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81話 偽善者を騙る小悪人

 発熱で一日駄目にした。

 一日経ったら熱は引いたけど、病み上がりだから安静にだね。

 でもまあ、昨日よりは断然動ける。


 僕は昨日1日休んだけど、団長は働き詰めだったようだ。

 僕の看病が加わって仕事が増えたのは申し訳なかった。忙しくてもこまめに様子を見に来てくれた団長には感謝感謝だね。

 その団長は今日も起きるのが遅い。もう少し寝かせて上げよう。そうだ、膝枕をしてあげよう。


 寝ている人の頭を起こさないように持ち上げるのドキドキする。女性に対する感想じゃないけど、重い。人の頭部が重いって話で、別に団長の体重は関係ない。団長の場合胸も重そうだけど。

 いい感じに持ち上げたら太ももを滑り込ませて枕にする。


 …………ふぅ。

 なんだかこそばゆい。

 団長って僕の保護者みたいなところがあるけど、この状態だと立場が逆転している感じ。……いい。

 なんとなく、母性のような気持ちが湧いてくる。


 本当に疲れているみたいで、団長はしばらく起きなかった。

 慈愛に満ちた心で団長の寝顔を眺め続けていると、団長はようやくその目を開けた。


「あ、おはよ」

「おはよう。何してるの?」

「見ての通り、膝枕だよ。どう? きもちいい?」

「……悪くはないわね」


 満更でもなさそう。

 そうだよね、膝枕気持ちいいよね。

 やる側も気持ちいいのは新発見だった。


 団長も目を覚ましたことだし二人で広場に向かう。

 そして朝食を食べているときに、奴隷たちの食事を思い出した。昨日朝食を出したっきりだ。

 奴隷の扱い的に一日一食でもいいんだろうけど、そんなつもりはなかった。襲ってきたあっちが悪い。

 ……まあ、理由は分かり切っているし理解できるものだから、一日食事を抜いたことで水に流してあげようかな。何もしていない奴隷は完全にとばっちりだけど、それは連帯責任ということで。


 僕たちの食事が終わったら昨日同様に奴隷たちの食事を持っていく。

 前回と違い団長も一緒だ。


 奴隷たちの居る場所には、いつの間にか扉が設置されていた。

 昨日寝ている間に団員の誰かが作ったのだろう。扉を開けて、奴隷たちとご対面。

 団長は初対面だったりする。


「あ、おはようございますぅ……なんで隠れているんですかぁ?」

「別に隠れてないよ。ミルピィ様は副団長だからね、団長の前に出たりなんてしないの」

「そういうことは、私の裾から手を離して言いなさい」


 この言い訳は無理があったか。

 まあいいや。団長の後ろに隠れたまま話を進めるとしよう。


「あれ、そっちのお姉さんが盗賊の団長……?」

「そうだよ! シェイプル盗賊団団長のシェイプルさん!」


 身内以外に団長をお披露目する機会が今まで皆無だったからちょっとテンション上げていく。手配書に名前載せたくないからね。


「へえー、人は見かけによらないものですねぇ」

「こんな顔してるけどとってもワルなんだよっ!」

「その言われ方はなんだか釈然としないわね……」

「盗賊がワルじゃないわけがない……!」

「そうなんだけど!」


 因みに、団長のワルとしての威厳は僕が後ろに隠れて裾を掴んでいることで相殺されている。訂正、団長にワルとしての威厳なんて殆どないから相殺っていうかマイナスだ。

 まあ、場を和ますための冗談はこのくらいにしてっと。


「君たちの食事はここに置いておくから」

「わーい、お腹空いてたんですぅ」

「本当は三食用意するつもりだったんだけどね……!」


 奴隷少女の無神経さに少しイラっとしたけど我慢我慢。


「というかさ、うちとしては君たちを解放してあげようと思ってたわけ」

「え、そうなんですかぁ?」


 この発言には今まで無視を決め込んでいた残り二人の奴隷も反応を示した。


「シェイプル盗賊団は賊は賊でも義賊なわけ。奴隷商はともかく、理不尽に奴隷にされた君たちのことをそう悪いようにはしないつもり」

「嘘を吐くな! いい様に使って、今も拘束したままじゃないか!」


 はい、嘘です。

 でも、今回のことには正当性を付けられる理由があるんだなぁ。


「君たち、その首輪を付けられてからだんだん苦しくなっていったでしょ」

「ええ、そうですけどぉ……」

「そして、その……あれの後は回復したでしょ」

「あれってなんですかぁ? はっきり言ってくれないと私分からないですぅ」

「その、え……と」

「いいから、話を進めなさいよ」


 まさかの狂乱姉さんから助けが。いや、単に急かしただけだろうけど。

 怖いから言う通りにしておこう。


「その首輪はマジックアイテムでね、魔力を奪い続けて命を蝕み、そういうことをすることで魔力補充ができる効果があるみたいなんだ。つまり、死にかけていた君たちの命を救うにはああするしかなかったんだよ」

「……うーん、あれとかそれとか分かりにくいですぅ。もっとはっきり言ってくださいよぉ」


「おい奴隷立場をわきまえろ」←僕

「義賊こわっ」←団長


「「「…………」」」


 僕も僕だけど、団長がそんなツッコみするから白い目で見られちゃったじゃん。せっかく義賊って設定にしたのに早くも信憑性がやばい。


「じゃあ、あんた達義賊様はこれからあたしらを解放してくれるのか?」

「いや、今解放しても困るのは君たちだよ。その首輪がある限りね」

「じゃあ結局、あんたらの言いなりってわけじゃないか……!」

「だからさぁ、その首輪を外す手伝いをしてあげるって話だよ」

「え……?」

「それ外したら解放って流れだったのに、危うく殺されかけて参ったよー。あーあ、首の痣が疼くなー」


 これ見よがしに首を強調。ここ。ここがちょっと痣になってるの。

 どうやら効果があったみたいで、狂乱姉さんは申し訳なさそうな顔になった。


「でも、信じられないわ。あたしらは奴隷にされて、盗賊に捕まったのよ。そんな都合のいい話」

「別に信じる必要は無いよ。だって今の君たちは奴隷で、主人は僕たちだ。君たちはただ命令に従って、そして解放されて自由になればいい」

「それで、いいの?」

「というか、君たち三人を置いておくと食費がね。奴隷ってのは懐に余裕がある金持ちが使うものだからね、それを三人もなんて維持費が大変なんだよ」


 お金の話はそれなりに信憑性があったらしく、狂乱姉さんも少しは信じてくれたみたいだ。

 彼女は僕の首を絞めたことを謝ってきたから、僕は快く許すことにした。あの状況じゃイチかバチかで襲ってきた彼女を責めることはできない。首に痣ができたし心に深いトラウマができたけど、許すしかない。ガチな顔で首絞められたときの恐怖は半端じゃなかった。彼女の顔を近くで見ただけで震えあがってしまいそうだ。


「ところで、この首輪はどうやったら外れるんですかぁ?」


 話がひと段落したところで奴隷少女が訊いてきた。

 普通じゃ外れないし、鍵の類もないからもっともな疑問だろう。


「ミルピィ様の調べによると、魔力が満タンの状態でその魔力を首輪に流し込めば外れるみたいだよ」

「へえ……ん? 魔力を満タンに……?」

「まあ、そういうことだから、すぐに外すのは無理かなぁ」


 魔力を満タンにするのは、まあ、頑張って。


「そもそも魔力を流し込むとかどうやればいいんですかぁ~」

「……後で、練習用の道具を渡すね」


 そっか、できないのか。

 確認してみたら三人ともできなかった。是非頑張って身に付けてほしい。


 食事を終えた三人から食器を回収して、一度この部屋から出ることにする。


 さて、僕から君たちに一つ言っておくことがある。

 状況判断を一人の言葉だけでしてはいけない。その人は自分に有利なことしか言わない。ましてや盗賊の話を鵜呑みにするなんて以ての外だ。

 確かに首輪は外して解放するつもりだ。でも、僕だったらこんな状況であんなことされたら絶対に信じないし許さない。そんな考えの人が自分達を良いように騙って行為を正当化してみせたんだ。普通に盗賊やってるだけなのに。悪人だよ、結局は。

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