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77話 ちょっとそこで盗賊ってくるよ

「ミルピィ、もうそろそろ出発しないと」

「ねーむーいー!」


 当然のように寝不足。寝袋が手放せない。


「今日目的地に着かないと、また変なところで野宿になるわよ」

「うぐ、じゃあ、あと10分だけ」

「それもう3度目じゃない!」


 流石の団長も堪忍袋の緒が切れたようで、寝袋を持ち上げて強引にぬくもりの中から引っ張り出された。

 あぁ……僕の寝袋が……。寝るまでは、こんな寝苦しい物とか思ってたけど今となっては名残惜しいよ。


 しょうがない、無理矢理起こされたことだし、そろそろ身支度でも整えるとしよう。

 お顔洗ってきまーす。


「洗顔? この辺りに川は無いし、飲み水の量を考えると今ある水も使えないわよ」


 おー、ジーザス。

 なんということでしょう。目的地まで一日で向かう予定だったから、こういったところで不備が。


 うぅ、これもしょうがない。諦めるしかないみたい。


「ほら、これ旦那の分な」


 横から渡されたのは、今日の朝食。干し肉と固い丸パン1個。わぁ、質素。なんだか懐かしくもあるね。

 凄くアゴ疲れる。でも、これをしっかり食べないと熱中症の危険が高まる。フードと仮面で日光を遮って冷房魔法具フル稼働してるからあんまり心配してないけど。でも、動いて汗掻くから塩分は必要。


 アゴを鍛えた後は、素早く荷物を纏め直して移動再開。

 2日連続野宿を避けるためにも、早め早めにね。


 そして、疲れの残る足を動かすことしばらく。

 休憩を挟みつつ進むこと更にしばらく。

 ようやく目的地に着いた。町とか分かりやすい目的地ではないけど、前から検討して決めた場所。森の一部で、岩壁になっているところだ。


 ここからは団長の独壇場。

 【掘削】スキルで斜め下にどんどん掘っていく。他の団員は砕いた石や土をせっせと運ぶ。【掘削】は掘った際に出る土を掘った穴から放り出してくれるおまけ効果もあるから、削ったけどすぐ埋まるといったことにはならない便利な仕様。しかも削り取るだけでなく圧をかけて掘ることもできるから崩れない頑丈な洞窟を造れるのだ。


 アジトを造っている間、僕は休憩。力仕事は役立たずだからしょうがないね。



=====



 アジト造りも順調に進んでいるようだから、何人かで一足先に盗賊ってくることになった。

 いやぁ、ちょうど良いところにカモが来たんだよ。これは僕たちの糧になってもらうしかないなぁと。


 新入り三人組を連れて、団長の【索敵】に引っ掛かった場所へ向かう。

 お、いたいた。相手は小さめの荷馬車と単騎で乗馬した護衛。


「よし、やるぞーやろーどもー」

「「「おおー!」」」


 作戦は無い。シンプルに襲うのみ!

 進行方向で待ち伏せして、タイミングを図ってゴー!


「そこの馬車止まりなあ!」

「この道には通行料が必要なんだぜ?」

「痛い目みたくなかったら大人しく言うとおりにするんだなぁ!」


 流石チンピラ三人組。見事な小物っぷりだ。

 それに対してあちらさんは、荷馬車に乗っていた商人の老夫婦はビビりながらも「先生、お願いします!」の構え。実質四対一でも任せるとは、腕利きの護衛なのかな?


 敵の護衛が左腕をチンピラ盗賊に向けると、ガチャコンッ、と籠手からボウガンが出てきて即座に矢が射出された。

 籠手がボウガンに変型したとき、僕は転送テレポートでナイフを右手に握っておいた。それを矢に合わせて投げる。

 ボウガンの矢は速い。だけど、僕の【投擲】は弓矢に劣らない。本気を出せばもっと速い。


 キインッという鏃とナイフがぶつかる音が響き渡る。


「ひいっ!?」


 チンピラの情けない悲鳴もまた、辺りによく響いた。……僕の迎撃のスタイリッシュさ半減だよね、これ。


「だ、旦那、助かりました……」

「後、お願いします」

「あいつ強いですよ。旦那の出番です!」


 なんか、こっちまで「先生、お願いします!」状態なんだけど。

 うっそぉ、四対一がなんで一対一になるわけ? うちの団員、戦力外すぎ?


 敵さんも狙いを僕に定めた感じだし。うわっ、剣抜いて騎馬で突撃してきた!

 幻術で馬を出してつっこませる。護衛の男は急に現れた馬を幻術だと見抜くだろうけど、乗ってる馬はどうかな? 流石にぶつかるような命令は聞けないでしょ。


 馬の動きが鈍ったところを悠々と躱して、分銅付きのワイヤーを取り出す。

 くるくる回して遠心力からの【投擲】で、馬の両後ろ脚に巻き付かせる。はい、転倒。


 上に乗っていた護衛は飛び降りて無事みたいだけど、これで騎馬の有利は消えた。

 そして分身の術! ミルピィ分裂。はっはぁ、どれが本物か分からないだろう。


 分身をちょこまか動かしている間に吹き矢を取り出す。

 ふふっ、吹き矢は錫杖が使ってたけど、どうやらこれも【投擲】の補正圏内みたいなんだよね。と言ってもコントロールが良くなる程度なんだけど。錫杖のミニ吹き矢とは違って普通サイズだけど、僕のサブウェポンとして採用した。

 分身が護衛の男に肉薄することで視界を塞ぎ、分身を斬りつけて隙ができたところにフッ。


 筒を吹いて飛ばした針が護衛の男の首に刺さる。先端がちょっとでも刺さればオーケー。特製の神経毒です。


「あー、疲れた。まったく勘弁してよね、僕結構疲れてるんだから」

「ははは、流石です旦那。余裕じゃないですか」

「マジつよ……。味方だと頼もしいですわ」

「後任せるよ。抵抗されないように縄で縛っちゃって」

「了解です!」


 残ってるのは老夫婦だし、大丈夫でしょ。

 念のため伏兵が居ないか【解析】で確認……あ。


「うへ、奴隷商かぁ……」


 あの荷馬車の中身、奴隷だ。

 扱いに困るんだよなぁ。どうしよ。


「旦那、朗報ですぜ。こいつら奴隷の密輸中だったみたいなんですよ。老夫婦は商業ギルドの承認を受けていない密売人で、護衛も冒険者証を持ってねえから恐らく裏ルートの依頼です。これ、消しても後が残らない相手ですよ」

「ふぅん、人は見かけに寄らないもんだね」


 普通に気の弱そうな老夫婦なのに。いや、だからこそ金に困ってなのかな。世の中世知辛いね。


「それはそうと、君たちに教育をしてあげる」

「はい? なんですか?」

「密売の奴隷は専門ルートで売らないといけないから、僕ら盗賊は売りようが無くてめっちゃ扱いに困る。ただの物でさえ裏ルートがないと流せないのに奴隷なんて無理」

「え、そうなんですか? 奴隷は金になるから当たりだと思ったのに」

「密売人だったのは確かに足が付かない分当たりだったけどね」

「じゃあどうします? どうも性奴隷っぽいんですけど」

「えっ」


 密売の性奴隷とか、危ないネタでしかない。大体が特殊なやつか攫ったやつ。

 あと、老夫婦と護衛が生かしておくメリット皆無で逆に困る。殺す気はなかったんだけどなぁ。


 普通の商人なら足取りが消えると捜索が入る可能性があるし、そうでなくとも警戒レベルが上がる。全部は奪わずに生かして帰すと盗られた分を取り返す依頼の費用を考えて泣き寝入りする方が多く、死者が出ないと町の動きは鈍くなる。各ギルドで情報が回るのは早くなるけどね。

 でも今回の件は、老夫婦の動きを知っている者が極端に少なく、知っている人は悪人だから訴えることができない。……どうしようかな。


 まあ、困った問題は先送りにするものさ。

 次、奴隷の確認。どれどれ? あんまり人数はいないね。


 人がギリギリ入れるサイズの樽に一人ずつ詰め込まれている。頭だけ出して、首から下は自分では出られないようにしてあるね。これは酷い。具合悪そうにしている人も居るよ。


「うちらで使い捨てるのもアリじゃないですか?」


 君、なかなか下衆なこと言うね。

 でもそっかぁ、盗賊はそういうこともするよねぇ……。『奪う、犯す、殺す』だっけか。盗賊の信条。

 これもお持ち帰り案件にしようかなぁ。僕もう疲れたよ。

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