82話 やめません? その話題
拠点が完成してから僕たちは、充実した盗賊生活を送っていた。
朝起きたら当番が作った朝食を食べ、拠点を出る。
その日の待ち伏せポイントまで着いたら獲物が来るまでひたすら待つ。大体はこのタイミングで昼食を食べる。
獲物が来たら襲って、戦利品を拠点に持ち帰る。あとは戦利品の品定めなんかをゆっくりして、夕食。
僕は夕食を食べ終わったら温泉入って部屋に戻るんだけど、他の団員たちは性奴隷を使って毎晩お楽しみだったりする。
あの首輪、ハイペースで魔力を奪っていくのだ。それに加えて魔力操作の練習に魔道具を使っていて、まだあまり魔力を扱えないとはいえそれなりに魔力を消耗している。毎日補充しないと厳しい状態らしい。
奴隷たちがどういう気持ちでいるのかは分からないけど、今のところ反発したりはしていないようだ。
気になりはするんだけど、まあ、その手の話に触れたくないからスルーしている。
今日も戦利品を手に拠点へ帰ってきた。
今回戦った護衛の冒険者はなかなか手強かった。あそこの待ち伏せは警戒されてきているみたいだから、そろそろ別のポイントへ移ろう。
本格的に討伐依頼が出るまではここの拠点付近で活動するつもりだ。
やばいと思ったら即座に拠点を捨てて撤退。元のアジトへ帰還する。
稼げるときに稼ぐのだ。
「んー、これも倉庫の肥やしかなぁ」
食料、日用品、金銭以外は大体そうなる。今回も衣類や装飾品の類が結構ある。
でも、持って帰ることを考えると厳しいな……。なんとか販売経路を確保したいところだ。
近くの町に入ることは難しくないんだけど、普通に足が付くからね。闇市なんかがあればいいんだけど、行ったことのない町だから探すのに手間取りそうだし絶対ぼったくられる。多少はしょうがないにしても、足が付くリスクがあるから品を見せてから交渉をやめることはできない。買った側にもリスクはあるけど、査定するだけならそんなものはなく通報されてしまうかもしれないからね。闇市が一々通報するのかは分からないけど。
そもそもなんで装飾品とかを取り扱っている商人を襲ったのかというと、貴族関係に狙いを定めているからだったりする。
貴族関係を襲ったら危ないのは承知の上。でも、この遠征は短期決戦で長居はしない。貴族の耳に入る前に撤退すれば大丈夫ってわけ。
あと、義賊作戦であんまり市民の敵にならないようにしようと思っている。だからそのうちネズミ小僧みたいに金銭をばら撒こうかなと。売るのに困る貴金属もばら撒いていいかもしれない。市民がこぞって闇市に売れば足も付かないだろうし、いいかも。
まあ、義賊作戦は性奴隷たちを解放した後に嘘がバレて通報プラス情報提供なんてことにならないための追加措置だ。短期決戦だから本当はやる必要がない。
「お、女性用品発見」
石鹸やシャンプーが補充できるのは嬉しい。これが手に入るのは半ば運だからね。
あと、香水か……一応貰っておこうかな。
衣類が何着かあるけど、これは後でサイズが合う物があれば貰おう。
自分の取り分を確保したら、こっそりと自分の部屋に戻る。ふふっ、後で団長にも分けてあげよう。
さてっと、オッフロ~オッフロ~。
「あ、旦那。なんか魔道具っぽいのが幾つか出てきたから一応見てくれよ。そういうの得意だろ?」
「えー、今からお風呂なんだけど。早く汗流したいんだけど」
「効果の分からない魔道具なんて危ないだろ。すぐ終わるから」
しょうがない、入浴はもう一仕事終えてからだ。
=====
「くそぅ……なんだよカンシャク玉の魔道具って。別に魔道具の必要ないじゃん。その分無駄に派手だったし」
しかも踏んだら誤爆するし。魔力充填済みだったよちくしょう。
魔道具の鑑定中に袋を落としたらその中からコロコロと玉が何個か転がり出てきて、それがカンシャク玉だとは知らずに踏んでしまったのだ。
軽い光に派手な音。それに煙まで出てきてプチ騒動になった。特に踏んだ途端に大きな音を立てて破裂したことに驚いた僕は腰を抜かした。うひゃあって、ちょっと悲鳴を上げてしまった。
危険物かと焦った団員が僕の方に近付いてきて、他のカンシャク玉を踏んだりしたもんだからなかなかのパニック具合だった。危険物に近付かないでよって。僕のために近付いたわけだから怒るに怒れなかったけど。
あと、地味に煙が多くてむせた。
後始末なんかをやって、お風呂の時間が大幅にずれてしまった。
やっと入浴タイムだ。時間も遅くなったし上がったらすぐに寝支度をしよう。
「あ、お先してますぅ」
「…………」
奴隷少女が先に入っていた。
【虚像】で自分の姿に幻術を掛けておく。
「着衣入浴ですかぁ?」
「幻術だよ」
「別に、女の子同士なんですから恥ずかしがらなくてもいいんですよぉ」
「僕、女って言った覚えないんだけど」
「そんなの見れば分かりますよぉ。仕草や言動、身だしなみ。男と女じゃ全く違いますよ?」
え、そんなに? そんなに分かるものなの?
ま、まあ、奴隷たちの前で男の姿の幻術を使ったことが無いから団員と違ってそういう先入観がないんだろうけど?
「副団長さんは、とっても女の子らしい匂いがしますしねぇ。あ、私鼻が利くほうなんですよぉ」
「ぁぅ、匂いって、そんなに分かるの?」
「男女差くらいは比較的誰にでも分かるんじゃないですかぁ? この時期の男は臭いますし」
確かに男の汗臭さに比べられると、流石に分かるかもしれない。
ずっと立ちっぱなしというわけにもいかないから、取り敢えずお湯を掛けた後に温泉に浸かる。
「はぁ~……」
気持ちいい。
一日の疲労が抜けていくようだよ。
あー、眠気が……。
「こんなところで眠ると危ないですよぉ?」
「うぅん、分かってる……」
「ところで私、気になったことがあるんですけど訊いてもいいですかぁ?」
「なに……」
「この首輪って、同性でも魔力を補充できるんですかねぇ」
「んひゃっ」
寛いでるところにツンってされた。わき腹。
「今の、素の声ですかぁ? 随分可愛らしいですねぇ」
「このっ、あんまり副団長ミルピィ様を馬鹿にするんじゃないよ! うちじゃ一番強いんだからね!」
「小さいのに凄いんですねぇ」
こいつ、なんでこんなに余裕あるの!? 奴隷だよね!?
はあー、温泉の熱で怒りが流されていく。ぐぬぬ、やり返したいけど気力が無い。
まあ、いいやー。
「一応同性でも補充できると思うよ。男の精気を吸収するのがメインだから、だいぶ効率は落ちるだろうけどね」
「そうなんですか。それじゃあ、副団長さんもいつでも来てくださいねぇ」
「行かないよ。何言ってるの」
「副団長さんは同性では嫌ですかぁ?」
「嫌じゃないけどそれとこれとは話が別……あっ」
「なるほど、嫌ではないと……」
この子ホントやりにくい。
苦手だ……。
「そういえば他の二人は?」
「まだお部屋でぐったり休んでいますよ。もう少ししたら来ると思いますけどぉ」
「なに、ぐったりしてるの?」
そんなに首輪の影響が強いのかな?
「ええまあ、やっぱり複数人相手だと疲れますよねぇ。私、妊娠しちゃったらどうしましょう?」
「うぐっ、そっちか……。魔力に変換しているから、妊娠はしないはずだよ。100%ではないけど」
「それなら安心してやることやれますねぇ。避妊機能も備えているとは、流石はマジックアイテムといったところでしょうか」
「あのさ……………………もう勘弁して……」
ギブアップ。僕は頭の上に載せていた白いタオルを上に放った。




