72話 どんどん属性盛り込むよっ
調子が良くなって、余計に汗をかいた気持ち悪さを感じた。
気分良く温泉に向かうことにする。
「元気になってよかったわね」
「だん、あー……お姉ちゃんにはだいぶ迷惑掛けちゃったね。今度お礼するよ!」
そういえば今は妹キャラだった。聖女にとっては冒険者ミール(♀)だからあまり気にしなくて良いかもしれないけど、設定を曖昧にするとうっかりしてしまうからね。呼び方も分からなくなるし。
「お礼なんていいわよ」
「ミールちゃん、私は? 私もお礼が欲しいなーって」
「そんな……僕、聖女様に払える程の物なんて持っていません……」
「ああっ!? 違います違います! そんな教会のお布施のような物ではなくてですね、ミールちゃんから何かご褒美があると嬉しいなという思いでして!」
「ご褒美……?」
胸元触られたしなー。
ちょっと胸元を指で触ると、聖女がそこを注視してくる。
お礼した方がいいのは分かるんだけど、する気無くすなぁ。
「一応訊くけど、何がいい?」
「そうですねえ……あ、温泉一緒に入りましょうよ温泉。金を持て余した聖女様が奢りますよ」
うわ、温泉に付いてくる理由を与えちゃったよ。でも、そっちが奢ってたらお礼にならない気もする。あと言い方。持て余しているとか羨ましい限りですねっ。
温泉は勝手に付いてくる感じだったし、しょうがない。僕の機嫌がいいことに感謝してよね。
「許可します」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「それ、逆じゃない?」
「えへへ~、あんな人ほっといて一緒に浸かろうね。お、ね、え、ちゃん♪」
「ぐふぅっ!? 雑に扱われたのと可愛さの破壊力に二つの意味で悶え死にそうです……。ミールちゃん、仮面取ってもう一回……」
違う、僕が妹パワーを見せつけたかったのはそっちじゃない。
団長には僕の姿は幼い少女に見えているはずだ。ちなみに僕の身長に合わせたら勝手に幼くなったよ。素の姿も年齢より幼く見られがちだけどね。見てくる相手は少ないけど。
聖女には仮面不審者の姿が見えているはずなんだけど、声と仕草だけで十分みたいだ。盲目かよと言いたい。
「お姉ちゃん?」
「急にそう呼ばれると……なんでしょうねこの気持ち。保護欲?」
「おおっ、これは好感触」
いつもはつれない団長が。珍しい。
この好機を逃すこと無かれ。しかし、引き出しがそこまでなかった。取り敢えず腕組んでおこう。
「ちょっと、暑苦しいんだけど」
「汗かいた後の温泉は気持ちいいよー」
「今が気持ち悪くなるでしょ」
……まあ、僕も暑くてベタベタして気持ち悪いんだけど。
身体に慣れない暑さで汗がやばい。これ、着替え欲しい。
「そういえば着替え用意しないと」
「ミールちゃんの着替えですか!? 任せて下さい! 可愛いのを用意してみせますよ!!」
テンションにちょっと引いたけど、一歩引いて考えると悪くない。
これからは聖女バンクと呼ばせてもらおうかな。
でも、汗だくで試着とかできないし、早く温泉に行きたいから手短に。
通りかかった服屋でぱぱっと選んで購入した。聖女バンクさんが。
そんなこんなでようやく温泉に到着。
そして、事件は起こった。
簡潔に説明すると、まず脱衣所で服を脱いだ。
そこへ聖女が来て驚いた。バランスを崩して、隣に居た団長を巻き込んで転倒。
結果は死者が二名。
女性の脱衣所で鼻血を噴き出すという痴態を晒した教会の聖女。
普通に頭を打った僕。
団長と転倒したときにラッキースケベをした喜びを一瞬でかき消す痛みだった。それでも揉んだ感触は脳に焼き付けてやったよ。ふへへ。
温泉に入る前に頭がのぼせ上がった聖女は寝かせておいて、二人で入浴。
お邪魔虫が居なくなったから、仮面を外して団長にだけ幻術を解除。
「見慣れた姿ね」
「今は一糸纏わぬ姿だよお姉ちゃん!」
「それも含めて、見慣れているのよ……」
くっ、今まで見せすぎたか……!
でもだよ、僕は団長の身体を見慣れていない。最近は着替えのときも身体を拭くときも一緒に居たけど、後ろを向いている生殺しだった。
別にぃ、団長の裸を見たところでどうってことないよ? 同姓だし。でも、一方的に見慣れているとまで言われるのは癪だからさ。ほんと、他意はないよ。
……いいからだしてますね。
他意はない。他意はないよ。客観的な感想をね、ちょっと抱いただけで。
「そうだ、身体洗ってあげるよ」
「ええ? 自分でやるわよ」
「いいの? 僕にはこれがあるんだよ?」
そう言って見せびらかしたのはシャンプーとボディソープ。この世界じゃ高級品だ。ちなみに僕の部屋にもある。
温泉に入る予定は無かったから持ってきて無かったけど、さっきそこで聖女が買ってくれた。聖女バンク様々です。ふふっ、貢ぎ物だけで生きていくのも夢じゃないね。小悪魔ミルピィちゃんですどうぞよろしく。
「これ、お花の良い匂いがするの」
「ふぅん……」
「ここにあるので一番高いやつなんだって。これ使えばお肌つやつや髪の毛さらさら」
「……まあ、折角だから、お願いしようかしら」
「任せて!」
勝った。
ちなみに温泉にはシャワーがある。
シャンプーは高級品なのにシャワーは一般向けの温泉にもある。この世界の文明水準は結構ばらつきがあるよね。
シャンプーで髪を洗う。この間やってもらったから、お返しだね。
次に、泡々にしたスポンジで身体を洗う。団長の背中をごしごし洗って、前も洗おうとしたところでスポンジを取られてしまった。後は自分でできるからと。無念。
「さあ、次はあなたね。洗ってあげるわ」
「お願いします」
交代して洗ってもらう番だ。
ちょーあわー。素晴らしい泡加減です。
「なんかさー、お姉ちゃん手慣れてるよねー」
「あなたが何度もさせるからよ。はい、流すわよ」
シャワーで泡を洗い流して、入浴準備完了。
まあ、温泉と言っても大衆浴場って感じの風情もなんにもないところだから、普通にのんびり浸かる。
入浴途中で、復活した聖女が入ってきた。
まだ少しぐったりしていて、静かだ。
「ミールちゃん、髪の毛はちゃんと纏めておかないとよくないですよ」
「やだ」
仮面の無い今、唯一の防御だからね。貞子ヘアー。
「というか聖女って、自分を治癒できないの?」
「できますよ」
「……やらないの?」
「あっ」
忘れていただけか。言わなきゃよかった。
目立たないところで【治癒】を使ってきて、聖女は元気になった。
「じゃあそろそろ上がろうかな」
「え、もうですか? 私、今来たばかりなのですけど」
「のぼせやすいから。お先にー」
「あぁ、ミールちゃーん……」
はー、良いお湯でした。
浴場を出て、さっき買った服に着替える。
メイド服だった。
あの店、ぱっと見普通だったのにこんなのまで売っていたのか。聖女に任せるんじゃなかった。
まあ、どうせ幻術掛けるからなんでもいいや。
それにしても、仮面にメイド服……。シュールだよね。
……下着まで任せるんじゃなかった。というか忘れてた。
まさかの黒。趣味じゃない。なんか大人っぽいやつだし。
まあ、見えないところだし別にいいや。そろそろ小悪魔ミルピィちゃんにもセクシーさが欲しいと思っていたしね。




