83話 ミルピィ新フォルム
気付いた。
あの奴隷少女はわざと僕に性的な話を振ってくる。
あれはセクハラだったのだ……。
許すまじ。
たかが奴隷の女の子にやられっぱなしでいいのかと。この副団長様がそんな純情を弄ばれてていいのかと。
いいわけがない。徹底抗戦だ。
さて、どうやって対抗するか……。
倒すためにはまず知ることから。幻術で姿を隠して奴隷少女の監視を始める。
僕が仕事中は無理。最近は忙しく働いてるからね。
食事中も無理。彼女達と一緒に食べるつもりもない。
そして、全く監視できないまま日は落ちた。
まあいい、まだ寝る時間じゃない。様子を見に行くぞ!
……あっ、ごめんなさいお仕事中だったようで。お勤めご苦労さまですさようならっ。
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なんか、あんまり絡みがないしすぐに相手をどうこうするのは止めておこう。
そうだな、取り敢えず幻術で姿を変えよう。女だとバレてるし小さい体だからバカにされるんだ。厳めしい男の姿ならセクハラする気も起きないだろう。
ゴツイおっさんになってもいいんだけど、折角だから義賊っぽいイメージで幻術を作っておこうかな。
身長高め、癖のある茶髪、ちょっとツリ目で自信家そうな顔、ぴったりとした服の上に動きを阻害しないゆるい上着を羽織っている。
こんなところかな。
ただしイケメンに限るという言葉がある。義賊だって不細工だったら市民の人気は得られないのだ……。だから義賊の幻術も整った顔立ちになっている。
身長もある程度無いと格好が付かないからね。あんまり僕と体格が違うと動きのシンクロ度が変わってくるから本当は低身長にしたいんだけど。
よし、しばらくこの姿で過ごそう。
その方がころころ姿を変えるよりは団員が混乱しなくて済むだろうし。
この格好で義賊活動だ。
市民にちやほやされるといいな。女の子にモテたりして。
――そうだ、奴隷少女をこの格好で口説こう。いい仕返しになりそうだ。そうと決まれば早速前言撤回してどうこうしにいこう。
意気揚々と奴隷部屋に向かう。今の時間なら大丈夫なはずだ。
隙間から様子を見て、安全なことを確かめる。……魔道具で魔力操作の練習中か。熱心なことで。
扉を開けて義賊様登場。
名乗りをあげようとした。しかし何も考えていなかった。
「初めて見る顔ね。あんたも息抜きにきたの?」
「いいや、うちに女の子達が滞在していると聞いてね、人目見に来たんだ。仕事じゃないから息抜きというのも間違いじゃないけどね」
イケメンスマイルで応える。
離れて話をするのもアレだから近付く。三人とも床に座っていたから僕もあわせて座った。完全に長居する構えだ。
「でも見に来て正解だったかな。こんな美形揃いだとは思わなかったよ。こんな事ならもっと早く見に来ておけばよかった」
「盗賊のくせにお上手なのね」
「女性を愛でるのに職業なんて関係ないさ。まあ、盗賊を職業と言ってもいいのかは分からないけどね」
適当に甘い言葉を吐きながら狂乱姉さんと話を続ける。
無口なお姉さんはずっと喋っていない。声を聞いたこともない。下手に話を振ってもぎこちなくなるだけだと思う。でも、博愛キャラで来ちゃったから無視するのは不自然だ。
本命の奴隷少女は話を聞いてるけど入ってはこない。様子見してるんだろう。これはこっちとしても様子見したい。本命だからこそすぐには向かわないのだ。
取り敢えず無口なお姉さんとのコミュニケーションを頑張りたい。
彼女はこっちの話を聞いてるのかも分からない。黙々と魔道具をカチャカチャしている。魔力を流すと魔力量に応じて光るだけの魔道具だから、カチャカチャ弄る意味はない。
「貸してみて」
にっこり微笑みながら手を伸ばす。
触るのも慎重に。小動物に接するように優しくだ。
いきなり声を掛けられた無口さんはビクッとして、僕の手のひらをジッと見つめる。
そして、恐る恐るといった感じで魔道具を僕の手に乗せた。
「ここに丸いのが7つあるでしょ。魔力を流すとその量に応じて光るんだけど、皆は最大何個光らせたかな」
「あたしは、2つ光ったことがあるわね。一回だけだけど」
「光ったことありませぇん」
「あ、そうなんだ……。君はどうかな?」
無口さんに問い掛ける。
彼女は目が泳いでいた。喋ろうとしたのか口を何度か開いて、そのあと手を出した。
指を3本立てている。
「もう3つ光らせたことがあるのか。センスあるねー」
首をブンブン振っている。
言葉はないけど、コミュニケーションは取れているね。無反応じゃなくて一安心。
「でもこれ、いまいちコツがわかんないのよね。あんたはできるの?」
「俺? できるよ。見てて」
魔力を段々と込めていく。
1つ、2つと光っていって、最後には7つ全部が光って辺りを照らした。
結構まぶしい。
「うわっ、これってこんなに明るくなるんだ」
「君達の目標は魔法具に全魔力を込めることだから、7つとも光らせるように頑張ってね」
「先は遠いかなあ」
「そんなことはないさ。魔力を流す感覚さえ身につければいくつ光らせるのも変わらなくなるよ」
それからは自然な流れで魔力操作を教えることになった。
魔道具を握る無口さんの手に僕の手を添えてサポートする。
「こんな感じ。分かるかな? 俺の魔力が流れているの」
その状態で魔道具を光らせてみせる。
無口さんは手を握られて恥ずかしいのか顔を赤くしながら、コクコクと頷いた。
ちなみに魔力を魔道具に流すのはそう難しくないけど、他人に流し込むのは難しい。魔道具は人の魔力を流し込むように作られているから当然なんだけど、殆ど抵抗無く魔力が流れる。これに対して、人はそれぞれ違う魔力が既に流れているから、他の魔力を流し込もうとすると物凄い抵抗がある。
聖女の【治癒】は他人に治癒の効果がある魔力を流し込むわけだから、実は高度な魔力操作を要求するスキルだったりする。スキルの補助があるから普通の人がやるよりも難易度は低くなるけど。
僕も【解析】スキルに魔力を流して調べる能力があるから他人に魔力を流し込むことは一応できる。でも、他人を経由して魔道具に魔力を込めるなんてのは無理。普通に魔道具に触れている指先から流している。
無口さんが感じているもの? そんなの幻覚だよ。”錯誤惑う感覚”。こういうとき便利だよね。さり気なく触れている手の感触とかも変えている。僕の手だとサイズと質感が優男の見た目と違うからね。
幻覚でも、僕の魔力操作の感覚を直接伝えているわけだから結構いい練習になったと思う。
狂乱姉さんは何回も2つ光らせた。3つ光るときもあった。
無口さんは、なんかテンパっててそこまで変化なし。でも3つ光らせることはできていた。
奴隷少女は、光らなかった。
……いい練習に、なったと思うんだけどなぁ。1つも光らないのはちょっと自信なくす。
頑張って、この遠征拠点を引き払うまでにはマスターしてほしい。
それにしても、あんまり奴隷少女と話せなかったな。
まあ、最初だしね。徐々に攻めていこう。




