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73話 元気なら遊ばなきゃ

 汗も流したことだし、当初の目的を果たすことにする。

 買い物だ。聖女は置いてきた。計画通りだ。


「メイド服暑くないっ!? 布地多い!!」

「あー、我慢するしかないわよ。それにしても結構賑わってるのね」


 普段町まで来ない団長がそわそわきょろきょろしている。都会に来た田舎者みたいだ。

 でも、そんなことより僕は暑いです。【治癒】のお陰で体調は万全になったけど、暑いのに変わりはない。どうしようもないんだけどさ。あ、仮面蒸れる。幻術あるし取ってもいいや。顔の横に掛けとこ。


 団長は町に詳しくないし、僕が先導して買い物をしないといけない。

 今回買う物は、塩漬けや干し物、果物、あとはパンくらい。この暑さでナマモノは危ないからね。そもそもあんまり売ってない。

 順番に効率よく買っていく。無駄に歩き回りたくないからね。


「よし、終わり。帰ろっか」

「早いものね」

「いつもならもう少しやることがあるんだけど、今日は買い物だけ。暑いからね」


 本当は団長とショッピングを楽しみたいけど、食料買うのは面白くもないし、目的もなく歩き回るのはきつい。

 それに僕、生粋の引きこもりだから。外出自体があんまり面白くないんだよね。アジトでも団長と一緒に居られるし、早いところ帰ろう。


「あ、そっちは危ないわよ」

「何が?」

「聖女様が居るわ」

「それは危険だね。ナイスだよお姉ちゃん」


 流石団長。索敵様々だね。

 迂回して、聖女を避けてから町を出る。

 町から離れてアジトのある森へ入ると、やっぱり魔物が出てきた。安定のコボルト。


「めんどくさいからスルーで。幻術であしらうよ」

「分かったわ」


 エスケープ最強の【虚像】で難なく回避。

 無事、アジトへ帰還した。


「アジトって涼しいよね」

「日が当たらないからね」


 地下みたいなものだからとか他にも理由はあるけど、とにかく涼しい。

 これは駄目なやつだ。もう出たくない。衣食住が揃っているし、出なくてもいいでしょ。引きこもろう。


 買ってきた物を片付けるのは他の団員に任せて、あとは部屋で休む。

 取り敢えず、メイド服は脱ごう。汗かいたし暑苦しい。汲んだ水で軽く汗も拭いてっと。


 ワンピース涼しい。

 ベッド気持ちいい。

 眠いおやすみ。



=====



 お昼寝から目が覚めて、晩御飯を食べに行くと団員に声を掛けられた。


「ミルピィの旦那、体調はもういいのか?」

「うん、やっと良くなったよ。団長から聞いたの?」

「いや、旦那が1人だったからな」

「ああ、なるほど」


 最近は団長にべったりだったからね。

 うん、折角元気になったし、皆で何かやってもいいかも。


 そんなことを考えていると、何人もの団員から声を掛けられた。

 なんだか心配掛けてたのかな?


「宝探しゲームをしまーす!」


 簡単に大勢でできるゲーム。アジトはそこそこの広さだからフィールドとしていい感じ。

 ご飯を食べた後にそんな宣言をして、ルールを簡単に説明した。


「今回隠す物はこれ!」

「「「おおっ!!」」」


・飴玉の入った小袋。甘味はちょっと多めにお金を出せば食べられるけど、それでも飴は高級な部類に入る嗜好品だ。

・ワイン1瓶。以前の盗品の余り。1人で独占して飲めるのはなかなかポイント高いけど、子供たちにとっては外れ枠。

・ネックレス。普通に盗品。倉庫の肥やし。野郎が貰っても嬉しくないかもしれないけど、売ればそれなりにするはずの物。

・団長のブロマイド。僕が自作のカメラ魔道具で撮影した物。普段着の横顔。隠し場所には幻術まで掛ける予定のため、難易度高い。


 他にも、ドライフルーツなどのちょっとした物を隠すことにした。

 では、隠しに行ってきます。 


 人の私室は立ち入り禁止にしたから、共同の広場や作業場辺りに隠すことになる。

 まあ、慣れた場所だし人数多いし、結構難しい場所に隠さないとすぐ見つかっちゃうよね。


 ……隠し中……。


「隠してきたよー」

「待ちくたびれたぜ旦那!」

「団長のブロマイドはどこに隠したんだ?」

「俺にだけヒントくれ!!」

「ヒントは誰にも見つからなかった物はミルピィ様の物になることです」

「ああ!? 絶対難しいじゃねえか!!」

「私が自分の絵を見つけたらどうするの?」

「大事に飾るといいよ。それじゃあゲームスタート」


 わいわい騒ぎながら、皆が捜索を開始する。

 僕はもう、やることないんだけどね。発見報告を待つだけだ。


 それから30分後。

 難易度の低いものはそれなりに発見されたけど、高めのものは全く発見されていない。

 団長のブロマイドは幻術まであるからしょうがないとして、他はそろそろ見つかっててもよさそうなんだけど。


「あった! ワインだ!!」


 お、ようやく見つかったみたい。

 その団員は、嬉しそうにワイン瓶を握りながらこちらにやってきた。


「これ見付けたぞ」

「おめでとー。3番目くらいに難しいやつだよ」

「てか、どうやってあんな高いところに置いたんだ? 台や椅子を重ねてやっとだったぞ」


 ワインを隠したのは小広場の天井近くの壁にある照明の上だ。照明は迷宮産の光る植物を詰め込んだもの。

 アジトの天井はそれなりに高い。あんまり低いと圧迫感出るし、空気が滞るからね。


「【投擲】でちょうど上に載るように投げただけだよ」

「どんなコントロールしてんだあんた」

「スキルがあれば朝飯前」


 力加減とか回転の掛け具合とか難しかったけどね。一々そんなことは言わない。

 でも、天井まで捜索範囲が広がってきているみたいだし、そろそろ終わりが見えてきたかな?


 それから少しして飴玉とネックレスも見つかり、残すところブロマイド一つだけとなった。


 さて、ブロマイドをどこに隠したかと言うと、実は今見える場所にある。

 僕が宝を隠しに行ったときの団員の待機場所であり、今は僕の待機場所である此処、大広場。

 皆が出ていってから壁に貼って、幻術で覆い隠したのだ。ふふ、視覚的にも思考的にも盲点だろう。


「ギブアップのときは言ってね~」

「くっ、ヒントくれよヒント」

「なーい」

「実は旦那が持っているとかねえよな?」

「ちゃんと隠したよ」


 手掛かりを求めて近づいて来た団員を一蹴。これは僕と彼らとの真剣勝負だからね。敵に情けは掛けないよ。


「俺はもうギブです」


 したっぱ君がぐったりしながら帰ってきた。全く見つけられなかったようだ。

 喉が渇いたのかコップに水を汲んで、飲みながら僕の方にやってきた。その手にはもう一杯ある。


「兄貴もどうぞ」

「あ、ありがとね」


 受け取ろうとして、手が滑った。

 慌ててコップをキャッチしたしたっぱ君だけど、その中身は既に僕の服に掛かってしまっていた。


「ああっすいません!!」

「うへぇ、着替えないと」


 一旦部屋に戻るか……。

 多少げんなりしたけど、ただの水だし乾けば問題ない。でも濡れたままだと十中八九風邪引くから、そこはしっかりしないとね。


「大丈夫ですか兄貴。寒気とかはありませんか?」

「平気平気。それより着替えてくるから、ここら辺拭いといてね」

「うす……」


 自室に戻って、脱いだ服を干して、乾いている服に着替える。

 ちなみに同じ服を数着持ってるから外見に変化なしだ。


 着替え終わって大広場に戻ると、したっぱ君は桶と雑巾を用意して濡れた場所を拭いていた。……別に水を零しただけだし、アジトの床なんて地面と言ってもいいくらいだから適当でよかったんだけど。

 したっぱ君は僕が来たことに気が付くと、駆け寄ろうとした。そして、桶に足を突っ込んでバランスを崩した。……さっきから何そのドジっ子。


 からの、手に持っていた雑巾をぶん投げたー!

 雑巾は壁にべちゃっと激突した。


「まったく何やって……あっ」

「あれ?」


 雑巾が当たった場所は、ジャスト、ブロマイドを貼ってある場所だった。

 幻術が消えて姿を現す団長の写真。その姿は、汚水で汚れ切っていた。


 ショック。


「……おめでとう。これは君の物だよ」


 汚れた写真を拾ってしたっぱ君に手渡す。


「ええぇ……」


 すっごい困った顔をされた。

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