりも驚きが勝ったようで、目を皿のようにしている。


「この臭い・・・兄貴、この女酒飲んでますぜ」


「気を抜くな、私の尾行に気づいた曲者だ・・・何か入ってるやも知れん」


「う、ウス」


目の前にいるのはただのアル中では無い、何か特別な効能のある酒を飲み下しているのは間違いない、しかも若い男が出てくるかと思いきや女だ、ではあの男の役割は何なのか?


未知、未知、未知が目白押しの相手に対してスレッシュは無言でファイティングポーズを取った、未知とは恐怖を生み、己の内に住まう臆病な部分を刺激する、それを振り払うにはただ1つ、普段と同じ動作をする事だ。


腋を絞め顔の前で両手の拳を握りしめ、顎を引き小刻みに頭を揺らし、敵の動きに目を凝らす、いわゆるボクシングスタイルに構え集中する。


未知への恐怖など捨て置けば良い、今は(兄貴)の言葉通り、目前の事で判断する事に注力するのだ。


「ふぅ~だいぶ回って回りましたわ・・・ウフ、ウフフフフ」


対するメリッサは猿酒のアルコールが体中に回り、全身の力が抜け思考に霧がかかり始める。


本来ならそのままでは格闘などできるはずも無いが、彼女には女神エメラルダの腕輪がある、思考の霧の中に別の誰かが現れ、抜けた力の代わりに彼女を支え頭の内側で囁くのだ(打て 鞭の ように)と。


紛れもなく、それは技を譲り受けた師匠バオバオである。


「はい!」


火蓋を切ったのはメリッサの方からであった。


右の突き、左の掌打、そして蹴り。


一息の間に次々と技を繰り出すが、スレッシュはそれを冷静に対処してゆく。


特に頭部への守りは硬く、手を伸ばせば届くはずの距離であるはずなのに、驚くべき反射神経で上体を反らし、時に腕で防ぎ、指一本も触れさせてもらえない。


「シッ!」


小さく息を吐き出しながらスレッシュも反撃のジャブを見舞う。


無駄を極限まで減らした正確かつ拙速な拳が何度も繰り出されるが、必ずそれを払いのける手が待っている。


打ち込んでいるのでは無い、わざと狙い易い場所を作り、そこに打たされているのだ。


鉄壁の防御で相手の隙を伺うスレッシュに対して防御を最小限に絞り攻めに重点を置くメリッサ。


奇しくも真逆のスタイルで戦う2人であったが戦局は硬直、お互いに攻めあぐねたまま拳を交差させる2人。


(絡みつけ 蛇の ように)


「はい!」


このままでは埒があかないと先に仕掛けたのはメリッサの方だ。


弾丸のようなストレートを払うかと思いきやそのまま手首をつかみ、相手へと飛びかかり足で首を刈る(飛びつき腕十字)が決まった。


「ぐ・・・この、離せ・・・」


「そちらこそ、早く降参なさい!」


しかし戦いの決着がつくことは無かった、無理に仕掛けた事と2人の体格差があり、引き倒す事ができず、メリッサは相手の腕から逆さまにぶら下がる形となってしまった。


対するスレッシュも身動きが取り難いのか、彼女を振りほどく事ができない。


またしても膠着状態となってしまった戦場にジェイクは介入するべきか考えたが、その時(兄貴)が手のひらをスレッシュに向けている事に気付く。


もうすでにラウンド2のゴングは鳴っていたのだ。


「メリッサさん下がって!」


ジェイクは両手に(門)を構築し、海水を放つ。


声に反応したメリッサは素早く技を解き着地し、自由となったスレッシュに海水が命中した。


「うぉ、冷てぇ!」


スレッシュは思わず声を上げた、この雪山で水を浴びる事は想像以上に体力を奪うが、もちろんそれだけで済むはずがない。


「まだ抵抗しますか?」


浴びた部分からじわじわとフジツボが繁殖を始める、やがて関節が硬い甲殻で覆われて身動きが取れなくなるだろう、ジェイクと戦った人間の末路は概ね同じだ。


「ほぅ・・・聞こえたかスレッシュ? あの男はもう勝利したつもりらしいぞ?」


しかし、何事にも例外はある。


まして神秘の力同士の戦いとなれば、神の力を信じながらも、己の常識を疑い続ける必要があるだろう。


「舐められたもんスね、兄貴ぃ」


(兄貴)の手から三本の光の線がスレッシュの体へと伸び、そして繋がる。


同時に何かが砕ける音がした、丁度道に転がる木の枝を踏みつけた時のように。


関節部分を覆っていたフジツボの集合体は真っ二つにへし折れ、時折破片が床に落ちてカラカラと乾いた音を立てた。


戒めから解かれたスレッシュは肩をぐるぐると回し体の調子を確かめる、その余裕すら感じられる表情にジェイクは少なからず衝撃を受けた。


教団のフジツボはザダの血族達でも一度捕らわれると逃れられるのは困難だ、それを容易く破壊する筋力をもたらしているあの光の線は明らかに危険である。


「やっぱり、その力・・・」


メリッサも異常を察知したのかすぐさまスレッシュへと向き直り構えを取る。


ジェイクは彼女の背中と、その向こう側にいる敵対者達を交互に見据えながら次の一手を思案していたが、彼は不幸な事にも常識の次に己の目を疑う事になるのだった。


「え?」


メリッサの背中が急接近、というより自分の方へ飛んでくる事に気づき反射的に両手でキャッチ、何とか足でふんばり諸共地面に倒れる事から逃れた。


「貴方達、ナハト出身ですわね?」


態勢を整えたメリッサは2人に向かって故郷の名を口にした。


(兄貴)の方はポーカーフェイスを崩さずに無反応であったが、スレッシュの方はバツが悪そうに(兄貴)へと目配せしたため、誰が見ても図星である事は明らかだった。


「ほぅ、まぐれで防いだかと思いきや、種が割れていたか・・・しかし、まだ抵抗するつもりか?」


(兄貴)から意趣返しとばかりに自分が放った言葉を投げつけられる事に内心歯噛みするジェイクだったが、真正面から戦ってもこの状況を覆す事は困難であろう。


しかし、彼は敗北を受け入れはしなかった、何故なら思考の海の中で彼は確かな天啓を得たのだ、あらゆる物が不確かな戦場で神だけは彼を裏切ることは無いのだ。


「いいえ・・・まさかそちらこそ、もう勝利したつもりですか?」


再び(門)から噴出する海水を、今度は事も無さげに避けてみせるスレッシュ、その体捌きは超人的であり、水飛沫を一滴も浴びずに後方へ下がった。


「何かと思えば悪あがきか? それも良かろう・・・では後悔させてやれ、スレッシュ!」


「ウス」


(兄貴)の激を受け、スレッシュは再び距離を詰めるべく目にも止まらぬ速さで動く。


「いってぇ!」


そして足を滑らせ地面に転倒した。


敵へと向かうはずのエネルギーが地面に向かった衝撃により、未だかつて経験した事がない痛みと衝撃が彼を襲う。


周りの人間も予想外の事態に眼を点にして、苦痛の声をあげるスレッシュを呆然と見ている。


ただ1人、ジェイクを除いて。


「おい! この肝心な時に何をしている!?」


「す、すまねぇ兄貴・・・いてて・・・あぁ、なんだこりゃ!?」


スレッシュは起き上がろうとして地面に手をつくと、大きな違和感を感じた。


その手には水気とぬめりをたっぷりと含んだ藻が大量にへばりついている。


慌てて周囲を確認すると足元から壁面までびっしりと藻が増殖していた、ついさっきまでそんな物は欠片も存在していなかったのに。


「どうかしました? 僕達を後悔させるんでしたよね・・・それとも降参しますか?」


ジェイクの挑発を受け頭に血が上るスレッシュであったが、高速移動をしようにも体を支える大地に嫌われていては役に立たない、彼は肉体強化の術が返って仇となる戦場へジェイクによって引きずりこまれてしまったのだ。


「ま・・・まだまだぁ!」


それでもスレッシュは諦めなかった、足元が悪いのは相手も同じ事、まだ機動力を削がれただけ、強みが1つ失われたに過ぎない、そう思い込む事で何とか自身を奮い立たせようとするが、彼の思惑とは真逆に事態は悪化の一途をたどるのだった。


まるで山の斜面を転がり落ちる石のように。


(歩けない なら 歩かないで 闘う)


「とぅ!」


メリッサは助走をつけ飛び跳ねると、体をぐるりとひねり浴びせ蹴りを放った。


「うおっとぉ!?」


突然の大技にスレッシュは思わず声を上げたが、それを難なく両手で防ぐ。


防がれたメリッサはそのまま受け身を取り、地面に仰向けになったまま・・・。


「さぁ、かかって来なさい!」


彼女はそう言い放つと自身の体に回転を加え、まるで独楽のように藻にまみれた床で勢いをつけ蹴りを見舞う。


スレッシュは足場が悪ければお互いにじりじりとしたにらみ合いになると考えたようだが、彼女はそもそも土俵にすら上がって来ずに拳の当たらない徹底した低姿勢で下半身を集中的に狙う判断をしたのだ。


(アリキック)と呼ばれる蹴りが膝、脛、太もも、ふくらはぎへ何度も突き刺さるが、スレッシュはそれを歯を食いしばって耐える。


しかし、永遠に持つはずがない、いつかは痛めつけられた足が自身を支えきれず倒れる事だろう。


「下がれスレッシュ、もう十分だ」


そう言い放つと(兄貴)は掌から光の線を消した、口にした通り、これ以上の戦闘継続は無意味だと判断したのだろう。


「ま、待ってくれ兄貴、俺はまだ・・・まだ!」


「案ずるな、お前はまだ敗北してはいない、しかし勝ちを拾うには少々準備不足だ、この意味が解るな?」


自分の敗北を認めたくないスレッシュは藻に足を取られながらも何とか詰め寄るが、それを丁寧に諭す(兄貴)。


「今は引くぞ、出直しだ」


「・・・ウス」


しばしの沈黙が彼が納得してはいない事を物語っているが(兄貴)の言葉は彼にとって絶対であるらしく、ジェイク達に背を向け外へと歩き始めた。


「お待ちください」


「何かなお嬢さん? 君達の目的は我々を退ける事だと思ったが・・・」


呼び止められた2人は洞窟の入り口付近で振り返ると、そこには柔和な笑みを浮かべたメリッサがいた。


「お手合わせ有難うございました・・・ワタクシはメリッサ・フロストハウスと申します、お名前を伺ってもよろしいかしら?」


2人は自分達の素性について追及、もしくは追撃を受ける物だと考え身構えたが、その敵意の無い声音にも毒気を抜かれたのか、しばらくして口を開いた


「私はベン、こっちはスレッシュだ、以後お見知りおきを・・・メリッサ御嬢さん」


「ウス!」


ベンが帽子を取り仰々しく頭を下げ、隣のスレッシュもそれにつられて慌てて会釈をすると、飾り気の無い洞窟であるにも関わらず、まるで社交場で初対面の挨拶を交わすかのような穏やかな空気が流れる。


先ほどまで拳をぶつけ合った間柄とは思えない。


「ふぅ・・・参ったな、こういう手合いは初めてだ」


「あざっした!・・・あ、兄貴! ちょっと待ってくれよ~」


2本目のタバコに火をつけて立ち去るベンとその背を追うスレッシュ、洞窟を抜けた2人の足音はそのまま静かに遠くへ消えていった。


「はぁ~・・・一時はどうなることかと思ったが、貴様等存外にやるではないか」


しばらくの沈黙の後、最初に口を開いたのはドーベルマンだった。


それをきっかけにジェイクとメリッサも緊張の糸が切れたのか、全身の力が抜け大きく生きを吐いた。


「お疲れさまでしたメリッサさん・・・正直、僕1人じゃどうにもならない相手でしたよ」


「いえ、ワタクシの方こそ、修行不足で・・・」


2人が互いに近寄って労いの言葉をかけようとした瞬間、メリッサの体が大きく揺れた。


「おぉっと!」


ジェイクは崩れ落ちるメリッサの体を慌てて受け止め、肩を貸した。


どうやら憑依が解け、貸していた肉体の感覚が戻ってきたようだが、彼女は自分自身を支える事もできないほど消耗していたらしい。


それほどまでに、ベンとスレッシュは強敵だった。


「おいおい大丈夫か、嬢ちゃん!?」


「ごめんなさい、ワタクシ疲れてしまったみたいで・・・少し休めば・・・」


疲労と痛みが蓄積している四肢には力が入っておらず、海水を吸い込んだ上着を身に着けた彼女の体は泥人形のように重い、誰の目にも強がりを言っているのは明らかだ。


「大丈夫ですよ・・・しばらく休んで、メリッサさんが元気になったら奥に進みましょう・・・ドーベルマンさん、薪を集めるのを手伝ってもらっても良いですか?」


「おぅ、ワシに任せろ!」


そう応えるとドーベルマンは勢いよく外へ飛び出して行く、もしかしたら、この場で一番元気なのは彼なのかもしれない。


そんな事を考えながらもジェイクはこの先に待つ神の試練の事が頭をよぎり、不安が募る。


「う、痛・・・」


「痛みます? どこですか? 見せてください、すぐ治療します」


メリッサの声でジェイクは我に帰るとすぐにローブを脱ぎ捨て床に敷き、その上に彼女を寝かせると、余計な考えを振り払うために自らの頬を何度も叩いた。


ドツバは(気合を入れるため)とまれに部下やジェイクにビンタをする事があったが、まさか自分がそれを実践する時が来るとは想像していなかった。


ヒリヒリとした頬の痛みで思考がクリアに・・・なったような気がするだけかもしれないが、今は自分の為すべきことを為すために、ジェイクは(門)を開くのであった。

65章まで更新した所で、このページが抜けている事に気が付きました、本当にすみません

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