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80話 フードが無かったらもっと痛かった

 寝起き。

 ちょっと体温高め。今日は安静にしないとかな?

 最近は調子よかったから油断してたかも。何だかんだこの間受けた聖女の【治癒】が効いてたんだよねぇ。


 いつもだったら団長に伝えたあとは部屋でゆっくりして過ごすんだけど、今は遠征中の拠点。まだ大まかな空間が幾つかあるだけの洞窟だから、自分の部屋がない。

 寝る場所は団長と僕、それ以外の団員、奴隷、虜囚の4組で分かれている。


 まあ、立ち入り禁止にしてこの部屋で休むこともできるんだけど、今の僕には休めない仕事がある。奴隷たちの世話だ。

 昨日は疲れてて軽く放置しちゃったから、今日は相手しないと。


 無理すると体調が悪化するから、身体を動かしすぎないように気を付けよう。


 珍しく、団長がまだ眠っている。

 遠征の移動に加えて洞窟の突貫工事をしていたのだから無理もないか。

 僕は不健康児だけど朝は規則正しく目を覚ます体質だ。体力が無い分夜更かしせずにぐっすり眠れるからかも。

 というか、生活リズムを崩すと体調も崩す。


 髪を櫛で整えたあとに髪紐で結んでいると、ようやく団長が目を覚ました。


「……おはようミルピィ……今何時?」

「そろそろ朝食の時間かな?」


 洞窟の中では時間が分かりにくい。時計も無いから感覚頼りだ。僕は体内時計に結構自信がある。

 身支度をして他の団員のもとへ行くと、朝食の準備をしているところだった。


「おっ、団長に旦那、おはようごぜぇます!」

「あれ、旦那? 昨日はどこで寝たんだ?」

「待てよ、部屋割り的に団長と一緒じゃないか!?」

「おはようみんな。ふふっ、悪いけど昨晩は楽しませてもらったよ」

「何をだ!! 何を楽しんだと言うんだ!?」

「まさか!? 我等が団長に!?」

「いやぁ、良い寝顔だったよ」

「ちくしょう!! 寝顔なんて普段見れないのに!!」

「俺も寝息と共に規則正しく揺れる双丘を拝みたかった!!」

「今胸の話なんてしてなかったじゃない!? というか、朝から私をネタにして騒がないでくれないかしら」

「サーセン」


 朝の挨拶? を終えたら朝食のお時間。

 さて、本日のメニューは?


 限りなくお湯に近いスープ。

 落とすとゴツッと硬く鈍い音が鳴る丸パン。


 スープは昨日襲った奴隷商が持っていた魚の干物が使われているけど、残念ながら団員の人数に対して干物の量が少なかった。

 丸パンは保存特化型食料だから味も食感も死んでいる。表面がガッチガチなお陰で保存が効く。ただそれだけ。半端な糖分とかむしろ保存の敵。


 パンはスープに浸すことで柔らかくして食べるんだけど、丸い状態で浸しても表面の密度のせいで全然ふやけない。

 マジックアイテムのナイフを寝るのに使った部屋から転送テレポートで手元に呼び寄せ、パンを叩き割るようにして切る。転送テレポートを使うと汚れがない清潔な状態になるのが地味に便利。ついつい食事にも使っちゃうんだよね。高価な食器ですこと。


 誰かは知らないけど団員の真心が籠ったとても温かいマズ飯をいただいたあと、一度部屋に戻る。

 ……やっばい寒くなってきた。思ったより熱出てきたかも。

 取り敢えず着込んでおく。ダブルパーカーですね。

 肌が過敏になっていて気分が悪い。楽な服装に着替えて布団に包まるのが一番なんだけど、我慢我慢。


 再び朝食の場に戻り、奴隷たちの食事を受け取る。


「うわっ、暑苦しい。季節間違えてんじゃないの旦那」

「好きでこんな恰好してるんじゃないよ。うつしてやろうか、ゴホッゴホッ」

「もう風邪引いてんのかよ!? 遠征始まったばっかだぞ……ちょっ、流行ったらシャレになんないって!」

「仮面付けてるから大丈夫大丈夫」

「心許ねぇ……」


 受け取ったら、奴隷たちのもとへ。

 さあ、ご飯だよー。


 奴隷たちには行動を制限する足枷と手枷が付いている。

 あくまで制限する程度で、封じるものではない。手枷を繋ぐ鎖は長く、足枷と繋がっている鉄球も普通に持ち上げられる重さだ。

 どれも最初から付いていた。寝ている間に逃亡されても困るから付けたままにしている。あ、困るのは隷属首輪を外せない奴隷達の方ね。僕は奴隷が居なくなっても困らないから。


 でもまあ、枷と鎖と死んだ目でぐったりしている女……犯罪臭しかしない。

 それが事実で、しかも自分が加害者。……うわぁ。

 なんだろう。言葉にならないです。


「あー、ごほんっ! ……けほっ、けほっ……あぁー、ご飯だよぉ」


 真面目にやろうと咳払いして普通に咳込んで気力削がれた。風邪引いているときに喉へ負担かけちゃいけない。

 そんな僕を見る三人。

 さっきまでブツブツ呟いていて今はジッとこちらを見る女性。

 ボーっと死んだ目で顔をこちらへ向けた女性。

 じーっと僕のことを見つめてくる女性っていうか少女。


 ……怖いわっ!

 全員顔が整っている分余計に怖い。……少女はなんか、ただ気になって見ているような、興味混じりの感じがするけど。


 誰も取りに来ないから僕の方から配りに行く。

 一番怖くない少女から。


「ありがとうございますぅ」


 お礼言われてもね。

 笑顔で言ってくるんだから大したものだ。……何考えてんのか分かんなくて怖い。


 次、死んだ目のお姉さん。


「……………………」


 まあ、そんな気はしてた。

 こっちを見ているけど焦点が合ってるんだか合ってないんだか。……いや、その目やめて怖い。


 最後、ブツブツ言ってた独り言姉さん。


「…………………」

「……(コトッ)」

「――フシャアア!!」


 器を置いた途端襲いかかってきた!?

 不意打ちで手枷の鎖を放り、手早く僕の首に巻き付けてきた。

 同時に、押し倒される。


「――っ!? ――っ!?」


 凄い力強い!? というか僕が弱い!!

 "共鳴する幻狂い"で痛みをシェアする。


「ぐっ、う……」


 女性が首の苦しみで呻く。

 僕は首絞められてるから声出ません。

 転送テレポートでナイフを取り出して女性の胸に添える。


 ……いや、放してって!!

 ナイフ向けてるでしょ!?


 【虚像】で威圧感やら殺気やらを飛ばして恐怖感を煽ることでようやく鎖を放してくれた。


「ケッホ、ケホッケホッ」


 ……あぶながっだ……。

 ちょっとちびっ……てないよ! 危なかっただけで!


「いやぁ、危なかったですねぇ」

「全然ちびってないよ!?」

「え、いや、普通に命の心配だったのですけどぉ……え、まさか」

「全然。全然だから。もうヨユーだったから」


 ていうか気安く話し掛けないでよ。今お宅のお姉さんが何したか見てたよね?

 あああぁ……首、痣になってるかなぁ。不幸中の幸いで今日は厚着だったから、大丈夫かなぁ?


「ぐすっ……首痛い。頭ガンガンする。寒気する」

「ああ、暑そうな恰好だと思ってましたけど風邪引いてたんですかぁ」

「頑張ってお世話しに来たのにこれだよ。もうやだ帰る」


 その気になれば部屋から出られる状態にしておくのが怖くなったため、部屋に幻術を掛けて扉を消す。

 そして、"錯誤惑う感覚"で方向感覚を狂わせて決して扉に辿り着かないようにした。


 その後、部屋を出た僕は団長に泣きついた。

 狂乱姉さんのせいで風邪が悪化したため、そのまま団長に看病してもらうことになった。

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