98話 初めて入る建物って緊張するよね
今日は久しぶりにアジト近くの町に赴く。
朝食を食べた後にあらた君と入り口で待ち合わせ。
町と言ったらしたっぱ君なんだけど、どうしようか……。
いつも通り荷物持ちとして連れて行ってもいいんだけど、同郷同士の話をするときちょっと困るんだよね。んー、でも、別にその手の話をする必要はないし、あらた君と二人っきりになりたいわけじゃないからなぁ……。
そもそもしたっぱ君とあらた君が会話している状況が上手く想像できない。なんだろう、自分にとって別ジャンルの知り合い同士が関わっている姿に違和感を感じる現象だ。
……あっ、あらた君には【収納】スキルがあるから他に荷物持ち要らないじゃん。
ごめんねしたっぱ君、今日は置いていくよ。あらた君には備蓄の運搬をお願いしよう。
「おまたせー」
「おう……相変わらずのフル装備だな」
僕は今日もブーツにズボン、パーカーのフードを深く被って更に仮面という不審者装備。腰のポーチには、ベルトに大振りのマジックアイテムのナイフが括られていて現代日本では通報待ったなしの格好だ。おまけに今日は白い手袋も身に付けていて素肌が完全に隠れている。
……ちょっとね、今の右手を聖女の人に見られたときにどうなるのか予想できないから。大丈夫だとは思うんだけど、念の為隠すことにした。
因みに今日のあらた君は神官服だ。久しぶりの神官君、お仕事だからね。だけどその上に外套を被っている。とても暑そう。
「最近は暑さも落ち着いてきたが、そんな格好じゃ熱中症になるぞ?」
「そっちこそ。僕は冷房代わりのマジックアイテムがあるから大丈夫だよ」
そう言って服の中から<伝熱の短杖>を取り出して見せる。これはとてもいいものだ。一度身に付けたらもう手放せない。
「え、ナニコレめっちゃ涼しい……俺も欲しいんだけど」
「魔法具は一点物だから。ああでも、君なら作れるんじゃない?」
「後で試してみるが、難しいだろうなぁ。はぁ、やっぱ使いづらいスキルだわ……」
既にある物は創れないんだったか。ここ最近、あらた君の創製物を借りて【解析】しているけど、なかなか厄介な制約みたいだ。
もう少し解析が進んだら、僕も【創製】スキルの実験に協力しようと考えている。……僕にも便利グッズ作ってほしいし。
それから適度に雑談を交わしながら二人で歩いて、町に着いた。
うぅ、数日引きこもってたから身体が鈍ってる。端的に言って非常に疲れましたよ。
「休憩……いや、冒険者ギルドでもできるか……案内するよ……」
「なんか悪いな」
へとへとの僕を見て罪悪感を感じたようだ。
「悪いと思うならギルドで何か奢ってよ。あそこ酒場にもなってるから」
「酒飲めるのか? てか、何歳?」
「14だけど。普通にジュース飲む」
「お、おお。やっぱそれくらいだよな」
……? 何を動揺しているのだろう。
年齢……あれ、僕のことどれくらいだと思ってた? 上でも下でも僕怒るよ? 歳の話はデリケートなのだ。
「そういう君は何歳なの」
「16……いや、もう17になってるか。多分もう誕生日過ぎてるしな」
「あー、こっち来て随分経ってるからね」
この世界は月齢じゃないから今が何月何日に当たるのか分かりにくい。
僕には解析さんがいるからね。ずっとアジトに籠っていても何日経ったかすぐ分かる。
道を進んで行くと、大きな建物が見えてきた。
「見えてきたよ。あれが冒険者ギルド」
「おー、あれが憧れの」
「憧れるの?」
「ああ、ロマンだからな」
ロマンなのか。じゃあ分かんないや。
冒険者ギルドに来店。僕は町へ入るとき既に冒険者ミール君になっている。
窓口、掲示板をスルーしてテーブル席に座る。いつも通り、依頼を受ける気はない。
店員が来ると同時にドリンクを注文。
「ピーチソーダ」
「じゃあ、同じ物もう一つ」
注文を受けた店員だけど、すぐ去らずにメニュー表をテーブルに置いた。
……ん? なになに? 新作、あります。
「新作、ください」
……商売上手。
いいもん、あらた君の奢りだから。
「さて、さぼり聖女は居るかな?」
「俺は本人見たことないから頼んだぞ」
どうだろう、僕も暫く見てないからな……。
聖女の正装をしていれば分かるけど、変装でもしていたら見分けつかないよ。
「みみみ、ミールちゃん……!? お、お久しぶりです……!」
杞憂だったようだ。
向こうから勝手に近づいて来た。
顔をそちらに向けると……え、誰?
普通の地味系の私服に茶髪に眼鏡……。
「だれ……?」
「私ですよっ。ハルクルファ・リークル……! ほら、リーベナゼル教会の聖女のっ」
「……?」
……あっ、これ変装か。
変装のレベル上がってる。この聖女はどこを目指して進んでいるのだろう。
「あー、眼鏡は高級品だから目立つよ?」
「え、そうなんですか?」
聖女ってやっぱりブルジョアなんだなぁ。
僕は盗賊だから、物の価値にはそれなりに詳しい。あらた君なんか「へー、そうなんだ」ってぼそりと呟いていた。
「でもちょうどよかった。今日は聖女に用事があって来たんだよ」
「え!? 本当ですか!?」
「というより、用事がある人を連れてきた」
そう言って、あらた君を指差す。
満を持してのあらた君。彼は外套を素早く外して神官として正しい姿になると、優しい微笑みを携えて口を開いた。
「エイファンス神教国より派遣されて参りました、神官のアラタ・クツヌギと申します」
「げっ、神教国の……」
明らかな動揺を見せた聖女だったが、コホンと一つ咳払いをすると両手を胸の前で組み、祈るように瞳を閉じた。
「よくお越しくださいました。……ですが…………人違いです!」
「あっ、おい!?」
パッと目を開くと同時に駆け出す聖女。あらた君と僕は慌てて追いかけるが、ギルドを出たところで建物の屋根上を走る聖女の姿が見えた。
「うわっ、逃げ足はや……」
「マジックアイテム使ったね。ほんと、教会の人は逃げるの得意だよね」
手を組んで祈るようにしていたのはフェイクで、胸元にある首飾りのマジックアイテムに魔力を込めていたのだろう。あのマジックアイテムは身体を軽くするから逃げに徹されると捕まえるのは難しい。教会から支給されたはずのマジックアイテムで神官から逃げ出すとはなんて聖女だ。
「仕方ない、今日のところは教会にアポだけ取っておくか」
「そっか、あらた君なら普通に連絡すればそれでよかったんじゃん」
「ぶっちゃけ素行調査みたいなところもあるからな。今日の件は後々突かせてもらうとするさ」
メインの用事はもう終わったけど、取り敢えずギルドに戻ってテーブル席に座る。まだ注文したものが来てすらいないからね。
しっかりたっぷりと休憩を挟んだ後は町の教会に向かう。
新作スイーツは美味しかったけど、まあ、所詮はギルド内の酒場だなって感じの出来だった。大食いな冒険者向けなのか結構量も多くて、食べきれなくてあらた君に手伝ってもらうはめになった。僕の別腹には収まりきらなかったようだ。過信した。
教会には初めて行く。今まで用事とか無かったからね。
そこそこ大きな建物だから場所だけは知っていた。十字架が外装の一部になっていたりと特徴的だから、見ただけでそこが教会だと分かる。
「教会の大きさは町によってそれぞれだな。ここは、町の規模にしては少し小さいくらいだ」
「へえー。でも、教会って無駄に大きいよね」
「無駄とか言うなよ、会堂にある程度の広さが必要だからな。うちの教会は町の基金……町が幾ら負担するかで規模が変わるからそのときの領主がどれだけ信仰してたかも影響する」
「え、町がお金出すの?」
「ああ。でも、税金から出るわけだから実際にはその町の住民が負担することになるな。そもそも住民に信者が1人も居なかったら教会も要らないわけだし」
あらた君、教会の人だけあって教会事情に詳しい。あんまり神官らしくないのに。肩書だけの神官とか言ってたのに。
「表立った事情じゃないし、裏から入るぞ」
「僕も入っていいの?」
教会とか初めて入るからちょっとそわそわしちゃう。しかも裏口から。
「俺の助手ってことで」
そう言ってあらた君は教会の裏に回り、裏口のドアノッカーを叩こうとしてやめた。話し声が中から聞こえてきたのだ。
「聖女様の声だよな……?」
「そうだね……」
教会に戻ってきていたのか。
そしてあらた君は、ノックもせずに扉を開けた。
中には正座をしてシスターに怒られている聖女がいた。




