84話 強盗事件、調査編
義賊キャラは外見だけじゃない。
さあ……ばら撒きに行くぞ! 財宝を! 盗品を!
そんなわけで、町にやってきました。
はぁー、疲れたね。やっぱり拠点から遠いよ。今日の盗賊稼業はお休みです。
いつもなら町といえばしたっぱ君を連れてくるんだけど、今回は知らない町だからしたっぱ君である必要はない。僕の荷物持ち係りみたいなものだからしたっぱ君を連れてきてもよかったんだけど、あんまり連れまわしてばかりだと団員同士の交流が疎かになるからね。細かい気配りもできる副団長様の配慮によって彼は置いてきた。
あと、今の遠征拠点は本拠地ほど隠匿性が高くないから団長は離れられない。
消去法で最年長のおっさんが荷物持ちとして付いてくることになった。
おっさんは僕の後ろに付き従ってるんだけど、すぐ背後に立つと僕の頭の上に手を差し込んだ。
今の僕は義賊風の姿だから、僕の頭の上辺りだと義賊の首に突き刺さって貫通する。シュール……じゃなくて。
「ねえ、ちょっと。遊ばないでよ」
「いや悪い悪い。ちびっ子のミルピィの旦那を見慣れてると違和感がハンパなくてな」
「今の絵面の方が不自然だよ。誰かに見られてないよね?」
「ああ、そこは大丈夫だ」
しっかりと辺りを警戒してから事に望んだようだ。そもそもそんな茶目っ気見せなきゃいいのに。
「そうだ、一応名前を考えておかなきゃね。んー、みる、みーる、ぴぃる……」
「元の名前から考えるのか? 字数的に限界があるんじゃ……」
「考えてみれば、奴隷っ子たちにもバレないようにしないといけないからあまり安直なのも駄目か」
でも、覚えにくいのだと僕が忘れるんだよね。呼ばれても反応できないし。
ミルピィと結びつかない、だけど覚えやすい名前かぁ。多少捻って……。
「よし、クラウドにしよう」
「いいと思うが、その名前はどっから来たんだ?」
「元の名前をちょっと捻っただけだよ。若干、男らしくね」
ちょっと忘れそうだけど、このくらいはしょうがないでしょ。
よぅしっ、早速義賊活動だ!!
貧しそうな区画へ行き、貧乏そうな家の前で貧困に喘いでそうな町民に盗んだ宝石をポイッと投げる。
投げつけられた物が宝石だと分かった瞬間、すごい早さで回収された。そのあと、怪訝そうな顔でこっちを見てくる。その表情には感謝なんて一切ない。あるのは疑問と警戒だけだ。
そりゃそうだ。いきなりそんなことされたら誰だって戸惑う。
一時撤収。
「手順っていうか、やり方を間違えたね。今のは義賊っぽくなかった」
「無言かつ無表情で宝石を投げ渡されたら誰だって戸惑う」
「ああ、表情を作ることも忘れてた。なんか完全に作業モードで淡々と配る気でいたよ」
違うんだ……義賊っていうのはそうじゃないんだ……。
イメージ……そう、イメージするんだ。僕の中の義賊っぽさを。
悪さしてる凄い金持ちの屋敷に忍び込んで、お宝を盗んで、追われて、貧民に宝を撒きながら逃げる。
そうだよ、盗んで逃げる姿を見られているから賊だと分かるんだ。いきなり現れて出所不明の宝石を渡したらただの不審な変人だよ。もしくは徳の高い善人。
そうと分かったら忍び込むぞ……。
「悪いことしてて金持ってる人の屋敷、その辺にないかなぁ?」
「悪いことして金持ってる人ってのは、どっちかは隠すもんだ」
「なるほど、一理あるね。なら金持ってる人の悪いところを探そう」
「うわっ、タチ悪ぃ」
それから商業ギルドで軽いリサーチを掛けた。金持ちさんとその家をリストアップ。
突撃! 町の金持ちさん!
今回のお宅はこちら! 庭に小池、別棟付きの豪邸。
臭い物は遠ざけるもの。まずは別棟を調査!
ふーむ、ただの物置ですね。特にめぼしい物もなさそうだ。
でも、まだ別棟はある。こっちは広さもある。
どれどれ? ……使用人用の住まいみたい。普通に生活感がある。
大切な物は全て手元に置いておくタイプかもしれない。本館を調査だ!
暫く捜索していると、書斎にたどり着いた。ここで今度こそ不正の証拠をゲットしてやる。そもそも何してる人なのか知らないけど。
ふむふむ……。
「って、この人昆虫学者なの!? なんでこんな良い家持ってるの!」
「元々裕福なんだろ。学者なんて、元から金持ってなきゃ学ぶ前に干上がっちまうさ」
「生まれながらの金持ち……初期ステータスに金持ち、ずるい」
なんか、研究関連の書物ばかりで極秘ノートとか怪しげな取引の形跡とかは無かった。
他の部屋も捜索……お、来客用の部屋かな? 賞状が並んでる。
「ここの主人は学者として優秀みたいだな」
「金持ちで才能もあるわけね……」
一番怪しい場所である執務室は、本人が居たから入れなかった。
扉は幻術を使ってから開けているのでバレることはない。
ちなみにご本人様、渋いおじさまだった。若い頃はさぞモテたでしょう。今も今で色香が……。
「ここまで持つもの持ってるとむしろ清々しいね。ちょっとくらい民に富を分け与えても罰は当たらないんじゃないかな?」
「やめとけ。見るからに人格者だったぞ。そんなところから奪ったらただの賊だ」
「……そうだった。僕らは義を重んじるからね」
しょうがない、ここに悪は居なかった。撤退だ。
まあまあまだまだ一軒目。裁くべき悪は他に居るさ。
二軒目、三軒目と不発。
僕、思うんだ……当てもなく探したところで、都合良く悪事を見つけたりできないんじゃないかと。だって、悪事って隠すものだもの。ちょっと見たくらいじゃ分かんないって。
あー、【解析】先生にお任せしたい。でも『ここにある何かの悪事の痕跡、証拠』なんてアバウトな解析をしたら頭痛くなっちゃう。無いものを探そうとすると余計に。
自力の限界を感じた。
情報屋にきな臭い噂を探らせる。
探らせるっていうか、既にある情報を提供してもらった。
さあ、真偽を確かめに忍び込みだ。
やってることはさっきと一緒。でも事前情報が違う。
「悪い噂が幾つもあるしー、火のないところから煙は立たないって言うしー、一つくらい悪さしてるでしょー。どうかっ、悪さしてますように!」
「俺らの目的からしたらおかしくないんだが、その発言はおかしい」
おかしくないのにおかしい……難しいことを言うね。年の功かな? ジェネレーションギャップかも。僕にはおっさんの言ってること分からないや。
都合の良いことに屋敷の主人は留守みたいだ。
使用人たちには幻術を掛けて、僕らを視認できなくした。
こそこそ忍び足で捜索して、私室兼執務室を発見。……公私を混ぜるのはやめた方がいいよ? 常に仕事が目の前にあるって嫌じゃない?
まあ、そんなことは置いといて【解析】。調べるのは隠されている書物。隠されてるものって限られてるから検索条件絞るのにちょうどいいんだよね。悪事の証拠なんだから当然隠してるでしょう。
……はいはいはい、出てきましたよ改ざん前の帳簿が。悪いことするにも経理は大事だもんね。
「ひゃー、豪快に自分の懐に持ってってるねぇ。大胆!」
金の流れは悪事の流れ。
引き出しから出てきた改ざん後の帳簿と照らし合わせるとよく分かる。ちなみに引き出しは鍵付きだった。【解析】でピッキング余裕でした。僕なら金庫とか秒で開けられちゃうねっ。
証拠は揃った。
僕らは今晩、犯行に及ぶ。
……なんで探偵やったあとで犯罪者サイドに立つんだろうね。




