86話 街はしけって闇市賑わう
2話前で遠征に参加しているはずのターオズが居ないことになっていたので修正しました。
ごめんねしたっぱ君……居ることに気が付かなくて。
情報収集の結果、残念なお知らせが一つ。
あの義賊に襲われた商人、この町ではかなり幅を利かせていたみたいで、確かに悪事を働いて町民に不利益を与えていたけど町への貢献度も結構大きかったようだ。
そんな商人が営業中止に追い込まれて最初に影響が出たのは、彼が独占していた市場。独占市場は困ったものだけど、だからといって急に販売を止められたらもっと困る。だって、その人しか売ってない商品だからね。
彼が何を取り扱っていたのかまでは知らない。でもまあ、悪人即成敗では済まないのは面倒なところだ。
「彼は悪人だったけど、この町には必要な人材だった、のかな……」
「自分を必要とするように動いてたんだろうよ。悪人ってのはそういうもんだ」
「なるほど、確かにね」
借りる人が居るから悪徳金融はなくならない、みたいな話かな?
僕は悪人の悪事を暴いただけ。その後どうなるのかなんて管轄外だよね。
「悪事ってのは必ず被害者が出るもんだ。それが出なくなるだけ以前よりマシにはなるんだから、あんまり気にするこたぁねえよ」
なんかおっさんに励まされてしまった。そんなにしょげてたかな。
気を取り直していこうか。
盗品を売りに行こう。
昨日幾らかの盗品をバラまいたお陰で誰がどの物を売ったかという情報に価値が無くなっている。まあ、義賊クラウド君に出所が集約されるんだろうけど、盗賊が盗品を堂々と売っていたという図式にならなければオーケー。
盗賊は町に入れないからね。義賊クラウド君はどうして入れたのかって話になりそうだけど、犯罪者相手の犯罪は犯罪じゃない、というルールがある。明確にそう規定されているわけじゃないけど、例えば盗賊を殺しても殺人罪には問われないとかね。だからクラウド君が犯罪系職業になっているかは微妙なところだけど、町に入れたということは犯罪系にはなっていないのだろうと推測されるわけだ。
多分そのうち指名手配はされるだろうけどね。現実に犯罪者扱いでもステータス上は犯罪者じゃないってのは稀によくあることらしい。冤罪掛けられたらステータスも犯罪者のそれになってたとかおかしいもんね。
つまり、今まで散々敬遠してきた盗品売却を今の状況なら簡単にできるというわけなのだー。
あんまり量が多いとやっぱり怪しまれるけどね。
闇市が賑わっていたよ。
何ヶ所かに分けて売り歩いた。
在庫処分。がっぽがっぽだよ。
「うはははは。これで遠征の目標は達成できたんじゃない?」
「ちょっと買い叩かれたが上等なほうだろうな。冬越しの準備資金には十分そうだ」
そう、冬に向けていろいろ入り用なのだ。
ぶっちゃけ洞窟で冬越すとか正気の沙汰じゃない。毛布と薪を買い込んで頑張るらしい。
冬はまだ先だけど、今稼いだだけ冬の生活が楽になるのだからもう頑張るしかない。今回のでだいぶ余裕が見えてきたけどねー。
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それから数日経って、そろそろ本拠地へ帰りたくなってきた。
貯まっていた盗品の処分もできたしそろそろ遠征を切り上げたいんだけど、そうできない事情があった。
性奴隷たちだ。
彼女たちを解放するまでは帰ることができない。ほんと、厄介なの拾ってきたと思う。
最近はクラウド君姿で頻繁に奴隷たちのところへ行って魔力操作を教えている。早くマスターしてほしい。
でも、どうしてこうなった。
「あの、クラウド様……っ! 今の……!」
「うん、少しだけど7つ全部光ったね。凄いじゃないか」
「そっそんな、クラウド様の、全部っお陰です……」
僕と話してるの? ほら、無口さんだよ。
なんか思った以上にクラウド君に懐いてね。普通に喋ってくれるようになったんだ。
それで、めっちゃデレデレしてくるようになった。
んー? なんか思ってたのと違うよ?
まあ、奴隷少女を口説き落としてやろうとか企んで色気振り撒いていたけどね。でも掛かった獲物が違うんだよなぁ。
奴隷少女は奴隷少女で問題だらけだし。
「あのぅ、クラウドさん? 私のこれ、壊れてるんじゃないんですかぁ?」
「残念ながら、壊れてない」
彼女は致命的なまでに魔力操作が苦手だった。未だに魔道具を光らせたことがないのだ。
正直めちゃくちゃ困ってる。僕が。当の本人は相変わらずのほほんとしている。もっとやる気を見せてほしい。
何回も幻覚で魔力操作の感覚を教えているのに、ほほぉーとか、なるほどぉとか言うだけで一向に進歩がない。
「他の二人はそろそろ首輪外しに取り組めそうなんだけどね」
「そうですねぇ、私は自分のペースでやるのであまり気にしなくても良いですよ? 先にお二人だけでも首輪を取ったらいいと思います」
「うん、君には申し訳ないんだけどそうした方がいいかもね。彼女たちだけでも先に楽にしてあげたい」
そして早く出て行ってほしい。
最近団員たちの猥談が聞くに耐えない感じになってきた。
前は周りに団長くらいしか女性が居なかったからか、おっぱい揉みたいとかギャルのパンティが欲しいとかの中学生レベルの下ネタしか聞こえてこなかった。
それが最近ではあの子が一番○○○○だの、三人で○○で○○○○だのと、もうほんと聞くに耐えない。ちょっと男子ー、お食事の場でそんな話しないでくれるぅ!?
そのせいで奴隷っ子三人組と顔を合わせたときに、へぇ、この子が一番……とか考えちゃったじゃないか。やめてよやめて。ミルピィ様そんなエッチな子じゃないから。その手の話題は避けて通りたいんだから。
「あたしももう首輪取れそうなの?」
「そうだね……一発で成功するのは難しいかもしれないけど、外せる可能性は低くないはずだよ。うん、明日にでも試してみようか」
「本当!?」
「ああ。俺も明日時間作るから一緒にね。それと、魔力を使い切って失敗すると危ないから勝手にやらないようにして」
「分かってるわよ」
狂乱姉さんもやる気十分みたいだ。首輪が外れたら奴隷生活ともおさらばなんだから当然だろう。
というか最近は狂乱しないし呼び方変えようかな? でも他にあんまり特徴が……首絞めさん。駄目だ、トラウマが……。やっぱり恨みも込めて狂乱姉さんで。
それじゃあまあ、明日の準備でもしておこうかな。
念のため作っておきたい薬と、あとは団員への連絡。やるとしても遅い時間になるだろうから町に行っても問題なさそうだ。
薬の材料がないからどのみち町に行くのは確定だけどね。義賊としてもうひと暴れしておきたいし。
それにしても、最近の僕って働き過ぎじゃないだろうか? 慣れない環境だし、大丈夫かな? 栄養ドリンクいっとく?
病は気からって言うし気にしない方がいいのかもしれないけど、ちゃんと気を使わないと寝込むのも事実。
まあ、体調を気にし始めた時点ってお察しなんだけどね。僕の身体の弱さを舐めてはいけない。
遠征が終わるのが先か、僕の身体が限界を迎えるのが先か。
我ながら嫌な勝負をしているよ。負け確。




