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6話 詩人の場合ゆっくり歩いても絵になるしね

 町の門の近くに来たら、したっぱ君の背中から降りる。

 それから幻術で姿を変える。


「あ、俺の職業『盗賊』になってると思うんすけど、どうすればいいですか?」

「君は普通にしてていいよ。僕が適当に誤魔化しとくから」


 二人で門へと近づいて、門番にステータスチェックを受ける。

 【虚像】スキルでちゃちゃっとステータスを偽造して、難なく門を突破。


「ふふん。どうだー!」

「はい、凄いです! あっさり素通りできるなんて」


 そうだろう凄いだろう。

 褒められるとやる気が出る。よし、まずは怪談からだ。


 人気のないところで詩人姿へと変わってから広場で語る。


 1時間ほど居座り続けて、お腹が空いてきたから今日はここまでにする。

 再び特徴のない平民に姿を変えて、近くの喫茶店に入る。


「兄貴、さっきまでのあれ、何なんすか?」

「怪談のこと?」

「はい、あの怖い話のことです」

「あれはね、必要なことだから」


 でも秘密。

 まあ、あれは一種の保険みたいなものだ。


「この後は冒険者ギルドに行くよ。ついでに冒険者登録するから」

「え、冒険者?」

「そう。盗賊の討伐依頼が真っ先に来るのは冒険者でしょ? だから、うちの情報が漏れたときのためにね」


 うちの盗賊団の討伐依頼が出たらすぐに知って、逃げることができる。完全にステータスを偽造できるからこそできる芸当だ。

 前の町でもやってればよかったと思う。


「でも、依頼をこなさないと名簿から削除されるはずですけど」

「最低限やれば問題無いよ。それに、魔物討伐は良い臨時収入になるしね」


 というわけで、ご飯を食べ終わったら早速冒険者ギルドに向かう。

 と、その前に路地裏。


「兄貴、また姿を変えるんすか?」

「そうだよ。いっつも同じ姿だと、何かあったときに町でしていたことが全部調べられちゃうからね」


 もし何かの拍子に盗賊だとバレた場合、冒険者ギルドへ通ったり、怪談話や買い物をしているのまで知られるともうその町で動けなくなる。

 行動パターンまで知られると先回りされて捕まるかもしれないし。


「俺はいつも同じ姿なんすけど」

「君は元々この町の人間だからね。むしろそのままの方が怪しまれないよ」


 さて、冒険者として活動するときの姿だし、ちゃんと考えて作らないとね。

 ずっと使うことになるから、使い勝手がいいものにしたい。


 女の姿だと変な奴に絡まれる心配があるから、迷うことなく男の姿にする。

 身長差があると気を遣うところが増えるから同じ身長にしとこうかな。

 あとは違和感が無いように気を付けてっと。


「どう?」

「可愛らしい男の子ですね」


 ポーチから手鏡を出して確かめる。

 ……小さな子供。しかも、下手したら女の子に見える。


 身長を同じにして、それに合わせたのがいけなかったようだ。この身長で顔だけ変えても変だし、やっぱり身長は妥協しよう。


 頭半分ほど背を伸ばして、顔ももう少しキリッとさせる。


「おお、成長した」

「うん、これでよし」


 まだ少し小さいけど、これ以上は歩幅とかずれるからね。

 詩人姿は長身だけど、あれは座ってる時間の方が長いし、大人びた雰囲気を出したかったからしょうがない。


 準備が出来たから冒険者ギルドに向かう。


 ギルドの中は男どもの声で騒々しい。

 なに昼間っからお酒飲んでるのさ。うちの盗賊団を見習え。お酒無いだけだけど。


「冒険者登録お願いしまーす」

「はいよ」


 受付はお姉さんじゃなくて、人が良さそうなおばちゃんだった。なかなかに期待を裏切ってくれる。


「それじゃ、これ書いてからこの石に触ってね」


 渡された書類は、簡単な情報を記入するだけ。


 『ミール』


 名前はもちろん偽名を書く。覚えやすいようにミルピィを少し弄っただけにした。

 あとは適当に記入するだけ。


「はい、できたよ」

「それじゃあ、この石に手を置いて」


 ドンとカウンターに置かれた青白い水晶はステータス鑑定の魔道具だ。高級なものだけど、ギルドや町の門などの要所には大体ある。

 手を置いて水晶に映し出されたそれは、嘘の塊。


 名前、年齢、性別、職業、所持スキル。

 嘘、嘘、嘘、嘘、嘘。


「はい、もういいよ」


 魔道具が嘘を表示すると疑っていないおばちゃんは、さっと目を通して紙に写した。


「俺も、できました」


 したっぱ君も書き終わった書類を渡す。

 同じように水晶に触れて、ステータスが映し出される。


 その中に嘘は一つだけ。職業以外は元々この町に居るしたっぱ君は、隠してもばれるからね。


 身分を証明するためのギルドカードを受け取って、登録は終了。ちょろいね。

 今日は情報収集のために、もう少しだけギルドに居るつもりだ。酒場を兼ねているため、幾つも並んでいるテーブルの一つに座る。


「マスター、僕、桃ソーダ」

「畏まりました」

「こっちには水でいいや」

「畏まりました」

「水……」


 髪をオールバックにした、ダンディなおじ様だったからノリでマスターと呼んだ。いや、この酒場に合ってないでしょ。

 ここに居る冒険者の人たち、ご飯をかき込んでお酒を流し込むように飲んでるのに。カウンターの向こうだけ雰囲気はお洒落なバー。


 まあいいや。


 ジュースを飲みながら、周りの声に耳を傾ける。


「お前さ、あの噂聞いたか?」

「どのだよ。噂なんてしょっちゅうあって分かんねえよ」

「最近近くで盗賊が出たって話」


 危うくジュースを吹きかけた。

 うそん。いくらなんでも早くない? 僕たちまだ何もやってないんだけど。


「ああそれか。もう少し情報が集まったら討伐依頼が出るらしいぜ」

「お、マジか、お前の方が詳しいのな。だが良いこと聞いた。盗賊討伐は運良けりゃあレアな物が手に入んだ。あいつら盗んでも持ち腐れるからよ」

「てことはお前受ける気か? リスクもたけぇぞ」

「そりゃあ実際にやり合うまで実力が分からねえし、依頼書に載ってる人数も間違ってたりするけどよ、よっぽど運が悪くなきゃ当たるのは農民の荷馬車を襲う小悪党だぜ? そりゃ農民からしたら脅威だろうけど、毎日魔物を相手にしてる俺らにとっちゃ気にするほどでもねえよ」

「そういやお前、前に盗賊とかち合ってマジックアイテム手に入れたんだったか」

「ああ、一本だけ綺麗なナイフがあったから売る前に調べたらそうだったんだよ。ありゃ笑いが止まらなかった。数人蹴散らした結果金貨数十枚のマジックアイテムだぜ」

「うへぇ、羨ましい限りだね」

「まあ、使い勝手のいい武器だったんで手元に残してるがな。あんまりにもいい物だと逆に手放せなくなっていけねえや」


 話がどんどん横に逸れてくな。

 昔のことなんかどうでもいいから今のことを早く話してよ。


「もしかして、お前のその腰に付けてるやつか?」

「ああ、そうだ」

「それが金貨数十枚……ごくり」

「おい、おいバカやめろ。絶対夜道で背後を歩くなよ」

「何もしてねえじゃねえか。……今は(ぼそっ)」

「おい、バカおい。なんか聞こえたぞ。将来もだぞ。何もするなよ」


 結局その二人は盗賊の話から脱線して戻ってこなかった。

 しょうがない、他の人の話に聞き耳立てよう。

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