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76話 寝たいときほど

 皆で一カ所に集まって雑魚寝。

 アジトと違い、どこから魔物が襲ってくるか分からない環境だから仕方ないのだけど……これは酷い。


 魔物は団長の【索敵】スキルで感知できるからそこまで気にする必要はない。他の異変も、交替で見張りをしているから一応安心。

 でも……僕が、むさ苦しい男共と一緒に寝られるとでも?


「……寄るな」

「旦那の近く涼しいし」

「やめとけって。旦那の声がマジだから」

「でもよー」

「"共鳴する幻狂い"」


 僕の疲労を彼にも共感させる。


「な、なんだ? 身体が重く……」

「おい、どうしたんだよ――いつの間にか寝てやがる」

「そいつ退かしといて」

「こいつの身に一体何が……!」


 僕だって眠りたいよ。疲れたし普通に眠いし。

 でも、寝袋は寝苦しいし……誰だ、さっきからイビキうるさいやつ。


 どうしよう、これじゃあ今日の疲労が明日になっても残ってしまう。

 眠る方法。羊でも数えようかな……駄目だ、イビキが気になる。


「んー、もー、うるさい! 団長、団長はどこぉ?」

「多分、あっちの端の方」


 団長に寝かしつけてもらおう。

 僕、人肌の温もりに触れていると眠くなる体質だからね。添い寝効果抜群だ。


 一度寝袋から出て、それを担いで団長を探す。

 月が木で隠れていて非常に暗い。


「いてっ」

「あ、ごめん」


 誰か蹴った。

 全然周り見えないな。今夜の天気はあまりよくないのかもしれない。


「だんちょー、だんちょー」

「……ミルピィ?」


 こっちね。

 声を頼りに到着。

 団長は眠りかけていたみたいで、声がとても眠そう。これは悪いことしたかも。


「どうしたの……?」

「眠れなくて」

「そう……じゃあ、隣で寝ていいわよ」


 寝袋だから一緒に入れないのが残念だ。

 なるべく近くに寄って、すぐ傍にいることが感じ取れるようにしておく。


 あ、うるさいイビキが止まっている。今なら寝られそう。

 おやすみおやすみ。



=====



「ううっ……」


 起きた。まだ暗いのに。

 原因はすぐに分かった。こいつだ。こいつぅ、僕のこと蹴飛ばしてきた……! それなりに距離取ってたのに、一体どんな寝相しているんだ。


「このっ、このっ」


 寝袋キック。寝袋キック。

 仕返しをしたけど、彼は起きなかった。腹が立つけれど、わざわざ起こすのもアレだからイライラもやもや。

 キックで彼を寝袋ごと転がして距離を取ることには成功したから、眠気が取れる前にもう一度眠ろう。

 二度寝ですおやすみなさい。



=====



「ミルピィ、ミルピィ起きて」

「ん、だんちょぅ……?」


 団長に起こされた。

 もう朝かと目を開けてみると、まだ暗い。


「ごめんね、魔物が近づいてきたから」

「ああ、そうなんだ……」


 これだから野営は。ゆっくり眠らせてよ。

 まあ、魔物を放置するわけにはいかないからしょうがない。でも僕だけ起きて追い払ってくるのは癪だから、したっぱ君でもたたき起こして同行させよう。


「団長、したっぱ君どこ?」

「あっちの方で寝ているわよ。連れて行くの?」

「夜道は一人じゃ危ないからね」

「たぶんそれ、意味が違うわよ? それに、案内があるから私も行くわよ」


 口実なんてどうでもいいのさ。

 団長の示した方向に向かうと……いたいた。さあ、起きろー。


「……なんすか?」

「魔物が近づいてきたから追い払いに行くよ」

「うっす……ねむ」

「ほら、起きて起きて」


 起きたばかりの3人で、眠気を振り払いながら魔物のもとへ向かう。


「あ、居た」


 なんか、蛙みたいなシルエットのデカブツが。

 だいぶ暗闇に慣れた目でよくよく見てみると、その肌は毛に覆われていて、水陸両用ではなく完全に陸上仕様のボディになっているみたい。

 毛むくじゃら身体からぎょろりとした目玉が飛び出ていて、なんとも気持ち悪い。


「気を付けて、4匹居るわよ」

「え……」


 何処に……?

 少し隠れて様子を見ていると、暗闇の中にもぞもぞと動く物体が他にも見えた。毛が保護色になっていて中々見えない。


「よし、作戦はこうだ。まずしたっぱ君が飛び出す。それに食いついた魔物を幻術に掛けて動きを封じたら、1匹ずつ仕留める。以上」

「あの、もしかしなくても俺って囮……」

「したっぱ君ゴー!」

「あっはい」


 したっぱ君が剣を構えて蛙に立ち向かう。

 それに反応した蛙が動くことで場所が分かり、位置を特定した蛙から【虚像】を使っていく。


 いーち、にー、さーん。

 あと1匹。


「ターオズ、伏せて!」

「――おわっ!?」


 したっぱ君の頭の上を、何かが高速で通り過ぎていった。蛙の舌だ。

 うわ、あの蛙あぶなぁ……。団長が居てよかった。


 でも、舌が早すぎて蛙の位置を特定できなかった。

 蛙の方も動いてないみたいだし。


「兄貴、まだっすか!?」

「うーん、あの辺りだと思うんだけどなあ」

「適当に幻術掛けても大丈夫じゃないんすか? いつも見る人全員に幻術を見せてるじゃないですか」

「簡単な幻術なら効くけど、無力化できる程のは対象を定めて集中しないと無理だよ」

「俺、次避けられる自信ないんすけど!」

「あ、じゃあしたっぱ君の幻術をそこに置くから、君は隠れてて良いよ」

「幻術で良いなら俺が囮になる必要無かったじゃないですか!!」


 囮を幻術に変えて、次の攻撃を待つ――必要もないか。

 幻術したっぱ君を魔物が居る(であろう)方向に突撃させる。その幻術に、暗闇から飛び出した蛙が食いついた……!

 はい、おつかれさまでーす。"錯誤惑う感覚"で聴覚嗅覚触覚を狂わせて、幻術で視界を覆う。無力化完了です。


「じゃ、あとはよろしく」

「あ、終わったんすか?」

「うん、感覚は奪ったから。変な動きするかもしれないから、一応気を付けてね」

「了解です」


 というわけで、したっぱ君が一匹ずつ仕留める作業に入った。

 あー、それにしても眠い。思考が働かず、判断力とか酷いもんだ。動けるようにはなったけど、身体の疲労も結構残っている。

 寝ましょ寝ましょ。


 任務を終えた僕たちは寝床に戻り、残り少ない夜を有意義に過ごすことにした。

 すなわちおやすみなさい。



=====



「うぇっ……」


 嫌な感覚とともに目を覚ます。

 僕の寝袋に他の団員の寝袋が乗っかっている。また寝相で転がってきたのだろう。

 うん、こいつ、どうしてくれようか。


 これだけ寝相が悪くても起きないのだから、ちょっとやそっとじゃ目を覚まさないだろう。

 僕は起き上がると、怒りに身を任せて彼の寝袋を引っぺがした。

 奪った寝袋は僕の為に使われる。ちょうど、枕が欲しいと思っていたんだよね。


 というか、年頃の女の子にこんな起こし方しないでほしい。結構傷付く。

 はぁ、もう夜が明けそう……。

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