暁時
「たぁ! とぁ!」「ホウ! ホウ!」
ジェイクが目を開けると、そこはいつもの自室ではなく見慣れぬ海岸だった。
目の前には砂浜と穏やかな海、すっかり冷え切った篝火の燃えカス、太陽は地平線の向こうから顔を半分出した所で、朝焼けが世界を橙に染めている。
「朝・・・あ、しまった!」
故郷とはまた違う美しい光景に思わず見とれそうになったが、そこでジェイクはようやく自分の状況を思い出した。
「もしもし、こちらジェイクです、応答お願いします!」
慌てて懐からガラス瓶の首飾りを取り出すと、それに向かって必死に呼びかけ始める。
ガラス瓶の中に浮かんでいる鱗には米粒ほどの小さな光の輪が浮かび上がっていた。
「んが!?・・・ぐぅ・・・がぁ・・・」
(門)の向こう側からドツバの寝息が聞こえる、彼はまだ睡眠中だったようだがジェイクは構わず続ける。
「ドツバさ~ん! おはようございま~す!」
「んぁ・・・あぁ? ジェイクか・・・何だ?」
寝起きのドツバはベッドで身を起こしたようで、木が軋む音と共に返事が返ってきた。
首飾りの鱗はドツバの逆鱗の内の一枚で、神殿ではなく彼の顎ヒゲ直通のホットラインになっている、大きな門は開けないが、会話をするくらいはできる。
「定期報告、遅くなってすみません」
「報告?・・・あああぁぁぁぁ! そうだよお前、昨日連絡よこさなかったじゃねぇか! 心配したんだぞ!」
耳を塞ぎたくなるような大声が鳴り響き、思わず耳元から首飾りを遠ざけるジェイク。
叱責も解っていたこととは言え、つらい事には変わりない。
「ご、ごめんなさい・・・」
「まったく、初日からやらかすとは信じられんな、誰に似たんだか・・・」
ジェイクは喉元まで出かかった(あなたです)の言葉を飲み込む。
「とは言ってもな、詳細はイグニスから聞いてる、ボス猿を逃がしたあげくにヤケ酒かッ喰らってそのまま寝たんだってな?」
「ぐ・・・事実とはいえ、酷い言われよう・・・」
だが、ジェイクは心を無にして耐える。
ドツバ相手に抗弁した所で、何も好転しない事を、彼は良く知っていた。
「ガハハハハハ! 冗談だ冗談、そう深刻に考えるな、逆に言えばボス猿を追い詰めたって事だろ? チェックメイトまであと一歩だ」
(門)の向こうからは寝起きとは思えないほど豪快な笑い声が響いてくるが、聞いているジェイクは渋い顔をしている、無理もない。
「その一歩が厳しそうなんですよ、何か良い案あります?」
「何で俺に聞く? それを考えるのはお前の仕事だ」
ドツバは冷たく返す。
やはり最後に頼れるのは自分だけ、という事らしい。
「う~ん・・・無くは無いんですが、ちょっとお願いしたい事が」
「おぅ、何だ? 言ってみろ」