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93話 虚像遣い

「神官君、何か手は無いの?」


 おっさんを逃がすタイミングを無くし、ドラゴンと対峙する僕ら三人。

 僕はドラゴンと相性が悪いみたいだし、神官君に期待したい。


「手段だけならいろいろあるんだがなぁ。何が効くのか分からん」


 ああ、道具を作るスキルだから、手持ちだけはあるんだろうね。

 その手持ちは【収納】スキルの中にあるから、僕にはどんなものがあるのか分からない。スキルを【解析】するのは時間掛かるし、解析先生は今ドラゴン相手で手が離せない。


「なんでもいいから一番強力なの頼むよ」

「一番強力なのはどうなるか予想が付かん。それに、恐らく一度しか使えないから……」

「奥の手なら今こそ使って、よお!?」


 神官君を突き飛ばして僕も後ろに飛ぶ。

 二人の間を風の刃が通り抜け、地面が抉れた。


「な!? 見えない刃!?」

「風の刃だね……」


 今ので危機感を覚えたのか、神官君は手元に拳銃を出した。

 即座に構え、引き金を引く。


 パンッ、と乾いた音が響いて、ドラゴンの上半身に小さな火花が散った。

 そして一瞬の間があった後、ドラゴンは大きな爆炎に包まれる。

 球形に渦巻く炎が熱気を閉じ込めているのか、近くに居るのに熱さを感じない。


「おぉ……」

「流石に効いてくれよ……?」

「効いてないみたいだよ?」

「え?」


 解析先生があんまり効いてないってさ。微ダメくらい?


「ボケっとしてないでもっと撃ってよ!」

「弾があれしかないんだよ! 俺のスキルは同じ物を作れないんだ!」

「じゃあなんで使い捨ての弾丸なんて作ってんの!?」

「あの頃はスキルを理解してなかったんだ……」


 こいつ大丈夫か……? これでも頼みの綱なんだけど。

 くそぅ、こんなことなら神官君のスキルを頑張って解析しておくんだった。


 というか僕も出し惜しみとかしている場合じゃない。風の刃がビシバシ飛んでくる。行動解析で避けられてはいるけど、物量に押されそう……。

 【虚像】の幻術を発生させる。暴風に煽られると消えてしまうけど、無いよりはマシだ。


「神官君さ、『闇招き扉影』って知ってる?」

「は? なにそれ」

「日中の影にだけ現れる扉。中は安全地帯……っていう噂」

「……それが?」

「君の後ろにあるんだけど」


 ――【虚像】"虚ろなる実像"


 ドラゴンの大きい影にそれはある。その巨体から伸びる影は僕らの足元まで来ていた。

 本当はない。でも、神官君があると思ったときからそれは存在する。だいぶ割愛して騙ったけど、僕とおっさんの認識で細かいところは補強できる。


「一度退くよ! 中に入って!」

「お、おお!」


 神官君が扉を開き、そのまま中に入る。


「おっさんも早く!」

「ああ! 旦那も!」

「分かってるっ……!」


 おっさんを突き飛ばして扉に落とす。風の刃が迫っていたんだよ。

 僕も地面に生えている扉に飛び込む――っ!?


 行動解析がドラゴンの出す風を感知した。

 目の前で風が生まれ、凝縮し、風の刃となった。


 回避は間に合わないから、右手にナイフを呼び寄せて風の刃に当てた。

 強い衝撃に右腕全体が真上に弾かれる。でも、僕は既に扉に足を踏み入れている。というか地面に開いた穴だから踏めていない。落ちた。


 ――どさっ、ビシャァッ、カランッ。


 いろいろ落ちた。


「うっ、痛ぁ……扉閉めて……」

「だ、旦那……」


 ……? 上手く起き上がれない。

 なんとか左手だけで・・・・・上半身を起こす。


 ――白黒の部屋の床に、赤い血が広がっていた。


「お、おい、あんた……その腕……」


 扉を潜る直前、僕は風の刃を右手のナイフでちゃんと受け止めた。

 その後、右腕を上に向けたまま扉を落ちて……最後の最後で、ドラゴンの風の刃が僕の右腕を……。


 咄嗟に残っている右腕を左手で覆い、うずくまって傷を隠す。


「な、なんでもない」

「いや、何でもないわけ」

「気のせいだって!!」

「お前ら落ち着け! いいから腕見せてみろ。止血しないとまずい」


 神官君が僕とおっさんを宥めてそう言ってくるけど、見せるわけにはいかない。

 【解析】もなしだ。この傷は確定してはいけない。

 嫌な汗がだらだら流れる。


「はあっ、ミルピィ様は、やられたりしないっ。だから、こんなのは、幻」


 今ある姿は幻覚だ。

 虚像とは、人が抱くまやかしの姿。僕は虚像を司り、虚像を纏う。

 僕は僕の中の理想像を【虚像】で自分に重ねている。【虚像】の性質上、他人の認識も混ざっているから、完璧にとはいかないけれど。団長や……最近は聖女の人の抱く虚像が混ざっているせいで、女っぽさが出やすいのかもしれない。


「ほら、よく見てよ。怪我なんてしてないでしょ」

「いや、隠してて見えねえよっ」

「いいから! 僕は怪我なんかしていない! ……そういうことになってるの」


 幻術を使う。

 強く、強く、彼らを幻覚で侵す。


「なん、だ……? 視界が……」

「眩暈がする……」

「ほら、見てよ。怪我なんて無かった」


 そうだよ、僕がそんな怪我なんてするはずがない。

 そんな辛い現実、僕には必要ない。

 ここに虚実は反転する。


「さあ、そんな勘違いより、扉を――」


 上を見上げれば、扉は既に閉まっていた。流石僕の幻術。


「なんだよ、お前のスキル……傷をなかったことにしたのか……?」


 神官君が結構近いことを言ってくる。

 神官君は、僕がそういうことをできると思い込む。それでいい。

 その【虚像】を僕は身に纏う。


 床を見ると、血は既になく、僕が手放したナイフが落ちていた。

 右手で・・・拾ってみると、バッキリ罅が入っていた。転送テレポートで一度手元に出し直し、新品状態に回帰させておく。


「ナイフの罅まで……」


 ん……? ああ、これも僕のスキルだと思ったのか。ただ単にマジックアイテムの能力なんだけど、まあその方が都合がいいか。


「さあ、作戦を立てようか」

「まさか、まだやるつもりなのか? 竜が立ち去るまでここで隠れていればいいだろ?」

「この部屋はそんな都合のいいものじゃないからね」


 ドラゴンの影に扉を作ったから、出るときも必ずドラゴンの近くになる。それに夜になるとこの部屋は消滅する。

 それだけじゃなく、団長たちが心配だ。洞窟を拠点にしているからドラゴンの被害は受けていないと思うけど、確認するまで安心できない。


 部屋の特性を神官君に説明したあと、作戦会議を始める。

 といっても、手短に。僕の限界が近いから、あまり時間を掛けられない。


「俺のスキル【創製】は魔法具や魔道具のような物を創ることができる。だけど条件が厳しくてな、既に存在する物は創れないんだ。これは【創製】で創った物も例外ではないから、同じ物は二度と創れなくなる」


 既にある物は作れないって……全然作れないじゃん。

 取り敢えず、使えそうな創製物を幾つか出してもらった。


「僕のスキルは【投擲】【解析】……あと一つあるけど、今は言えない。さっき使って見せたやつ」


 【虚像】は明かせない。虚像は虚像だと知られてはいけないから、少なくとも今は駄目だ。

 その代わり、【投擲】と【解析】の簡単な説明をした。

 僕がトリプルホルダーであることやそのスキルの内容まで教えるのは、敵がそれだけ強大だから。素直に命の危険を感じていて隠し事とかそれどころじゃない。

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