74話 殴り合いだー!
「あっつー」
「そうっすねー」
今日は久しぶりにしたっぱ君を連れて冒険者ギルドに来ていた。
体調が良くなってから数日、部屋に引きこもっていた僕は、団長にいい加減仕事しろと怒られてしまったのだ。ごめんねオカン、僕ちゃんと働いてくるよ。だからまた数日は部屋で休ませて。暑いんだよ。
「お待たせしました、ピーチシャーベットです」
「お、きたきた。どうもー」
ギルドは施設内に食事場もあるから便利。
今日はここで時間を潰してからお家に帰ろう。オカンの機嫌が直った頃を見計らって。あと、涼しい時間帯を見計らって。
「お、珍しい奴がいるな」
シャンシャン錫杖を鳴らしながらやって来たのは……えーと、通称、錫杖。
暫く来ていなかったからレアキャラ認定されてしまったようだ。
「どうも、ご無沙汰してます」
「錫杖げんきー?」
「お前よりは元気だ。それにしてもだらけているな」
「暑いんだもん」
テーブルにだらりと体重を乗せながらシャーベットをつつく。シャーベットは既に溶け始めていた。
それにしても錫杖は恰好が変わっていない。神官みたいな布面積の多い厚着だ。
「錫杖は暑くないの? そんな厚着して」
「ああ、いい魔法具があるからな」
「えっなにそれ」
「これだ」
錫杖が取り出したのは、手のひらサイズの短い杖。これ、前に解析したことあるやつだ。
能力は記憶した熱を放射すること。
「<伝熱の短杖>と言って、こいつは自由な温度を出すことができてな。こうして冷気を発することができるのだ」
「えっすごい。欲しい欲しいっ!」
「タダでやるわけないだろう。貴重な魔法具なのだからな」
「えぇー……」
「ああ、お前のナイフの魔法具とトレードなら構わないぞ」
「どうしようかな……」
「迷うんすね……」
価値は断然ナイフの方が上なんだよね。なんてったって手元に飛んでくる念動に新品になって一瞬で手元に帰ってくる転送の能力だからね。
でも人による需要の違いというものがあって、僕は武器より携帯式冷暖房の方が欲しかったりする。
「ナイフはあげたくないけど、その杖は欲しい」
「贅沢な奴だな……。全部が欲しいなら賭け事にでも勝利することだ」
「お、いいね。僕はこのナイフ賭けるから、その杖賭けて勝負しようよ」
「はぁ、正気か? そのナイフがどれだけ希少だと思ってるんだ」
「錫杖こそいいの? そんな希少な魔法具が手に入るかもしれないんだよ?」
「……ふむ、勝負の内容によるな」
「何がいい?」
訊くだけならタダ。
僕が勝ち目薄いやつならはぐらかそう。まあ、【解析】様が居る限りそうそう負けは無いと思う。
「冒険者同士が争うのだ。当然武力だろう」
「賭け試合ってこと。いいよそれでも」
「ふむ、いいのだな?」
錫杖こそ。
僕に勝てると思ってるの?
はっはっは、僕はあのデカイ猪も仕留めている冒険者なんだよ。戦闘系のスキルも無い錫杖なんかに負ける気はしないね。
「ならリークル聖女にも声を掛けておくか」
「え!? なんで!!」
「怪我をしてもいいようにだが? 今は居ないようだが呼べば来るだろう」
「えー。というかどうやって呼ぶの?」
「普通に彼女の泊まり先へ行くだけだ。居なければ諦める」
聖女が居たほうが互いに全力を出せるというのはその通りだから、断ることもできずに錫杖が呼びに行くことになった。
錫杖が帰ってきたら決闘だ!
=====
「ミールちゃん頑張ってー!!」
「ノルロークなんかぶっ飛ばせー!!」
「兄貴ファイトー!」
聖女は来た。
あと、いつの間にか不死身君も来ていた。
「何故かは知らないがアウェーだな」
「理由は自覚あるでしょ」
場所は冒険者ギルドの裏手。
広さは申し分ないけど、障害物がないから正面からぶつかっていくしかない。
まあ、特に準備は必要ない。始めようか。
試合開始と同時に錫杖がとりもち錫杖の先で砂をくっつけ、砂の塊を投げ飛ばしてきた。
そして近くまで来た砂の塊は、突然ばらけて砂の雨に変わる。空中で粘着を解除したようだ。
「うわっ、ぺっ、口に入った!」
僕はそれを、まともに喰らった。
何も飛び道具なんて無いと油断していた。
あ、目にも入った。
目をこすろうとしたとき、錫杖が一気に距離を詰めて錫杖で突きを放ってきた。【解析】で動きを読んで、辛うじて避ける。そのまま距離を取る。追撃はなかった。
「どうした、その程度か?」
錫杖が余裕ぶって煽ってくる。
むかつく。
ベルトに仕込んである投擲用のナイフを三本抜いた。それをポイっと捨てる。その直後にマジックアイテムのナイフを転送で手元に呼び寄せる。
そしてナイフを振りかぶって――捨てたナイフが地面に落ちる直前に蹴り飛ばした。
手で投げるのが投擲。でも僕のスキルは飛ばすことに対してならある程度効果がある。
蹴り飛ばした三本のナイフは錫杖男目掛けて綺麗に飛んでいく。錫杖がそれを避けたり弾いたりしているところへ【投擲】。マジックアイテムのナイフを全力投擲。
避けるのは無理な体勢だった。錫杖はちょうど投擲用ナイフを防ぐのに使っている。
決まったと思ったけど、錫杖は豪風に突き飛ばされてナイフの軌道から外れた。
<旋風の呼び鈴>
周囲に風を起こす鈴。
手首に付けて袖の下に隠していたようだ。
「跳び道具はお前の専売特許ではないぞ」
錫杖男は小さな筒を幾つか取り出して指に挟むと、その内の一つから何かが飛び出してきた。【解析】は即座にそれが小型の吹き矢だと教えてくれた。呼び鈴の風で撃っているようだ。
僕はその飛んできた棒状の矢を、キャッチした。
「専売特許だよ。僕に飛び道具は効かない」
「スキルか……」
そう、【投擲】スキルは掴みにも補正がかかる。ブーメランとかは戻ってきたのをキャッチする必要があるから、そういうのにも対応しているスキルなのだろう。
このスキルのお陰で僕は、高速で撃ち出された小型の矢すらキャッチできる。
でも、錫杖は他にもいろいろ持ってそうだよね。【投擲】も避けられちゃったし、しょうがない。【解析】の精度を上げるとしよう。
頭痛は覚悟しておこうかなぁ。
錫杖が吹き矢を同時に数本撃ち出す。でもこれは牽制だ。射出のタイミングまで把握している僕にとって避けるのは容易い。
さあ、曲芸を見せてあげるよ。
ポーチの中から分銅とワイヤーを取り出す。簡単に繋げられるようにしてあるそれらを組み合わせて、ワイヤーの両端に分銅を付ける。それをくるくる回していつでも投げられる状態にしておく。
錫杖が距離を詰めてきた。錫杖の先端が届く距離になる前にマジックアイテムのナイフを念動で呼び戻す。
ワイヤーを手放す。ワイヤーが飛んでいく方向は真上だ。
僕が一歩踏み出すと、飛んでくるマジックアイテムのナイフの軌道がずれて錫杖男に向かう。
それを避けようと体勢をずらしたタイミングで転送。ナイフを一瞬で手に握ると同時に突きを放つ。あ、僕が投擲以外でこのナイフ使うの初めてかも。まあ、投擲以外は弱いから、これもあっさり錫杖で防がれた。
と、足元に粘着が。透明なトラップを仕込んでいるみたいだ。まあ僕は【解析】で回避余裕ですけど。
投擲用ナイフを幾つか取り出して、これも空高く放り投げる。
そんなことを近距離でやっているからその隙に錫杖で攻撃されるけど、【解析】が筋肉の動きから予備動作を把握して、相手が動く前に最低限の動きで避けることができる。
キンッ、と音がして、すぐにナイフが錫杖男向けて飛んできた。方向は真上。投げたナイフが上で回転するワイヤーの分銅に弾かれて飛んできたのだ。
錫杖は舌打ちを残して後ろへ跳び下がった。呼び鈴の風も利用して、一気に離れる。
「ふぅ、錫杖さあ、まだやる気なの?」
落ちてきたワイヤーをキャッチしてくるくるしながら話しかける。
「当たり前だ。まだ勝負はついていない」
「遠距離でも近距離でも僕には勝てないよ」
「どうだろうな。お前には弱点があるだろう」
「……どんな?」
「お前、疲れてきただろ」
ぎくっ。
……そりゃ、疲れるでしょ。ごく短時間の接近戦でも息が切れた。【解析】も【投擲】も着実に僕の体力を削っていく。
でも、まだ大丈夫だ。ここまでやってるんだから必ず勝つ。
「そういう錫杖もだいぶ疲れたんじゃない?」
「この程度」
「いや、疲れているはずだよ。僕はさっきから意識の隙間を縫って攻撃している。それを察知して防ぐにはかなりの神経を使っているはずだ。普段以上に疲労が蓄積していなきゃおかしい」
なんて言いながら、こっそり"共鳴する幻狂い"で僕の疲労を共感させる。これで身に覚えのない疲労で感覚が狂うはずだ。
ワイヤーを投げる。マジックアイテムのナイフも投擲。
最後に投擲用ナイフを十本。まとめて投擲
錫杖男はワイヤーをしゃがんで躱し、そのまま低い体勢でナイフも避けようとした。
錫杖の上を通り過ぎる前にナイフの念動を一瞬だけ発動してエネルギーを相殺する。速度が急に落ちたナイフに投擲用の軽いナイフが追い着いて、激突して、弾かれて軌道が変わる。横から下へと。
「ぐっ!?」
弾かれたナイフは他のナイフと当たり、それを繰り返した結果、五本のナイフが錫杖男に刺さった。
追い打ちに、マジックアイテムのナイフを念動で呼び戻せば、背後から錫杖男に突き刺さる。
「わあっ!? 終わり! 勝負ありです!!」
そこまでやって、聖女が止めに入った。
聖女は錫杖のもとへ駆け寄って治療を始める。
錫杖は【魔力感知】のスキルで敵の動きやスキルを予測して戦うスタイルのようだった。
対して僕は【解析】の高速演算とそれに従って狙い通りに投げられる【投擲】の組み合わせ。これで投擲後に変化する攻撃を行った。これにはスキルでも対応できなかったことだろう。
まあ、風の流れやナイフの弾かれる角度まで計算する離れ業だから、頭痛待ったなしなんだけど。
痛む頭を片手で押さえつつも、俯いたりはせずに顔を上げる。
そして、見下ろして勝ち誇る!
「ふふふっ、勝った!!」
高らかに宣言して、大きな声を出したせいで余計に頭痛がした。




