85話 犯人は現場近くの喫茶店で一息つく
夜、いつもだったら眠っている時間帯。
僕とおっさんは未だに街中に居た。これから窃盗の予定が入っている。
「作戦をおさらいするよ。まず、屋敷に忍び込んで物を盗む。脱出時にバレる。逃げながら悪事の証拠物品とお宝の一部をばら撒く。変装して宿に戻ってお休み。以上!」
「わざと見付かって逃げる辺り、茶番だよなあ」
「僕らはこれから義賊をやるんじゃない、義賊ごっこをやるんだよ」
屋敷には何人もの警備員が居る。
門が閉まっているけど、僕の予想ならそろそろ――、
「お、開いた。行くよ」
「おう」
大きな門の一部、小さい扉が開いた。警備員の交代時間だ。
警備員さん達が引き継ぎをしている隙に門に付いている扉を潜った。ミッションスタート。
まあ、昼間に捜索したからね。
警備員に気を付けながら迷いなく進み、鍵の掛かった部屋もピッキングでサクサク進み、悪事の動かぬ証拠を押収押収。さらにお金をガッポガッポ。
風呂敷に包んで背負った。
「さて、透明化の幻術を解くかな」
透明化は一人一人対象を指定して視認できなくする幻術だ。見るもの全てを誤魔化す変装の類より手間だし疲れる。でも便利。
さっきまでは警備員が来たら見つかる前に幻術に掛けるという緊張感のあることをやっていた。彼らに掛けた幻術を解いて、これから逆に会いに行くくらいの気持ちで出口に向かう。
「――っ、誰だ!?」
「しまった! 見つかったか!」
見つかってしまったかー(棒)。
「くっ、曲者だー!!」
逃げます。
僕は足が遅いから、適度に幻術で撒きながら逃げた。
最後に屋敷の門の上に立ち(幻術が)、名乗りを上げる。
「俺は義賊のクラウド!! 今宵、一つの闇が暴かれ、夜明けとともにこの屋敷に巣食う悪は滅せられるだろう!!」
こっそり門を潜りながら適当にそれっぽいことを言っておく。
彼らには幻術で聴覚を狂わせて門の上で仁王立ちする幻術クラウドから声が聞こえるようにしている。
幻術クラウドが飛び降りて、門を普通に出た後の僕と合流。幻術クラウドを消せばまた警備員たちは僕を追ってくる。
あとは逃走劇を繰り広げながら金や貴金属をばら撒く。
ある程度撒いたら幻術の姿を変えて、何食わぬ顔で宿に戻る。宿屋に詮索されないように宿をこっそり出てあるし、こっそり部屋に入った。
「……疲れた。眠い」
「お疲れさん。俺は隣の部屋に行くから、ゆっくり休みな」
途中から逃げるのを殆ど幻術にやらせていたけど、物を撒くときは自分でやっていたからどうしても走るはめになった。
寝よう。
=====
次の日。
昨夜の義賊騒動が結構な騒ぎになってる。
被害者は財産をばら撒かれたわけだけど、同時にばら撒かれた悪事の証拠のせいで大勢が押しかけてきててんやわんやしているせいで碌に財産の回収ができていないようだ。
ふむ、良い感じですね。
それじゃあ帰りましょうか。
朝食を食べた後に門を出て、拠点に向かう。
お、魔物が複数。鳥のようだけど、羽根が小さくて足が長い。足が太いフラミンゴみたいな姿をしている。
【解析】によると、名前はトゥーワロー。初めて見るけどこの近辺では主流の魔物なのかな?
――キエー!!
――キエー! キキエェー!!
「うるさっ!?」
一羽がこっちを見て鳴いたと思ったら、他の鳥も一斉にこっちを見て鳴きだした。
からの、一斉ダッシュ。結構速くて迫力ある。
【投擲】でナイフを一羽の足に刺し、"共鳴する幻狂い"発動。全ての鳥が一斉に転倒した。
この技、扱いに慣れてきて最近はかなり強くなってる。基本的には痛覚共有なんだけど、前は僕の痛みを伝えるだけだったんだけど、痛覚を増幅できるようになり、更には他人同士の痛覚も共有できるようになった。他人同士の場合は痛覚増幅できないけどね。
無傷なのに立てなくなった飛べない鳥。あとはもう戦闘じゃなく作業だったね。最初からまともに戦ってないけど。
「なんか旦那が意味わかんないくらい強くなってる」
「ミルピィ様は成長期だからねっ」
留まるところを知らないのだ。
だから身長にも伸びしろはまだあるはず……。団長並みとは言わなくても、謙虚過ぎる胸部ももっと主張してほしい。
魔物の金になりそうな部位を回収して移動再開。もちろん回収作業はおっさんがやった。
この魔物、雑魚みたいで価値のある部位が殆ど無い。悲しい。
そんなこんなで帰宅。
お昼ご飯前には帰って来られたので、それまで休憩。
今日の予定は終わったけど、午後は何しようかな?
そうだ、奴隷っ子たちの攻略を進めよう。中二を極めつつあるクラウド氏に頑張ってもらおう。
=====
頑張ってかっこつけた、次の日。
うん、特に進展は無かったよ。いや、あったんだけどね。親密度が少し上がった程度で、めぼしい進展はなかったかなぁ。
今日も町にやって来ました。
犯罪者は現場に戻るって言うよね。僕もね、戻って来たんだよ。もちろん一般市民フェイスだけどね。
理由は、自分のやったことの影響がどこまで出るのか気になったからだ。今回僕が標的とした相手は、この町を拠点に栄えた豪商だった。スキャンダルの影響は果たしてどれくらい?
町の何処かで探りを入れようときょろきょろしていると……なん、だと。
桃のパイ……コンポートにした桃を? サクサク生地に乗っけちゃうのかぁ。さらに包んじゃう感じ? そっかぁ。
いただきます。
「旦那? なんか居心地悪いんだが?」
「そう? しあわせ空間だよ」
「絵面がなあ……お洒落な喫茶で野郎二人がスイーツ食ってる姿ってのが」
「あー、二人とも男性にしたのは失敗だったね。片方だけでも女性にすれば違和感なかったのに」
「片方って、もちろん旦那が女性役だよな?」
「わざわざそれ訊くってことは、察してるんじゃない? 僕今なるべく男装するようにしているんだよ」
「すまん、違和感あってもいいから男二人で居よう。というか俺が女装したほうが違和感出ると思う」
「大丈夫だよ。いざとなったら幻術の仕草まで僕が操作するから」
「それもう俺である必要ねえな」
もともと無いんだけどね。
僕の非力さからサポートを付けているわけで、ぶっちゃけ男手なら誰でもいい。僕の事情をある程度知っていて、最年長で頭がしっかりしているからおっさんを抜擢したわけだけど、何かを期待しているわけじゃないし。
「それにしても、この店で情報収集は難しそうだね」
お洒落なだけあって、客席にゆとりがあって他の客と距離がある。それに客層も御淑やかな感じで、あまり声が届いてこない。
「完全に私欲で選んだよな」
「このパイだけで入った価値あるからいいんだよ」
とはいえ食べ終わったら移動だなー。
おいしいおいしい。ほんと、スイーツがここまで発達しているとか異世界すごいや。食事に関しては結構発達している。まあ、町の人には手間暇かけたり調味料を揃える余裕がないんだけど。喫茶店は高級な部類に入るし。ちょっとした金持ちの社交場だ。町民には井戸端で十分だからね。
……おっと? 一つ隣のテーブルに座った二人組が気になる話をし始めた。
僕の方からは上手く聞き取れないけど、おっさんは客の一人と背中合わせで座っている。きっと二人の会話が聞き取れるはずだ。
おっさんとアイコンタクトで意思疎通……二人とも幻術の姿だから、正確ではないけど疎通できたと思う。
そうして僕は、おかわりを注文した。まだ居座るのに、食べ終わってしまったからね。




